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第36話:7件目の殺人の死因


 科捜研) 

「死因は分かりましたか?」


 ベテラン刑事飯島は科捜研に押しかけていた。例の合法ロリの沢口靖枝さわぐちやすえに話を聞きに来ていた。


 変死体がでると警察内部は大変だ。まずは、検視官が動く。検視官とは、病院以外で人が亡くなった場合、最初に検視を行う警察官のこと。医師免許や死体解剖の権限はない。マイナーな仕事のため過去にドラマなどのテーマとして選ばれたことはほとんどない。


 次は監察医。これは、犯罪性はないものの死因が不明な場合や、伝染病や中毒、災害による死が疑われる場合に検案・解剖を行う医師が出てくることもある。


 しかし、今回は殺害が疑われるので法医学医が登場した。捜査機関から運ばれてくる遺体を解剖し、死因を究明する専門医。医師免許は持っているが、病気の患者を診察・治療することはない。アンナチュラルなどのドラマになった。アメリカドラマのBONESなどもこれだ。


 既にこれまでの事件で科捜研が分析したこともあるので情報が集まって来ていた。検案書など報告書を見ても飯島には情報が入っていかない。いわば「通訳」が必要だった。


 これまた実績があるので科捜研の沢口靖枝に白羽の矢がたったのだ。単に飯島が目をつけただけという言い方もある。


「突然死かもしれないけど、普通だったら心臓麻痺などの自然死と判断されるケースね」


 沢口靖枝が各報告書などに目を通して答えた。彼女は報告書を読むときだけメガネをかけるらしい。その仕草がいかにも科学者らしい。


「検査で出ないのか?」


 飯島は鋭い目とイケボで訊いた。それだけで絵になるからすごい。彼の理解力ゼロをこれまでもカバーしてきたのだろう。


「検視した場合、毒の検査もすることがあるわ。でも、それは毒殺が疑われた場合ね」


 つまりは疑いがないときはスルーということ。


「一応、約200種類調べることができるけど、調べられるのは検査をした種類だけ。それ以外は個別に準備しないと結果すら出ないわ」

「おいおい。日本はいつからそんなんなっちまったんだよ」

「これでも検査する数は増えたほうよ。すごい機械を導入したから一気に200種類検査できるようになったの。それまではカンと経験でそれっぽいのを選んで検査していたのよ」


 飯島が頭を抱えた。


「自然死に見えた場合、ほぼ100パーセント検死はしない。全体でも90%くらいの割合ね」

「じゃあ、『文豪』みたいなサイレントキラーがたくさんいたら、事件にすらなってない死亡は山ほどあるってことすか!?」


 沢口が報告書をテーブルに置いてから答えた。


「まず、『サイレントキラー』は初期症状があまり感じられない病気のこと。気づいた時には致命的な状態の病気の総称よ。隠れた殺人鬼のことじゃないわ」


 次にメガネを外してテーブルの上に置いた。


「日本では2023年の1年間にに158万人が亡くなった。死因が分かってるのは約75パーセント。残りの25パーセント、つまり約40万人の死因は不明のままなの。そして、年間の殺人の数は912件」

「えっ!? じゃあ、不明の人の10パーセントが殺人だとしても4万人!? 桁が違うすね!」


 海苔巻あやめが驚いた。


「もっと検視をしたらいいって思うでしょ? 検視官は全国で400人程度。全国に均等に割り振ったとしても約9人。対して不明死が40万人。365日休まず働いても毎日約3人を検視しないと間に合わない。一方で、検視は事件性がないもので半日程度、事件性がないとしても死亡原因を探る行政解剖で1日から1日半。犯罪性が疑われる場合は、数日から1か月程度かかるときもあるわ」

「人が圧倒的に足りないのか……」


 ここに来て普段なら事件として扱わない可能性まで出てきた。


「今回『花』はあったのか?」


これまでの「文豪」の連続殺人では現場に花が置かれているのが慣例だ。それも「誕生花」。殺した相手に誕生化を手向けていくのだ。なんという皮肉だろうか。


「今回も花はあったそうよ。今回はひまわり。ネットでちょっと調べてみたら、やっぱり今回も誕生花らしいわ」

「くそっ! またかっ!」


 色々な感情から飯島は怒りが噴き出した。


「花についてはこちらでも少し調べておくわ。今回も切り花だけど、ほんの少しだけ土が葉っぱに付着していたの。土の成分を調べたらどこの土か分かるかもしれないわ。ホームセンターとかの土だったらお手上げだから、気休めだけどね」


 飯島は怒りを抑えつつも立ち上がった。彼女たちは研究室で戦っているのだ。怒りをあらわにして周囲を不快にするだけなら小学生でもできる。7人も殺されて未だ容疑者すら上がっていない。自分は自分ができることをするしかないと思い直したのだった。飯島は手短に礼を言って科捜研を出た。


「先輩!」


 海苔巻あやめが後を追いかけて行った。


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