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第59話『コムギ』

───ビスト王国、ある喫茶店にて


 レイシたちは喫茶店外の丸いテーブルを囲って座っている。テーブルの上には各々の好みの飲み物が置いてある。


「だめだ、こんなに難しい任務初めてだよ」


「まぁまぁまた挑戦すればいいよー!」


 アマテラスが能天気にそう言う。

 僕らはダンジョン攻略兼マップ作成の任務を遂行するために郊外にあるダンジョンへ向かった。のだけど、

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

───1階層


「見て、壁に変なボタンがある!!」


「アマテラス、それ絶対に押し─」


「えい!!」


「なにやってんのアマテラスーー!!」


 モンスターの巣窟に閉じ込められたり、


───同じく1階層


「見て、この床のタイルだけ色が違う!!」


「アマテラス、それ絶対に踏んじゃ─」


「あ」


「アマテラスーー!!」


 ハリセンボンに落とされそうになったり、大変だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アマテラス、そう言うけど君全部のトラップ引っかかるじゃん」


「えへへー、その件はごめんだけど、でもマッピングするために必要じゃん!!」


「うーーーん、確かに、そう、かも」


「貴様は細かいことを気にしすぎだ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

───2階層


「みんなこれ防衛ミッションだ、そこにあるカカシを守りつつ、モンスターを──」


「悪い。鎌で壊した」


「リリスーー!!」


 ミッション失敗して1階層に強制転移されて振り出しに戻ったり、


───同じく2階層


「この魔石を壊したらダンジョンの明かりが消えるから絶対に──」


───パリン


「あ」


「リリスーー!!」


 ダンジョンから灯りが消えたり、大変だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「リリスは細かいこと気にしなさすぎだよ」


「ふん、その後転移魔法で戻ったり、光魔法で照らしたり自分の尻拭いは自分でしたぞ」


「うーーーん、確かに、そう、かも」


「レ、レイシさん、そんなにカッカしないで」  


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

───5階層


「えーっと、ここが通路で、あっちがトラップ部屋ですよね…えーっとそれで…」


「あれ、ヒナちゃん…どこ行った?」


 ヒナちゃんはマッピングに集中しすぎてダンジョンで迷子になったり、


───同じく5階層


「えーっと、傾向的には5の倍数の階層には強いモンスターが出がちで、」


「ヒナちゃん、僕より前に出たら危ないよ」


──ぶつぶつぶつぶつ


「ぐオォォォォ!!」


「きゃあ!!」


「だから危ないって言ったじゃんヒナちゃーーん!!」


 モンスターの目の前まで歩いたり、大変だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ヒナちゃんはマッピングに集中しすぎて周りが見えなくなってたじゃん」


「だ、だったらレイシさんがすれば良かったんじゃないですか?」


「うーーん、確かに、そう、かも」


 こんな感じでまともに任務出来なかった。僕は肘をつき、どうしようか悩んでいる。


「そんなツラしているが、貴様が持ってきた任務だぞ」


「別にリリスたちが悪いって思ってるわけじゃないんだよ。ただ、どうやったら上手くいくかなーって」


「僕そういうの考えるの苦手だからみんなにまかせるよ!!」


 アマテラスはそう言って梅ソーダを美味しそうにゴクゴクと飲んでいる。


「リリス、なにか便利な魔法ないの?空間感知とか?」


「そんなものはない。それがあれば一度も訪れたことの無い場所にも転移できる。ともなれば、既に魔境の調査に入ってるだろうな」


「だよねー…うーんどうしようかなー」


「あ、あの!魔道具店に行って、なにか役に立つ魔道具を入手するのはどうでしょうか」


 と、ヒナちゃんが提案した。


「それいいね、ヒナちゃん」


「ふむ、いい提案だな。…ちょうど昼だな。ここで昼食をとって魔道具店に向かうとしよう」


「そうだね、ここで食べてから行こうか」


「じゃあ僕パンケーキ!!」


 アマテラスが手を挙げて急に会話に入ってきたかと思ったら、食べ物の会話に変わったからか。本当に欲に忠実だな。  


「わ、私はクレープで」


「ヒナちゃんはクレープね。何クレープにするの?」


「チョコバナナでお願いします」


「了解。リリスは?」


「メニューを寄越せ」


「はい」

 

 僕は持っていたメニューをリリスに渡した。リリスはそれを開いて全てのページに一度目を通して、あるページをもう一度開いて、メニューに指をさす。


「私はこれだ」


「リリスはミックスサンドね。じゃあ僕もミックスサンドでいいかなー」  


「わ、私もやっぱりミックスサンドで!!」


 ヒナちゃんが身を乗り出してそう言った。


「う、うん。ヒナちゃんもミックスサンドね」


 しばらくして食事が運ばれてきた。  


「おぉー!!パンケーキたくさんだー!!すごい!!いっぱい重なってる!!……はむ。…おーいしーーい!!」


 アマテラスはご機嫌だ。美味しそうでなによりだ。僕もミックスサンドのたまごサンドを口に運んだ。


「喫茶店のサンドイッチって美味しいんだね」

 

