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第57話『君と僕は私は貴様に』

──────魔族も人間も神も等しく命だ。


 僕がその男を見た時、その言葉が真っ先に浮かんだ。あれから10年経った。にもかかわらず、あの時と同じ姿だ。服装も全く一緒だ。…さすがにお風呂には入ってると思うけど。


「あなたは、あのときの…」


 僕は…僕とアマテラスは気絶したイノシッシを放置し、男と接触することにした。


「ふむ、また会ったようだね」


 男は全く生気のない微笑みをこちらに向ける。だが、それには確かな温もりがあるのが伝わった。神秘的な場所で思うことではない気もするけど、男の微笑みは仏のようだった。


「僕アマテラス!!カタナ村の土地神だよ!前、巡礼してくれたよね!?」


「それは本当です?」


 男が少し驚いてちょっと言葉が拙くなっている。


「ソカモナ!!」


 アマテラスもそれに応えた。…男の表情が変わった。


「え、この世界に本当に神がいたんだ…えー…」


 引いてる…!!物理的にも一歩引いてる!先程までの微笑みが嘘みたいだ。ていうか、本当に神がいたんだってどういうこと?


「あの、この世界に神がいないって思ってなかったのにどうして聖地巡礼なんてしてたんですか?」


 男は僕から目を逸らし、斜め下の地面を見ている。複雑な表情。哀愁すら感じる。


───ガサガサッ、バサッバサッ


 辺りに潜んでいた生き物が彼の周りに集まる。リスに、鳥に、熊に、蝶も。生き物たちは彼を心配しているようだ。


「えー!!すごいすごい!!動物がいっぱい!!夜ご飯が楽しみだね!!」


「アマテラス、それは絶対違う」


「僕は…」


 彼がこちらに顔を向け、口を開いた。その表情には何も無い状態だけがあった。


「現実逃避だろう」


 不意に後ろから声がした。男の周りにいた動物たちはそれに怯えたのか、元いた場所へ帰っていった。僕とアマテラスは振り返る。木の影、その暗闇から2人の少女が現れる。リリスとヒナちゃんだ。


「リリス、どうして?」


「リリスさん、懐かしい気配がするって言い出して、急いで来たんです」


 リリスの代わりにヒナちゃんが答えた。リリスは一点を見つめている。いや、1人を見続けている。


「リリィ、どうして…君と僕は因果で会えないようになってるはず…」


 男が驚いている。今までのとは異なるおどおどして、情けないともとれる態度だ。対してリリスはいつも通り堂々としている。というかリリィって愛称で呼んでるのか。このふたりが知り合いなのは今までのリリスとのやり取りでわかっていたけど、謎が多すぎてわからない。…いや、この人がリリスのお兄さんだったら愛称呼びも納得はできるか。リリスお兄さん的存在がいるって言ってたし。


「因果律操作魔法か…貴様は相変わらずだな。他人とは距離を取りたがる割に人との繋がりは求める…情けないやつだ」


 リリスが僕以外に貴様呼びするのは珍しいな。


「君も因果律操作魔法を?…いや、違う。魂が2つある…そういうことか」


「そういうとこもだ。他人の領域には勝手に入ってくる…まったく」


 そう言うけどリリスはすごく嬉しそうな…それを超えて幸せそうな顔をしている。2000年…少なくとも2000年ぶりに会えたのだろう。それにリリスはこの人に好意を──


「もう僕は行くから…もう会うことはないと思う」


「拘束魔法」


「う、」


 去ろうとした男をリリスが魔法で手足を空中に固定し止めた。


「貴様は昔から逃げてばかりだな」


 男は何かしらの力で拘束魔法を解き、


「別に逃げてもいいじゃないか…死ねない僕にはそうすることしかできないのだから」


 リリスは男にズカズカと近づきながら、


「戦えばいい、挑めばいい、立ち向かえばいい…貴様にはその力があるだろう」


 男の前に立ち、男はリリスから顔を逸らす。


「そんなの…今更」 


「そうだな、もう貴様の友人たちは蘇らない。だが、今の人間(イヴ)たちはどうだ?貴様のような強い者を必要としている者は多い。そんな信じてもない神を崇めるふりをするのをやめろ。現実から目を背けるな。」


「僕に力なんてない。僕は誰も守れない」


「ちっ」


 男があまりに情けないためにリリスが舌打ちをした。ヒナちゃんが僕とアマテラスの傍に寄ってきた。


───ドゥン!!


