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第25話:逮捕者出る

 小学校)


 ネットのうわさで「文豪」の6件目の殺人ターゲットが、福岡市中央区の六本松小学校の教師である小川秀樹36歳であると公開された。


『教師の小川が殺される。注意しろ』(ガチャン)


「もー、またです。朝からもう20件は電話が来たんじゃないですか!?」

「阿南先生、なんかすいません。私のせいで……」


「小川先生は悪くないじゃないですか」

「そう言ってもらえると……」


 ここは市立六本松小学校の職員室。問題の小川という教師は実在していた。ネットで殺害予告を見た人が次々電話をかけていた。厄介なのはみな親切心でかけていることだろう。


 今は授業中だが、件の教師小川はまたまた教科の関係で職員室で仕事をしていた。教頭も小川が被害者だと頭では理解しているので叱ることもできない。しかし、実際問題としてひっきりなしに電話がかかってきて業務に支障をきたしていた。


 匿名の不特定多数の「親切な」電話と状況を心配した父兄からの電話だった。その心配の先は教師ではなく、自分の子どもで「文豪」の殺人に自分の子どもが巻き込まれないかの心配であった。


「この際、安全が確保されるまで小川先生にはお休みいただきますか」


 色々問題を起こしたくない教頭の提案だった。小川としても公に休みがもらえるなら悪くない提案だった。今日はツイてる、とさえ思った。


「でも、その分小川先生の授業を誰が持ちますか?」

「たしかに、そうですね……余裕のある先生なんて今の時代いませんからね……」


 余計なことを……と、ついさっきまで後輩の教師阿南を心の中で呪った。


 この間も電話はなり続けていた。


「小川先生! 1番にお電話です」

「桐原先生、電話はつながないでって……」

「……それが、警察からです」


 その電話は他の電話とは違い、小川に取り次がれた。その電話によると、ネットでのことがあるので念の為話を聞きたい、とのこと。


 警察にしてはフットワークが軽かった。まだ起きてもいない事件について警察が動くことはほぼない。ところが、今回は先の「文豪」の事件のこともあって先手を打つことにしたようであった。


 通常なら、小川の自宅に行くだろう。しかし、予告では教師の小川が指名されていた。何かしらがあると踏んで学校に乗り込むことにしたようだ。


 程なくして覆面パトカーが問題の小学校に乗り付け、人目がない相談室で事情聴取が行われた。相談室は和室となっており、普段は生徒の悩みを聞いたり、手の空いた教師の休憩室になっていた。


 ***


「西早良署の刑事課の者です」

「あ、どうも……」


 刑事は2人組、ベテラン刑事の飯島と新人刑事海苔巻あやめの凸凹コンビだった。海苔巻がネットの噂を聞きつけ、ヒアリングしたいと申し出た。正直、手がかりは少なかったので飯島が上の許可を取った形だ。上は上で海苔巻が行きたいと言っているのだから、それを妨げると数年後の自分の出世に関わってくる。そんなリスクを負ってまでNOは出さないのだった。そんな感じでまだ起きていない事件について2人は動くことができるようになった。


「『文豪』みたいな連続殺人犯に狙われる心当たりはありますか?」


 一通りお決まりの名前や職業を聞き、小川から「文豪」について聞く。今までの被害者は話が聞けなかった。もう死んでしまっているのだから。唯一生き残っていたのは、殺されかけた2件目の被害者、花園芽亜里のみ。体調やその年齢からあまり踏み込んで聞くことができないでいた。


