第33話:7件目の殺人予告
警察)
すっかり気温は連日30℃を超える日のさなか、WEBでは7件目となる殺人予告が「文豪」によって公開された。
「『文豪』の7件目の殺人予告が公開された! 出版社に原稿来てないか確認だ!」
ベテラン刑事飯島の声には怒りが籠っていた。殺人を繰り返す『文豪』への怒り、犯人逮捕に一歩も進めていない自分への焦り、後輩に良いところを見せられていない不甲斐なさなど色々な感情が絡まりその感情に名前をつけることができない状態だった。
福岡市内の西早良警察署から今にも飛び出していきそうな勢いだった。
「連絡してるっす! 電話出なかったんでメールで」
「直接行って話が訊けないのか!?」
「東北すね。仙台みたいで」
ただ、行き先はなかった。これでは出られない。
事件は福岡市内で起きている。それなのに原稿が送られているのは東北の出版社。飯島には訳が分からなかった。話を聞きにいくだけなら電話で済ませろと言われてしまう距離だ。
飯島の考えでは会ったら初めて分かることがあるというもの。科捜研もそうだった。会いに行って膝を突き合わせて話したからこそ、難しい話もこちらが理解したないことを汲んで分かりやすく説明してくれたのだ。電話と報告書だけでは「ヌクレオチド」がなんなのか飯島には分からなかった。
「待てよ。なんで東北なんだ!? 本が出したいなら東京の方が出版社は多いだろ。百歩譲って近場ってことなら福岡じゃないのか!?」
「あ、それは私も思ったっす。殺人は福岡市内ばっかなんで犯人も市内かその近郊の人間すよね」
「まさか! 実は東北の人間か!? その出版で儲けるのは誰だ!? そこに手がかりがあるんじゃないのか!?」
被害者の共通点は不明。DVの関係者であることが分かったくらい。2件目の花園芽亜里以外は加害者で、彼女だけは被害者だった。
事件現場にわざとらしく置かれていた花も誕生花ということが分かったくらい。なぜ1ヶ月に1回殺人を行うのか。それも予告殺人。
殺害方法も公開されている割に不明点が多かった。1件目は首吊り自殺に見せかけた殺人。自殺として処理されてしまったので本当の死因も分からないまま。
2件目はバラバラ殺人未遂。バラバラ殺人に未遂があるのは前代未聞だし、医者によると切断面はプロの外科医で、それもかなり腕がいい外科医とのこと。
3件目は薬殺。これも医師が関係していそうだが、捜査線上に医者が出てこない。次は爆弾ドローン。ドローンを操作する腕や自動追跡の専門知識を持っている者。しかも、爆弾の知識があるやつ。続いて薬殺。メチルアルコールが使われた。自宅にいて飲酒しているやつにどうやってメチルアルコールを摂取させたのか。いまだに不明だった。
そこ次のロリコンの社会的抹殺はなんだったのか。加害者の小川は撮影した子どもたちの全裸の画像をインターネットに公開してなかった。どうして『文豪』はその写真について知っていた!? LANケーブルもつながっていないようなスタンドアロンのパソコンだったのだ。
「先輩、もっかい電話したら出版社と連絡ついたっす。原稿は送ってくれるみたいで、担当者ともTeamsで話せるそうっすよ」
飯島が一人の考え込んでいると、新人刑事の海苔巻あやめが出版社とのコンタクトに成功した。TeamsはMicrosoftのオンライン通話のアプリ。つまり、テレビ電話できるとのことだった。




