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第52話『浴場と欲情』

「なんか……いる」


 廊下に4人男がうつ伏せで倒れている。奥から手前にかけての髪色が、赤、水、橙、黒。民間異能治安維持特殊部隊だ。黒髪白コートの男、ムジに話しかける。


「あのー、大丈夫ー?」


「ぐ……ああ、大丈夫だ……ってレイシ!?」


 ムジは驚いて廊下に響くほどの声を出す。その声に他の3人も顔を上げる。


「どうしたの?ムジ。クロノスくんの近衛騎士団になったのは聞いてるけど──」


「あいつの修行めちゃくちゃきついんだぜ?それで倒れてたんだが…アンテノールだっけ?そいつらも一緒に修行してよ、ボロボロなんだが体力はあってな、俺らはついていけなかったんだよ」


 それでクロノスくんは風呂上がりの状態で国王会議に来たのか。


「なるほどね、大変だったね。僕は今からお風呂に入るけど4人ともどうかな?」


「あ、ああ。いいぜ」


 他の3人も頷いて僕らは風呂へ入った。

 僕ら5人は体を洗って湯船に浸かり、


「今日、ヴァニタスに会ったよ」


 一息ついたあとに僕は話を切り出した。ムジは隣に腰掛けている僕を見たあと正面を向き、もう一度僕を見た。驚いた表情で、


「会ったのかよ!?……兄貴は俺の事なんか言ってたか!?」


「いや、会ったって言ってもクロノスくんに誘われて国王会議に出席して…その時に会っただけだから別に話したとかそういうのはないよ」


 まぁ殺されかけたけど。あと殺害予告もされたな。


 ムジは残念とまでは言わないがそうだろうなという顔をしている。レイシとムジ以外の他の3人は全く関係のない話をしているようだ。


「どうだった?俺の兄貴は」


 ムジは横目でレイシを見る。レイシは正面やや上を向き考える。


「うーん、()が強そうだった」


「ぷっ……確かにそうだな…兄貴は自己中なとこはあるな」


「まぁ正義感は強そうだったし、そんな悪い人のようには見えなかったよ。自分の世界に戻りたい割にこの世界のこともしっかり考えてたし」


「そうなんだよ、兄貴は誤解されやすいけど根はいいんだ。レイシ、お前なら分かってくれてると思ったぜ。なんせあの時、兄貴の真意を見破ったのもレイシだからな!」


 あの時、ああ。ムジを危険から遠ざけようと酷い言葉をかけてたやつか。



「あははー、それほどでもないよ。ムジはどうだったの?修行は。アンテノールと一緒だったんでしょ?」


「9対1で能力無しのクロノスと戦ったんだがよ。リーダー……ハデスの指示が的確でよ。初めて合わせたのにすげぇ動きやすかったんだ。……まぁ結局みんなボコられたんだけどな」


「え、9対1で?みんなは能力ありでクロノスくんはステゴロの状態で?」


 レイシは驚いて質問を投げた。


「クロノスは能力は使ってなかったけどよ、魔術を使ってたんだ。…発動速度がレベチなんだよ。一瞬で空中に術式を書いて放ってくるからな。むしろ俺らが押されてたぜ……あいつに勝てるやついんのかよ」


 そっか。クロノスくん魔術も使えるんだった。本当にどこまでいっても隙がないな。


「何やっても最強なのすごいよね……クロノスくんに勝てる人か……ムジのお兄さんは勝てる算段がありそうなこと言ってたよ」


 ムジはギョッとした表現でレイシを見た。


「いや、確かに兄貴の能力は強いけどよ……能力使ってない時はただの人間だぜ?クロノスにボコボコにされるぞ?」


「ふっ、あのお兄さんがボコボコにされる姿はちょっと面白いかも……じゃなくて、なんか全能全魔(ムステリオン)を使ったあとの魔力がない状態だとクロノスくんはただの少年でお兄さんは青年だから筋力の差で勝てる的な感じだと思う」