 一方、目の前の小川はピンピンしている。今までの被害者との共通点を見つけ出して、「文豪」にたどり着きたいと考えていた。


「全く思い当たることはありません。なんで私がってこっちが聞きたいですよ!」


 知ってます、と答えが帰ってくるとは最初から考えてなかった。スーツに身を固めた刑事飯島はいつものイケボで質問を重ねていく。


「そうですか」


 少なくとも小川は嘘を言っている目ではなかった。これは長年の飯島の刑事のカンがそう言っていた。


「仕事帰りにジムなど通っていますか?」

「……いえ。特には……」


 年齢、性別や学校、職場など共通点がないのだから、生活圏でなんらかの共通点がないかと飯島は探ってみたのだ。


「失礼ですが、夫婦仲は?」

「……普通だと思います」

「ちなみに、月のお小遣いはいくらすか?」

「おいっ」


 和室のローテーブルを挟んで向かい合って話している教師小川と刑事飯島の横からテーブルに覆いかぶさるように話に入ってきた海苔巻あやめ。


 小川としては、スーツがキマっている飯島は一目で刑事だと思ったが、着崩した普段着のこの女の子はなんなんだと思っていた。


「……こいつもうちの刑事です」


 飯島がその空気を察して少し恥ずかしそうに答えた。こいつも一応刑事なので、質問に答えてやってもらえませんか、の意味合いもあった。


「あと……えと…、特にいくらって決まってません」


 ここまでなぜこの人が「文豪」みたいな連続殺人のターゲットになるか全く分からない状態。しかし、次の質問で一瞬の淀みが出る。


「インターネットで特定のサイトにアクセスしたりしていますか?」

「……い、いえ。特に……」


 答え自体は先程と大して変わらない。突然刑事が来て色々質問してくるのだ。普通の人は緊張する。でも、今のはそれとは違う。一瞬目を反らせたのだ。その上で視線を動かさないようにして見えた。瞬きも心なしか多かった。そんな本人でも言語化するには難しいほどの些細な変化で刑事は嘘を見抜く。


「すいません。職員室の小川さんの机を見せてもらえますか? なにか予告状みたいな物が来てないかの確認です」

「あ、はい……」

「あ、車の中も見ていいですか?」


 またひょこっと横から海苔巻あやめが顔を出して訊いた。


「はい……どうぞ」


 問題なく了承された。そして、職員室の机が検められたが何も出ず。問題は小川の車の中から出てきた。後部座席の足元に花が1輪と1つのUSBメモリが落ちていた。問題は、それにポストイットが貼られていてそこに「子どもたちの全裸」と書かれていた。


「トルコキキョウ……」


 海苔巻あやめはUSBメモリよりもトルコキキョウの花の方が気になった。


 飯島の方は白い手袋をつけてUSBメモリをゆっくりとそれを拾い上げて小川に訊いた。


「これは……?」


 冷静に静かな声で問う飯島。


「え、いや……、これは……」


 明らかに先ほどとは違って、額から頭から大量の汗をかいている。


「一緒に中身を検めても構いませんか? 職員室にありましたよね? パソコン」

「えっ、いやっ……あれは、学校のです……しっ……」


 明らかに怪しい小川の挙動。隙を見せたら逃げ出しそうなので、小川の横に海苔巻あやめ、飯島は少し後ろから歩いてついて行った。万が一小川が走り出してもすぐに追いついて取り押さえることができる距離だ。


「えっと……」とか「あれ……?」とか独り言が多くなった小川は明らかにそのUSBメモリの中身を見せたくなさそうだった。


 飯島が小川の目の前でUSBメモリをパソコンに指すとフォルダの中には大量の小学生の全裸の写真が出てきた。


「これは?」

「いや! 知らない! こんなもの知らない!」

「署でゆっくりお話聞けませんか?」


 飯島の静かなイケボがそれ以上どうしてもダメだと思わせた。小川は観念した。


 その後、自宅のパソコンも押収された。中からは動画も出てきて、小学校内での盗撮と思われる動画まで出てきた。


 その事件は、マスコミに情報が漏れニュースやワイドショーで連日放送された。教師小川は一躍時の人となってしまった。


 そのワイドショーによると、なんでも次の被害者と目されていた小川の車から「子どもたちの全裸」と書かれたメモリーカードが発見されたらしい、と。付けられたタイトルがタイトルだったし、小川も慌てた様子だったので警察官と共にその中身を改めたらしい。すると、その中には男女30人以上の子供の全裸の画像が入っていたとのこと。そして、それについて小川は何も説明できなかった。


 それにより、小川の自宅が家宅捜索された。小川の自宅パソコンからも同様の子供の全裸画像が大量に見つかった。そして、学校や保護者、子どもたちからの証言では、小川はクラスの中で特定の子どもは贔屓して、特定の子どもはモラハラなどで精神的に追い詰めていた事が明るみになった。


 その後の調査で小説連続殺人の1件目の被害者秋山智也の娘、秋山白花の元担任ということも分かってきた。


 ここで、警察は小学校の教諭の小川を犯人として疑い始めた。警察のシナリオとしてはこうだ。秋山の娘、白花を小学校でモラハラ発言をして精神的に追詰め、不登校に追い込んだ事への抗議に来た秋山と揉み合いになって殺害してしまった。そして、自殺に見せかけて首を吊らせた。小説家になりたかった小川は秋山が自殺として処理されたことで自己顕示欲から一連のことを小説として書き告白。それでも、公務員だから副業は禁止なので発表の場がなく、鬱憤の吹き出し口として匿名でWEBへの公開と出版社に原稿を送った、と。


 一方、海苔巻あやめはあの花のことが気になっていた。


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― 新着の感想 ―
社会的死でも、殺人になるのかな。 児童虐待が絡んでいるのはほぼ確定? 果たして2件目は。
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