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第29話:君の名は

 東北の小さな出版社、央端社の編集員和田は休みの日に地元の図書館に来ていた。どこがいいのか分からないので、市内で蔵書数が一番多い図書館を選んだ。「文豪」の暴露本を発売したあと、自社内の裏側公開本を出すことになっている。和田はその原稿を書くことになっている。


 やるからにはいい加減なことはせず、全力を作るのが和田という男だった。ここに来るまでにネットやニュースで事件のことを調べていた。


 図書館に来た目的は参考になるようミステリーを読むこと。普段は本のことばかり考えているので、探偵みたいなことは経験がない。ネットやニュースでの情報が材料だとしたら、それらを料理する方法を調べに来たということになる。


 さすがに「犯人の予想のしかた」という本はないと思うので、ミステリーを読むことにした。最近のヒット作は既に勉強のために読んでいたので、今回は古典的なものや定番の作品が目当てだった。


 和田は、古典を調べていて1冊目から当たりを引いた。それは明治時代に初めてミステリーの本が日本に入ってきた頃の本、シャーロックホームズの日本語版だ。


 当時の本はまだ外国人の名前に馴染みがなかったのかもしれない。各キャラクターが日本人名にされていたようだ。その中で見慣れた名前を見つけた。


『和田進一』


 そう、彼の名前そのままだった。キャラクターの名前は「ジョン・ヘイミジュ・ワトスン」、つまりシャーロックホームズの相棒の「ワトソン」だった。


「編集長はこれを言ってたのか……」


 編集長がやたらと犯人の予想へ期待してくれていた。


「ワトソン……わと……そん……わだ……」


 口に出してみたが「わ」しか合ってない。名前が同じで嬉しいやら悲しいやら……。テンションだけは上がっていて、この事実を誰かに伝えたかった。


 そりゃあ、「ワトソン」なのだからしょうがない。理由が分かると肩の力が抜けた。少し心の余裕が出てきて、じゃあ、「シャーロックホームズは?」と好奇心が湧いた。


『小室泰六』


「えーーーーーっ!」


 声を出したあと、自分の口を両手で押さえた。ここは図書館。周囲の両者からギロリと睨まれ、無言の注意を受けてしまった。


 和田は黙って本に視線を戻した。「小室泰六」確かに編集長の名前だった。そういえば、和田は自分の入社時の面接は編集長だったことを思い出した。やたらと名前は本名か聞かれたのだ。名前をつけたのは誰かなど個人的なことを聞かれ、アットホームな感じが気に入り入社を決定した経緯がある。名前をつけたのが祖父だと聞くと祖父のミステリー好きを言い当てて、編集長とはすごいなと思わされた一幕もあった。


「そりゃ分かるよ。『ミステリー好きです』って文字通り名前に書いてるようなもんだし……」


 編集長も絶対ミステリー好きだよ! 発見はあったのだが、事件の考察は全く進まない和田。かなり気合を入れて来たのに気が逸れてしょうがなかった。

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