表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/77

第31話:花園芽亜里の身の潔白

 刑事二人は花園芽亜里が入院している安影総合病院に彼女のお見舞いに行った。先に主治医の森脇に話を聞いたが、順調にリハビリを進めているとのこと。その上での面会だった。そして、彼女は病室で待っていた。


「すいません。大変な時とは思ってるですけど」

「いえ、私も部屋でおとなしくしてる時間が多くて退屈でしたから」


 少し自虐的に微笑む花園芽亜里。ただ、事件直後より表情が幾分明るくなっていた。


「刑事さん、今日はなにか?」


 花園芽亜里は少し上目遣いで不安を浮かべながら訊いた。


「いやなに、その後リハビリの具合はどうかなって思ってね」

「お見舞いに来てくださったんですか? ありがとうございます!」


 花が咲いたような笑顔に飯島もつられて微笑む。陰の者、陽の者がいるとしたら、彼女は陽の者、自分は陰の者だな、と飯島は頭の中で考えた。こんな娘が中年を梁まで釣り上げて首吊りさせたり、ドローンボムで人間を爆死させたりするとはとても思えなかった。


「少しずつ手足が動くようになってきたんです!」

「それはよかった。不安なことはないですか?」


 飯島がまるで娘でも見るかのようなあたたかい笑顔で訊いた。


「はい、病室の入り口はお巡りさんに見守ってもらってますし、そのお陰か変な人も入ってきません。安心して過ごせてます! ありがとうございます」

「そうか、それはよかった」


 彼女の笑顔や言葉に嘘があるようには見えなかった。もし、彼女が犯人なら「外から誰かが来る」という発想自体が出てこないはずだ。飯島はそう考えて「花園芽亜里犯人説」はアラレちゃんの妄想だったと結論づけた。


「学校はまだ行けないだろうし、不安じゃないすか?」


 ここで海苔巻あやめが質問をした。花園芽亜里らパジャマ姿で指をもじもじさせて恥ずかしそうにしながら答えた。


「私……高校行けてないから……」

「すいませんっす。そう言ってたっすね。フリースクールすよね?」


 一度聞いた話を相手にもう一度させた場合、相手はその話に興味がなかったことを暗に伝えてしまう。


「はい、私には『HOPE(ホープ)』だけです」

「ホープ? 希望すか?」

「あ、すいません。私が行ってるフリースクールの名前です」

「あ、そうなんすか」


 ここで改めて海苔巻あやめは病室を見た。彼女だけの一人部屋なのだ。


「一人部屋なんすね。優雅すねー」

「いえ、外部からなにかあるかもしれないからって、森脇先生が特別に……。あ、これ言ったらダメだったかも……」


 花園芽亜里は少し焦ったように付け加えた。万が一、外部からの襲撃があった場合、同室の患者に被害が出るという理由で追加費用なしで1人部屋なのだという。普通なら、4人部屋、6人部屋が通常で、1人部屋となると差額ベッド代ということで保険が利かない追加請求があるのだ。


「募金が結構な額になったって聞いたっす。あのお金は?」

「募金のお金はホープで使ってもらおうと思って」


「えらいもんすね」

「入院代は保険で出るらしくて……」

「そうなんすか。入っとくもんすね、保険。先輩は保険入ってるんすか?」

「俺の話はいいんだよ」


 急に話を振られて焦る飯島。


「刑事で独り身すもんねー。保険いらないすねー」

「うるせー」

「ふふふふふ」


 花園芽亜里が楽しそうに笑う。


「仲がいいんですね。刑事さんたち」

「こいつなんかまだペーペーですからね。俺が鍛えてやってるとこですよ」

「そりゃないっすよー」


 終始漫談の様な会話。すっかり彼女とも打ち解けた雰囲気だ。


「それにしても、フリースクールってどんなことしてるんすか?」

「うーんと……小学生から高校生まで一緒に勉強したり……」


「ふーん、分校みたいすねー。見てみたいなぁ……」

「それは校長先生にきかないと……」


「どうやったら連絡できるっす? 場所が分かったら会いに行くっすよー」

「校舎には校長先生はいなくて……ほとんどオンラインです」


「「オンライン!」」


「ちなみに、校長先生の名前は……?」

「校長先生の名前は『ホープ』です」


「「ホープ!」」


 すぐには花園芽亜里が案内できないということでフリースクールは後日になった。


 ***


 彼らは花園芽亜里の病室を出るとき、入り口で警護している警察官に話を聞いた。警護は病院の面会可能時間開始前から終了後まで基本2人体制で行われていた。トイレや食事のときは1人ずつ持ち場を離れるので誰も見ていない時間は存在しない。


 その上で、花園芽亜里は1日2時間程度のリハビリのとき以外はずっと病室で過ごしているらしかった。リハビリはリハビリ室で行われるので、護衛も一緒に移動して入り口を守っていた。


 病院は面会可能時間が終わっての出入りは病院関係者だけなので裏の守衛室の前の道からになる。そこには当然防犯カメラがあるので、万一患者が病院外に出ようとしてもまず守衛に止められ、守衛の目を盗んでもカメラにはしっかり映る。入院後彼女は間違いなく病院から一歩も出ていないとのこと。


 それどころか、病室からほとんど出ないのだという。病院の窓は飛び降りや事故防止のためほとんど開かない。人の頭が通るほどの隙間は開かないのだ。彼女は病院から出ていない。


 ここで彼女は間違いなくシロだと判明した。


 ***


 2人は病院から出てきた。海苔巻あやめは怒っていた。


「なんすか、あれ! 先輩と1年も一緒にまわってるじゃないすかー!」

「バカ、一年なんて一瞬だ」


「先輩が犯人に撃たれて死ぬときは私が見取ってやろうって思ってたのにっ!」

「勝手に殺すな! だいたいお前は刑事ドラマの見過ぎだ! しかも昭和の!」


 この2人は仲がいいのか悪いのか……。それでも、最後に意見が合ったことがある。


「花園芽亜里の金を全額吸い上げるフリースクール『HOPE』怪しいっすね!」

「校長もふざけた名前だ。フリースクール『HOPE』調べてみるか……」


 フリースクールについて調べることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
オンラインにしか存在しない人がまた一人…… 手足もろくに動かせない人間に容疑をかけたのは、ここにつなげるためだったり。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