 リリスが男のみぞおちに拳をめり込まし、そして握っている手を開き、そこに紅い魔法陣が現れる。


「終焉魔法」


「「リリス!?」」

「リリスさん!?」


────ドンッ


 僕らは驚いてその光景を見た。容赦なさすぎる。


 だが男は無傷だった。


「貴様は強い。自信を持て」


「自信…?…はは、そのせいで…僕が自信を持って!!イヴたちでも魔法が使えるように魔術なんか開発したせいで…みんな父さんに殺されたんだよ」


「貴様のせいじゃない。全ての根源は魔神だ。…魔術を作ったことで誰かに責められたことがあったか?逆だろう。魔術を作ったことで皆が貴様を認めた。皆が笑顔になった。だから貴様は魔術を広めた…だから!!世界中を旅して今も魔術を広めているんだろう?」


 その言葉を聞き、男はハッとした。


「な、んで…それを…」


「気づいてないとでも思ったか。貴様だけが魔術を作れる力を持っているんだぞ。貴様のことだ、これに関しては自信があってもまさか自分だけができる技術だとは思わないんだな。貴様は特別なんだ…だから魔神は、完璧な人間である貴様と同じ力を得たイヴたち、その原因である魔術を消し去ろうとしたんだぞ」


「そんなことで…僕の友達は」


「そんなことだぞ。もう一度言ってやろうか?貴様は自分のことばかりで他人を知ろうとしない。そのくせ他人にはわかってほしい。ふざけるな」

 

「でも僕は心を──」


「心が読めても、それだけで分かり合えるわけないだろう。貴様と違って他人は貴様の気持ちなんてわからん。お互いの気持ちを知ってこそ分かり合えるんだ」


「僕は…僕は!!」


「もういい黙れ」


「え…?」


 リリスは男に抱き着いた。男は驚いた表情をしている。


「ずっと…誰かにこうして欲しかったんだろう…2000年前からずっと…私は貴様にこうして欲しかった…!!なんで貴様は大切なことは何一つ分からないんだ」


「う、うぅ…」


 男は涙を流す。2000年間流れなかった涙を。男は待っていた。誰かがその凍った心を溶かすのを。

 

 僕、アマテラス、ヒナちゃんはその場を離れた。今は2人にしてあげよう。周りの動物たちはいつの間にか再び姿を現し、その光景を見守っていた。

 しばらくして─


「満足したか?」


「ありがとうリリィ」


「ふん、全く貴様というやつは…」


「ごめん…」


「せめて私の前では強くあってほしいものだ」


「僕は、この世界を知ろうと思う。あと、友達を作ろうと思うよ。それで、今度はちゃんと生きてみようと思う。守れなかったみんなのぶんも多くの人を救っていこうと思う」


「そうか。たとえ貴様が開き直っても私は魔神を殺す。それは変わらない。文句はないな?」


「どうして父さんを殺すの?」


「貴様から友を奪った。ベルフラワーから解放を奪った。私情で。だから私も奪う。私情だ。」


「僕はまだそんな勇気はないよ」


「だろうな。正直貴様が協力してくれれば…というか貴様が本気を出せば魔神も1人で倒せるだろうがな」


「そんな事僕にはできない」


「だろうな。だから私がやるんだ。貴様は貴様の人生を進め」


「ありがとうリリィ。それと──」


───草原にて


「あ、リリス帰ってきた!!」


 アマテラスがいち早く気づいた。


「おい、貴様ら、イノシッシを忘れてるぞ」


「あ、ごめん」


「ごめん!!」


「アマテラスはちゃんと悪いと思っているのか?」


 リリスがアマテラスの顔を覗くように見ている。


「思ってるよ!!」


「それならいい。貴様はどうだ?」


 僕も覗きこまれている。うぅ。  


───ドゥン!!


「痛い」


 みぞおち殴られた。


「思ってなかったな」


 その後、僕らは郊外の草原でイノシッシバーベキューをした。


「おいしい!!森でいっぱい動物見た時からお腹空いてたんだよねー」


「アマテラス怖いって」


「リリスさんが自分から抱きつきに行くなんて珍しかったです!」


「う、やめてくれその話は」


 そんな感じで楽しく過ごした。その後宿でしっかり休んだ。今日は本当に色んなことがあったな。






 

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