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第9話:3人目のガイシャ

 警察)


「3件目の殺人予告は個人名分かったんすよね?」


 西早良警察署の刑事1年目の海苔巻あやめが昼ご飯を食べている最中にベテラン刑事飯島に訊いた。


「お前ねぇ、そんなことを公の場で聞くなよぉ。どこで誰が聞いてるか分からないんだぞ?」


 飯島はカツ丼を掻き込みながら答えた。


「でも、ここ……」


 店内を見渡しながら海苔巻がつぶやいた。二人がいる定食屋の店内には4人がけのテーブルが10卓はある店だが、現在の客は飯島と海苔巻の二人のみだった。


「お前なぁ、『こんなきったない店に客なんか来るか』とか言うなよ」

「飯島さん、勘弁してくださいよ! 腹減ったからなんか食わせてくれって休憩時間直前に飛び込んてきたのはそっちでしょ!」


 近くのテーブルを拭きに来た店の大将が会話に入ってきた。現在の時刻は午後4時を回っていた。2人は昼ご飯を食べる暇がなく、この時間になってしまっていたのだ。


「すまん、大将! 新人によーく言って聞かせとくから!」


 この店はランチタイムが午後3時30分までの店、そこに3時30分に飛び込んで来たのだから、4時になった現在は他に客がいなくても当たり前だった。


「だいたいね、お前がサンマ定食とか食べなければとっくに食べ終わってたんだから! サンマは焼くのに時間かかるだろ!?」

「そんなこと言っても、サンマが食べたかったんすよ。ひとり暮らしだとサンマとか焼けないんすから! しかも、この時期はサンマとかスーパーにも置いてません」


 海苔巻きはひとり暮らしでワンルームだった。ワンルームのキッチンは狭く、魚焼きグリルもない。サンマを焼くのは大変だろう。


「その点、俺なんかカツ丼だから! 頼んだらポンだから!」

「飯島さーん、うちは全部心を込めて作ってるからー。『ポン』とか言わないでよー」

「すまん、大将。新人によーく言っとくから!」


 飯島は色々抜けていた。今回は全部新人刑事の海苔巻のせいにしまくって逃げた。


「1件目の首吊りはもう火葬されてたって話だし、候補はあっても特定はできなかったんすよね?」

「しょうがないだろ。もう火葬も終わってるのに、『あなたの家族は殺されてませんか』って聞いて回るわけにもいかないだろ」

「そりゃそうですけどー」


 結局、1件目は被害者が特定できなかった。あるのは首吊りの写真と「文豪」の文章のみだった。しかも、1件目は原稿にも被害者の名前が公開されなかった。


 2件目は未遂に終わったものの、17歳という若い女の子が手足を切断されるという大きな事件になってしまった。表立ってニュースや新聞には出ていないが、少なくともネットでは話題になっていた。


 そして、今回の3件目だ。1件目同様に自殺に見せかけた殺人らしい。「殺人予告」と言いながら、結果が知らされて未然に防ぐことは不可能だった。1件目と違うのは、2件目と同様に今回は被害者の名前が公開されたこと。


「これってやっぱり『連続』ですかねぇ?」


 海苔巻あやめが定食を食べ終わり、箸を起きながら訊いた。


「どういうことだ?」

「ほら、1件目と3件目は自殺に見せかけて、殺人って思わせないようにしたんすよね」

「まぁな」


 飯島は既にかつ丼を食べ終わってお茶を飲んでいた。


「それで?」

「2件目は結果的に未遂になってますが、だいぶ派手な犯行です。同じ目的すかね!? それ以前に同一人物すかねー!?」

「たしかに。もっと言うと、死体は一体も確認されてないな」


 その意見に飯島は前のめりで話を聞いた。


「その意味を知るにはまだサンプル数が足りないんすよねー。だから、次の殺人を……」

「おいおい。刑事として次の殺人を待つなよ!」

「あ、さーせん。そっすよねぇ。不謹慎すよね」


 海苔巻は肩を落とした。


「でも、今回は前回同様名前が公開されてる」

「それなんすよ! なんで名前も、死んだことも分かってるのに、被害者が特定はできないんすか!?」


「じゃあ、お前ならどうやって探すよ? 電柱にポスターでも貼って回るか?」

「そんな迷子の犬とか猫じゃないんすから……」


 テレビの刑事ものなら被害者の名前が分かったらすぐに本人に到達する。海苔巻はどこかそういう協力体制が県や市と出来上がっているものだと思っていた。


「普通に役所とかに行って死亡届を見るとか、葬儀屋に電話するとか……」

「……お前、頭いいな」


 ベテラン刑事はその手があったかとばかりに椅子を座り直して海苔巻に前のめりになって言った。


「飯島さんは普段どんな風にして調べてるんすかー!?」

「いや、ほら。福岡ってそんな凶悪な殺人事件とか起きないから。こんな連続殺人とかってホシを上げたことないんだよ」


「飯島さんが、それだったら署内のほとんどの人がそうじゃないですか」

「まあ……そうなるな」


 福岡は平和だった。テレビドラマの様にそうそう殺人事件なんか起きない。メガネをかけた少年探偵が行く先々で殺人事件が多発するような事態にはならないのだ。万が一にも福岡県内でそんなことが起きたら、それはもうその少年探偵が犯人であるときだけだ。それくらい福岡市内では殺人事件は起きなかったのだ。


「じゃあ、ガイシャを当たってみるか」

「なんかそれわざと言ってるっしょ! 普段「ガイシャ」とか言わないっすよね!? テレビドラマの影響っすよねー!?」


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― 新着の感想 ―
博多は人口の3%が殺し屋だそうだけれどw 福岡はそれとは違って平和なのかあw
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