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第22話:「文豪」の本が発売決定

 央端社)


 ここは央端社。東北の小さな出版社である。新人編集員の和田は連続殺人犯である「文豪」の暴露本の出版を任されていた。


「文豪」とのコンタクトにも成功し、本の発売日が決まった。「文豪の本」が発売されのだる。彼には出版まで4か月かかると伝えたが、突貫工事で進めたので2か月で形にした。


 自費出版で進めていたある案件が、作家側の経済的理由でポシャったこともあり、計画はそのままに本の中身だけをすげ替えることに成功したのだ。「文豪」の本が出版されることとなった。


 ただ、発行部数は初版で1万5000部と決まった。これは編集長小室の考えだった。一口に1万50000部と言ってもその背景、戦略は深い。


 自費出版でよくやるのは1130部だ。100部は作家への献本。有料なのだから献本と言っていいのかは微妙だが自費出版の世界にはそういう文化がある。30部は営業が販促……販売促進のために使う。それ以外の1000部が世に出る本の数だ。ただし、作家が自分の本を書店で見ることはほとんどない。


 日本の中の書店で実店舗営業しているのが約1万店、対して本は1000部。そもそも物理的に足りない。しかも、無名作家で無名出版社から出た本を買う人はほとんどいない。当然本屋の店主も店頭に置きたいとは思わない。


 そもそも実店舗で本が売れない現代だ。それなら雑誌を置いたほうが売れる可能性がある。


 しかし、出版社としては本が売れないからそこの戦略がある。大き目な店舗に頼み込んで本を置いてもらうのだ。全国チェーンだとなお良い。本を置いてもらうだけで「販売促進費」として金を払う。すると、本が売れなくても店舗には利益が出るから本を置かせてもらえるのだ。


 作家が書店で自分の本を見られたら完了。自費出版の場合、客は読者ではなく作家だ。作家だが満足したら完了なのだ。ほとんどの作家は自分の本を店舗では見ない。取扱いの店舗がほとんどないからだ。作家からしてみれば、200万円〜300万円払ったのに店舗で本は見当たらない。購入予約注文したら店舗に届くのだが作家は近所の店舗で山積みになって次々売れていく自分の本が見たいのだ。ほとんどの場合それは実現せず、出版社に不満を言い始める。そこで効いてくるのが100部の「献本」だ。人は手元に物があると払ったお金の対価だと思うように務める。200万円で手元に本が100冊、こうして1冊か2万円の高級な本が出来上がるのだ。


 一方、今回は商業出版。出版社が出資して本を出す。発行部数の最低は1万から1万5000部。出版の初期費用を考えると利益を出すにはこれくらいの部数が必要なのだ。


 ヒットすればよし、しくじれば大赤字という博打が出版というビジネスだ。


 その博打を博打でなくするのがインターネットだった。事前に読者に作品や作家について紹介しておくのだ。専門的には「プロダクトローンチ」と呼ぶ。好きな作品や好きな作家の本はたとえWEBで読んでいても買う傾向がある。お布施文化だ。どれくらいの読者がいて、作家のファンがどれくらいいるのか。そこに会社ごとの係数を掛けると販売予定数が出る。


 央端社の場合、小さな出版社である上に大ヒットは未経験だ。「文豪」がどれほどの話題性を持ち、本がどれくらい売れるのか予想がつかなかった。そこで最低近い1万5000部。足りなくなったら増版する予定だ。増版を繰り返すとどんどん売れているように感じる。そこまで考えての1万5000部だった。


 そして、本番はその次。1冊目の「文豪」の暴露本は知名度アップと注目度アップが目的。2札目の自社の裏側公開本が利益を出す戦略だ。


 新人編集員和田はオフィス内で鼻息荒く「文豪」の暴露本を準備していた。


「和田、犯人について考察を入れよう」


 作業の途中で突然編集長小室に言われた。一瞬なんのことか分からないくらい彼は集中していた。


「考察……ですか?」

「そうだ。当たろうが外れようが犯人の予想が立っていた方が本は盛り上がる。分かってしまったらそっちに意識が持っていかれる。分からない今のうちに考察してメモしとけ」

「……はい。分かりました」


 警察でもない限り現在進行中の連続殺人犯の加害者が誰かと真剣に考えることがない。和田はそんなものか、と考えてみることにした。


「俺が推理できてない分、お前が推理してみろ。お前は和田進一だろう?」


 なんだか訳が分からない応援のしかただった。


 和田にとって編集長小室との付き合いは央端社に入社してからだ。名前にかけて犯人を探し出すのは名探偵の孫くらいのものだと思った。「和田」なんて名探偵はいないのだがら、そんなに期待されても困ると考えた。


 しかし、元々研究や考察は嫌いじゃない。ネットで事件のことを調べたり、図書館でミステリーについて勉強することにした。


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