「ふーん、兄貴も全然クロノスのこと分かってねぇな。ムステリオンを使ったところでクロノスは次の瞬間には魔力全回復なのにな」


 確かにそうなんだよね。あのお兄さんは言動を見るに、あの国王の中ではクロノスくんを知ってる方だと思う。クロノスくんもいつもの薄ら笑いが消えてたし…


「……特異点。そんなことを言ってた気がする」


 レイシはポツリ、と呟いた。


「特異点?なんだそりゃ?」


「僕もわかんない。けどそれが関係してると思うんだ」


「へぇー。やっぱ兄貴が考えてる事はわかんねぇ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

──一方女子たちは


 脱衣場でリリス、アマテラス、ヒナの3人は脱衣していた。ふと、リリスにヒナの胸が目に入る。


「ヒナ、少し胸が大きくなったか?」


 それを聞いたヒナは一瞬間を置き、顔を赤くする。


「え、そうですか?でも私、大人ですからもう大きくならないと思いますよ。あと急にそんなこと言われたら恥ずか──」


 と、ヒナが胸を両手で隠そうとした途端、


「えい!」


 後ろにいたアマテラスがヒナの胸を揉み始める。


「ちょ、やめてください。くすぐったいです…はは……リリスさんのせいですからね、リリスさんのも触ってやるんですから」


「な、近寄るな」


 後ろから胸を揉まれながらヒナはリリスに近づく。リリスは手を前に出し、防ごうとするが払われる。


「えい!…です」


 ヒナもリリスの胸を揉み、


「く、アマテラスが始めたことだからな」


 と、3人は文字通り揉み合いが始まった。だが、しばらくして、


───ずぅーーん


 3人に重い空気が流れる。


「僕たち全員ぺたんこだから揉むに揉めないよね…」


「虚しくなりました…」


「私は何をしてたんだ…」


「……お風呂、入ろっか」


「そうですね」


「そうだな」


 3人は重い足取りで浴室に入り、身を清めたあと、3人は湯船に入った。


「ひろーーい!!さいこー!!」



───バシャバシャ、ザバー


「元気だな」


「ですね」


 大きな湯船で泳ぐアマテラスを見ながらリリスとヒナは並んで腰掛け、疲れを癒していた。



「あれが神で、それも200を超える者の言動とはな」


 リリスは口角を上げながら呟く。ヒナも笑顔で、


「大きいお風呂だとはしゃぎたい気持ちも分かります。……リリスさんは2000歳超えてるんでしたっけ?」


「まぁそうなるな。ほとんど寝てたようなものだがな」


「凄いです……私にはそれだけ生きるのが想像出来ません……」


「そうだな……正直景色はそこまで変わってないぞ……というより、ヒナ、お前は何歳なんだ?自分で大人と言うが…」


 ヒナは顔を赤くし、湯に口を沈め、ぶくぶくと泡を水面に生む。


「それ、僕も気になってた!!」


ザバーーーン


 アマテラスが飛び跳ね2人の近くに着地した。2人は手で飛び跳ねた湯を防ごうとしたが、それも虚しく、湯を大量に浴びる。


「おいアマテラス、元気が過ぎるぞ」


「あははーごめんごめん…でも気になるー……ヒナ何歳なの?」


 アマテラスは片手を後頭部に当て、笑顔を浮かべて謝ったあと手を下ろし言った。リリスとアマテラスの視線がヒナを差す。


「え、えーーっと……20」


───!?


 ボソッと言ったヒナの数字にリリスとアマテラスは雷に打たれたような衝撃が走る。アマテラスは即座に立て直し、


「同い年くらいだと思ってた…」


「お、お前…レイシより5歳上で頭撫でられているのか…私は次からどんな目でその光景を見ればいいんだ…」


 リリスは驚きを隠せないようだ。それを聞いたヒナはさらに顔を赤くし、


「う、うるさいです!!私も大人だってレイシさんに何回も言ったもん!!」


「まあまあ落ち着いてー」


 アマテラスがヒナの頭を撫でる。ヒナはムスッとしたままだ。そこにリリスが追い討ちをかけてしまう。リリスはヒナな体を上から下まで下から上へと視線を移動させ、



「20が本当なら幼すぎないか?」


 今1番言ってはいけないことを口に出してしまう。


「うるさいうるさいうるさーーい!!リリスさんだって私と変わんないじゃないですか!!」


「おっと!」


 ヒナは立ち上がり、アマテラスの撫でていた手は離れる。


「お、落ち着け…これはやつが好いている女の体だ…それと変わらないなら、な?」


 リリスは自分で高めたヒナの怒りを何とか鎮めようとする。ヒナはそれを聞いて、


「ま、まぁ、たしかに?そう言われると…嫌な気持ちも無くなります」


 ヒナは落ち着きを取り戻せそうだ。また口を湯につけ、ぶくぶくと泡を作り出した。アマテラスは立ち上がり胸にヒナの頭を抱くようにヒナの頭を再度撫でる。リリスはそれを見て安堵した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

客室にて


 パジャマ姿の女子3人がレイシのいる部屋に入ってくる。


「あれ?3人とも逆に疲れてない?」


 風呂上がりの3人の姿を見てレイシは疑問を投げかけた。


「貴様には関係ない…いや、貴様のおかげではあるかもな」


「ん?」


「気にするな」


「もう疲れたー!!」


バフーーン


 アマテラスがベッドにダイブしてうつ伏せのまま目を閉じる。


「お前は湯船で泳ぐからだろう」


「そりゃ疲れるよ」


「うわーーん、レイシさーーん」


 ベッドのそばにある椅子に座っていたレイシにヒナは抱きつきにいく。


「どうしたのヒナちゃん?」


 座ったままヒナを抱き、頭を撫でるレイシ。その光景を見るリリスの表情は難しい。


「私は今、すごく複雑な気持ちだ」


「リリスもどうしたの?」


 何も知らないレイシはリリスに話しかける。だが、ヒナは顔をリリスの方へ向け、


「り、リリスさんが悪いんですよ!私の年齢なんて聞くから……あ」


「あ」


 リリスとヒナは勘の鋭いレイシなら今の会話で風呂でどんなことが起きたのか察することが出来てしまうと気づく。当然、レイシは今の会話で勘づく。だが、レイシはこれまでのヒナの発言から既に気づいていた。それが確信へと変わった。しかしレイシは顔色ひとつ変えず、


「僕の中のヒナちゃんはヒナちゃんだから」


 それだけ言ってヒナの頭を撫で続ける。


「全く貴様というやつは…」


 リリスはそう発して胸に手を当て、心の中で『アリス、お前の王子様とやらは魔性の男みたいだぞ』と思っていた。


「レイシさーーん!!」


 ヒナは喜びのあまりレイシの胸に頭を擦り付ける。


「あはは、元気になってよかった」



 ガチャ、と部屋の扉が開く。


「夕食の準備が出来ました。ご案内します」


 使用人がそう言い、レイシは立ち上がる。


「じゃ、行こっか……って!アマテラス寝てる!!」


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