表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/77

第28話:浮かび上がった被害者の共通点第

 警察)


「飯島さん、私気付いたんすけどぉ……」

「どうした?」


 いつもの二人は警察署でデスクワークをしていた。刑事も捜査報告書など書類作業があるのだ。物語の刑事とは違い、二人には書類作業が存在する。それは避けて通ることはできないのだ。


「3件目の伊藤や4件目の宇崎、5件目の江崎の子どもたちは決まっておどおどしてたんす。不自然な表情と不自然な行動……あれってDVがあったんじゃないんすかね。もう一度、母親と子どもに話がきけないっすか」

「そんなことより、お前は書類仕事を手伝えよ」


 海苔巻あやめは警察に就職した瞬間から飯島よりも役職は上だった。なんなら、飯島の上司の刑事部長より役職は上だ。多くの職場で書類書きなど面倒な仕事はむかしから下っ端の仕事だった。


「私、頭脳労働専門なんでーーー」

「じゃあ、これは肉体労働かよ……」


 飯島はいつも通り書類を仕上げていった。


「で、なんだって?」


 何枚目かの書類を上げて、次の報告書を書類を書き始める。


「殺された人にはみんな子どもがいました。先日の小川も含めて。そして、小川の子どもは虐待されてたんすよね。他の家はどうだったんすかね? 要するにDVの親が殺されてるんじゃないんすか」


 ***


「小川さん、大事な事なんです。教えてください」


 小川の家で飯島は再び話を聞いていた。テーブルの上には麦茶が2つ置かれていた。6月は既に熱くなっていて、初夏どころか盛夏と言ってもいいくらいには気温が上がっていた。窓は開けられカーテンがわずかな風で揺らいでいた。


「もう終わったことなんで、そっとしておいてください……」


 小川の妻は少し苦しそうに答えた。考えてみれば、やっと夫の小川秀樹から日々の暴行がなくなったのだ。一安心したいところだが、子どもも奪われた状態。自分が暴行していた訳ではないのに子どもを奪われたのだ。


 面白くない思いをしているのは間違いない。彼女は文句を言いたい相手がまだ分かっていないのだ。誰が味方で誰が敵か分かっていない状態。長期間のDVが彼女の常識を壊していった。自分を取り戻すこともまだできていない状態だった。


「子どもさんを取り返すなら、児相と仲良くやって行く必要があるっす。そのために警察と仲良くしとくのは損にはならないっすよ?」


 海苔巻あやめが麦茶を飲みながら母親に提案した。いつもはへらへらとした彼女だったが、その時は珍しく真面目な表情だった。


「答えたら、康貴を取り返せますか?」


 奥さんは上目遣いで睨むように訊いた。康貴は彼女の子どもの名前だ。


「約束はできないすけど、全力は尽くすっす」

「おい!」


 飯島が止めようとしたが、海苔巻あやめは視線を彼女から外さなかった。


「……私と康貴はあの人から……日々、暴力を受けていました。口答えしたら当然殴られて、なにか気に入らなくても殴られる。そんな日々が……もう何年も……」

「子どもたちは?」


 小川秀樹は子どもたちを攫って来ては全裸にして写真を撮っていた。それだけではなく、性的虐待も行っていた容疑がかけられていた。


「毎週……1人か2人……家に連れてきて部屋に……籠っていました。その間は、私たちは……暴力から解放されて……ました」


 ソファの上で崩れる様に告白をした彼女は肩を落としてそれ以上何も言うことはできなかった。


 その後、他の被害者の家族にも改めて聞き込みが行われた。


 1人目の秋山、3人目の伊藤、4人目の宇崎、5人目の江藤、そして6人目の小学校教師のいずれも各家庭はDVが行われていたことが分かった。


 ***


「じゃあ、『文豪』はDV夫を殺していったってことか? 人助け的に?」


 移動中のパトカーの中で飯島は缶コーヒーを飲みながら飯島がポツリと言った。視線は缶コーヒーのプルトップにあった。つまり、誰に言った訳でもなく、これまでを振り返るように言っただけだ。


「『文豪』は単なる殺人者すよ。連続殺人のクソ野郎っす」


 海苔巻あやめは飲み終わったコンビニコーヒーのカップをぐしゃりと握りつぶした。


「先輩、2件目の花園芽亜里に……話を訊きに行かないといけないっすね」

「……そうか。彼女はDV加害者には……見えないな」


 これまでに起きた6件の事件のうち2件目の花園芽亜里だけが女性なのだ。他の被害者は男性で人の親だった。花園芽亜里だけがその家の子どもなのだ。


(ガルン……)飯島が缶コーヒーをドリンクホルダに置いたら、キーを回してパトカーのセルモーターを回した。


「花園芽亜里の見舞いに行くか……」

「先輩、そろそろ私に運転変わってほしいす」


「お前の運転は怖いんだよ」

「私は運転歴10年を超えるっす。毎朝豆腐をホテルに運んでたんすから! ドリンクホルダの水を溢さないように四輪ドリフトしてたっす」

「お前はどこの走り屋だ……」


 海苔巻あやめが運転を任されるときは来るのか……。


本日7時にもう1話(ちょっと短いですが)公開いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
海苔巻、ペーペーだと思ったけれど、いつからうんてんしていたんだ。二輪の運転歴でもないようだし。 コンクリート詰め殺人の同居親族には罪はないのか。他の被害者親族から見たら、この母親も同罪に見えるだろう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