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第54話『だるま』

───クロノス王国王宮一室にて


 目が覚めた。ベッドの上には僕1人。リリスはもう起きてるみたいだ。今日はビストの国で武闘大会がある。ビストの国へ行かないと。


───ガチャ


 リリスが部屋に入ってきた。


「朝食を持ってきたぞ」


 その言葉を聞き、僕は部屋の中心に足の短い机を作り、リリスは収納魔法から4人分の食事を出した。リリス以外寝てたから使用人の方が朝食を持ってくるとリリスに言った。でもリリスは優しいから、リリス自身で僕らの食事を持ってきてくれたんだろう。


「ありがとうリリス」


「ふん、気にするな。それより2人を起こすぞ」


 2人を起こし、朝食を食べ始める。今日の朝食はサンドイッチだ。ヒナは大方いつもと変わらない様子で食事を食べているが、アマテラスは眠そうにうとうととしながら食べている。僕は穏やかな空気が流れる中、話を切り出す。


「今日はビストの国で武闘大会があるよね。それでビストの国へ行きたいんだけどリリス…転移を頼んでいい?」


 リリスは不思議そうな顔をして僕を見ている。


「貴様、武闘大会には出ないんじゃなかったのか?」


 これだけ聞けば僕が武闘大会に出ようと思うのは当然のことだろう。僕は口角を上げて答える。


「武闘大会には出ないけどビストの国に用事があるんだ」


 リリスも口角を上げて


「貴様が何を考えているかわからんが面白いことを企んでいるのは分かる?いいだろうビストの国へ行こう」


「よし、決まりだね」


 僕らは朝食と身支度を済ませ、使用人の方たちに挨拶してビスト王国の郊外に転移した。クロノスくんは朝から用事があるらしく、近衛騎士団に王宮を任せてソロネさんとどこかに行ったそうだ。

 僕らは郊外から街中まで歩いてきた。


「前にも見たが闘技場以外は本当に人がいないな」


 リリスが周りの景色を見ながら口を開く。ヒナちゃんとアマテラスも静かな街を見ている。


「そうだね、前と同じだ」


「それで貴様は何を考えている。空き巣か?」


 リリスが下から僕の顔を覗き込んでくる。


「いや、違うよ?」


 リリスはふっ、と笑って


「冗談だ」


「まったく……ここ辺りでいいかな」


「いっ」


「あ、ごめんアマテラス」


 僕が急に立ち止まったせいでアマテラスが僕の背中にぶつかったようだ。

 僕は魔力を集中させ、どんどん魔力探知の範囲を広げる。


───見つけた…地下か。


 僕は探知した方向に走り出した。


「おい急にどうした」


「待ってー!!」


──タッタッタッ


「はやっ」


 走り出したヒナを見てリリスは驚いた。だが、瞬時にヒナの足が早かったことを思い出す。


走り出した僕にすぐにヒナが追いついてきた。


「い、いったいどこに向かっているんですか?」


「用事の正体だよ……ってここ右」


「はい!」


 僕らは並走して走り、ある家の門の前に着いた。


「ここは…普通の家に見えますが…」


 貴族のヒナちゃんは普通の家に見えるだろうけど、ここは辺りの家に比べて広い土地に大きな家だ。お金持ちな家だろう。門はもちろん鍵がかかっている。


「おい、もう少しゆっくり走れ」


「僕もうヘトヘトだよぉ」


 リリスがアマテラスを抱きながら黒い翼をパタパタと羽ばたかせ追いついた。


「ご、ごめん。ちょっとでも早くって思って」


「どういう─」


──だっ


 僕は門を飛び越え敷地内と入る。


「え?」


「おい、貴様やっぱ空き巣か!?」


「ち、違うよ」


 僕は奥にある玄関へ向かう。


「まったく、仕方ない……解除魔法発動」


───ガチャ


 後ろから門の鍵が開く音がした。リリスたちも向かってきているようだ。というかそんな便利な魔法あるんだ。

 僕らは玄関の前に着いた。もちろん鍵はかかっている。


───ガシャンガシャン


 金属の音…鎖を揺らす音が聞こえる。


「な、なんの音ですか?」


「えー怖いなにー」


「リリス」


「はぁー、仕方ないな…解除魔法発動」


───。


 玄関の鍵が開き、ドアが開くと、鎖の音はぴたりと止まった。僕らは玄関入って右の廊下を歩く。アマテラスは怖がってヒナの腕に捕まっている。


「ここだね」 


 あるドアを開くと地下へ続く階段があった。僕らは暗い階段をゆっくりと降りていく。階段を踏む音が響く。最後の1段を降りると牢屋に1人の弱々しい犬耳の女の子と鞭を持ったの背の高い細身の男がいた。


「おかえりなさませご主──おや?侵入者ですか」


 鞭を持った男が僕らの方をいやらしい笑みを顔に貼り付けて言った。


「僕はそこの女の子を助けに来たんだ。お前は何者?」


「ふふふ、名乗る程の者ではありません。私もただの奴隷です。他の奴隷より少し地位が高く、この役立たずのお守りをしていただけです」


 僕は怒りを抑えながら言葉を紡ぐ。


「ただ命令に従っていただけなら酌量の余地はあったけどお前はその子をいじめて楽しんでいたんでしょ?」


 男はニヤニヤとしたまま、


「酌量の余地?どの口でおっしゃってるんでしか?不法侵入しているあなた方に言われたくありませんね。それにいじめて楽しむ?そんなことするわけないですよ。私はご主人様に命じられた通り、仕事をしていただけですよ」