「それはそうだろ。喫茶店なんだからな」


「パン屋のイメージが強くて」


「いちいちそんなこと気にして食べるな」


「はは、それもそうだね」


 僕はヒナちゃんの方を見た。美味しそうに食べてる。けど、静かだ。


「お待たせしてしました。チョコバナナクレープです」


「ありがとうございます」


「ごゆっくりどうぞ」


 店員さんがクレープを持ってきてくれた。ヒナちゃんはそれをじっと見ている。僕はそれを受け取り、


「ヒナちゃん、このクレープとサンドイッチ交換しようよ」


「え、でもそしたらレイシさん、サンドイッチたくさん食べることに…」


「僕は食べ盛りだし、やっぱりヒナちゃんが食べたい物を食べてほしいから頼んだんだよ」


「レイシさん…」


 そうして手に持ったクレープを今度はヒナちゃんが手に持つ。ヒナちゃんは顔を赤くして、


「ありがとうございます…やっぱり──」


 感謝してくれた。その後にボソッとなにか言った気がするけど聞こえなかった。僕はヒナちゃんが差し出したサンドイッチの乗った皿を受け取ってサンドイッチを沢山食べた。


 お会計を済ませたあと、


「よし、魔道具店に行ってみよっか」


「うむ」


「はい…!!」


「しゅっぱーつ!!」


 僕らは街を歩き出した……のだが、しばらく歩いたあたりから後ろから気配がする。振り向いてもすごく下手な隠れ方をしてこちらの様子を窺っている。


「リリス」


「ああ、分かっている」


「ん?2人ともどうしたの?」


「なにかあったんですか?」


 アマテラスとヒナちゃんは気づいていないようだ。僕らはそのまま歩き続け、路地裏に入った。よくある展開をできるチャンスだ。


 その追ってきた人は路地裏の行き止まりの壁に辿り着き、



「あれ、いない」


 と言った。計画通り!!僕らはその後ろから現れ、


「何者だ」


 とだけ言った。まぁ知ってるんだけどね。


「ば、バレてたわん」


「やっぱり語尾わんの方がいいよ」


 ボロボロの服を着た犬耳の元奴隷の子だ。昨日自由の身になった子だね。


「それでなんの用だ?」


 リリスが無意識に圧のある言い方をした。


「えーっと、その、私、何すればいいか分からなくて……それであなたたちを見つけた…わん」


 その子はモジモジしながら答えた。


「ひゃっ!」


「うーんやっぱりもふもふだー!!」


 いつの間にかアマテラスが少女の傍に近寄りしっぽを触っていた。もちろん僕も瞬間移動を使って、


「ひゃっ!!」


「もふもふだねー」


 少女の耳をモフらせてもらった。


 「まったく…貴様たちは」


「わ、私も獣人になれば触ってもらえるかもしれません」


「ヒナ、お前は何を言っている」


「自分でもよく分かりません」


 その間に僕らはずっとモフっていた。


「ひゃっ!や…そんなとこ触られたら、わ、私…」


「お客さぁん、うちの店は金じゃなくて体で払ってもらう店なんだぜぇ」


 アマテラスが渋い声を出して変なことを言い出した。


「そういえば君の名前を聞いてなかったね、僕はレイシ。君の名前は?」


 僕は少女に名前を聞いた。少女はしばらく黙りこんだあと、


「決めてくださいわん。レイシ様が」


 ここで村の時の名前があるじゃんとか聞くのは無粋だな。この子は変わったんだ。アマテラスも空気を読んで黙っている。犬耳、茶髪、白い肌。うーーん。


「…コムギ…とかどうかな?」


「貴様、そのままじゃないか」


 リリスに突っ込まれた。だけど、少女は目を瞑り静かに頷いたあと、


「コムギ。今日から私はコムギとして生きていきますわん」


「そっか……頑張ってね」


 僕はそう言って笑顔で少女の頭を撫でた。だけど少女は下を向いて無言のままだ。


「…わん。…私もレイシ様と一緒に冒険したいわん!!」


 びっくりした。僕と一緒に?てっきり自由に生きていくものだと思ってたんだけど。


「頼れる場所がないだけなら紹介するよ?」


「違うわん…レイシ様と一緒がいいわん!!」


 少女は胸の前で両手を握り、強く主張する。


「ほら?まだ僕たちとしか会ってないからそう思ってるだけかもよ?」


「ううん、違うわん。……レイシ様が初めて私に自由をくれた…なにもないって思っていた人生にレイシ様は希望を与えてくれた……初めて!!誰かに使えたいと思えたわん」


「コムギ…」


 僕はみんなの顔を見た。みんな笑っている。


「いいんじゃないか」


「新しい仲間だね!!」


「気が合いそうです」


 みんな優しくて良かった。みんな快く受け入れてくれる。本当にみんな大好きだ。僕は少女に手を伸ばす。


「ようこそ。僕らのパーティーへ」


 少女は涙を流しそうなほど歓喜した表情で僕の手を取り、


「よろしくお願いします」


───この日、僕らのパーティーは完成した。

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