 僕は1度深呼吸をして口を開く。


「最初はその子が脱走しようとして鎖を鳴らし、玄関の扉が開く音が聞こえてこの家の主が帰ってきたと思い、脱走を諦めたのかと思ってた。けど違った」


 僕は男を睨みつけた。男はニヤニヤしているが若干の恐怖と焦りが表情に出ている。


「違ったとは?」


「お前だったんだな…お前がその子を鞭で打ち楽しんでいたんだろ?そして扉の開く音でお前の言うご主人様が帰ってきたと思って、むち打ちをやめたんだな?」


「くふふ、それでしたらなんですか?あなたたちは私たちと関係ないでしょう?私がこの子をどうしようと自由じゃないですか!!」


───バチンッ


──ガシャンガシャン


「っ!!」


 男が女の子に鞭を打ち、短い悲鳴を上げる。


「おい、やめ──」


───ドンッ


 僕がやめようと声を出したとき、男の鞭を持っている方の腕がちぎれた。


「は?」


 男は自分の腕を、いや、腕があった場所を見て呆けた声を出し、直後───



「あぁぁぁぁ!!腕が!!私の腕がぁぁ!!」


 男が傷口を抑え、地面を転がる。 


「ヒナちゃん……」


 僕は男の腕を能力でちぎったヒナちゃんを見る。ヒナちゃんの大きな瞳には怒りを超え、殺意が宿っていた。ヒナちゃんが男の方を見下ろしながら、


「悪いことする腕はいりませんよね」


 怒ったお母さんレベル100みたいなことを言い出した。これからヒナちゃんを怒らせないようにしよう。


「ぐぅぅあああ」


 男はまだ痛みで転がり続けている。


───ドンッ


 男の無い腕を押さえている腕もちぎれ吹き飛んだ。地面には大きな血溜まりができている。男が転がることでさらに薄く広がっていく。男はもう立つこともできず転がることすら拙くなっている。


「ああぁぁぁぁぁ!!」


「悪い腕を庇う腕もいりませんよね」


 ヒナちゃんは淡々と冷たい視線と言葉をあまりの出血で熱さを感じているであろう男に送り付ける。アマテラスもリリスも怯えている…ヒナちゃんに。


「楽には死なせませんよ。アマテラスさん、ヒールしてあげてください。傷口を塞ぐ程度で」


「ひっ、う、うん。そもそも僕は腕を生やせるほどのヒールはできないと思うけど…ヒール」


 男の傷口が塞がり血が止まる。痛みも消えたのだろう。男の顔の苦しさも消えていく…はずだった。


──ドンッドンッ


「ぎぃあぁぁぁぁぁ!!」


 男の両足が消し飛ぶ。もう僕はその光景を眺めることしかできない。


「アマテラスさん」


「…ヒール」


 男の傷口が癒え、だるま状態となる。痛みは消えただろうが男の顔の恐怖は消えない。


「これ借りますね」


「あ、それは─」


 ヒナちゃんがアマテラスの右太腿のナイフホルダーからナイフを取り出し、男の目の前に刃を持っていき、


「これが今からあなたの眼球に刺さります。3、2、1──」


───ぱしっ


「ヒナちゃんがそこまでする必要はないよ」


 僕はさすがにこれ以上はまずいと思い、ヒナちゃんの右腕を掴んで止めて、ナイフを没収した。ヒナちゃんはハッとして、


「ご、ごめんなさい。怒りで我を失っていました。この人の態度があの包帯の人に似てて、色々思い出しちゃって…私、私……ごめんなさい」


「うん、大丈夫だよ」


 僕は泣きそうなヒナちゃんを胸に抱き、男に問う。


「お前は奴隷なんだろ?どこで買われた?」


「な、治してください…治してくださったら…話します」


「…わかった。治すけど、嘘をついたりくだらないことをしたりするとまた手足無くなるから覚悟しといてね」


 男は怯えながらも頷いた。これで変な抵抗も嘘も吐かないだろう。僕は能力で男の手足を生やし、正座させ質問に答えさせた。


「み、港です。港に奴隷業の市場と船、組織の事務所があります」


 なかなかいい情報を得られた。嘘をついてはなさそうだ。


「もういいな?」


「うん。もう十分な情報は貰えた。詳しいことはこの男たちの主に訊こう」


 僕がそう答えるとリリスは男を魔法で気絶させた。


「アマテラス、これ返すね……これ使うとこ全然見た事ないんだけど、まぁ後衛だから使う機会がないのか」


 そう言ってアマテラスにナイフを返した。アマテラスはナイフを入れたホルダーを細い指で優しく撫でながら、


「これはレイシが作ってくれたものだからずっと使っていたくて…それでずっとナイフを入れてたんだよ」


 その言葉を聞き、僕はほっぺに人差し指を当てながら、


「思ってたより可愛い理由で良かったよ」


 そう言ったあと僕は怯える犬耳の女の子に近づき、


───ザンッザンッ


 壁に繋がった手錠を破壊して外した。そしてその子に、




「助けに来たよ」


 

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