第46話『ビスト王国での休日』
───ビスト王国王宮宿泊部屋にて
目が覚めた。結局昨日はリリスに引っ張られてベッドの上で寝かされた。ベッドの上には僕しかいないようだ。ヒナちゃんとアマテラスが化粧台の席を取り合いしている声が聞こえる。2人とも髪をセットするために鏡を見たいんだろうな。
「おい」
「にゃい(なに)?」
リリスが部屋に入り、ベッドの横に来て僕の頬を細い指でつついてきた。というか押さえてる。
「トイレの鏡で翼を整えてきた。少し触って確かめてくれるか?」
トイレの鏡…。リリスは鏡の映り合いに参加せず一番に準備を済ませたようだ。他のふたりもリリスを見習ってほしくもある。まぁそういうとこが可愛いんだけど。
「わきゃった。ひょっとゆふぃはなひてくえふ(ちょっと指離してくれる)?」
ようやく指を離してくれた。僕は上体を起こし、ベッドの横端に移動しそこに腰をかける。リリスがこちらに背を向ける。僕は翼を掴む。
──ガシッ
「おい、もっと優しく触れ」
「あ、ごめん……こう?」
僕は指先で撫でるようにして触った。
「ひゃっ!……おい、そんな触り方するな」
リリスが小さな悲鳴をあげたせいで、いやおかげか?鏡の取り合いをしていた2人がこちらを向く。沈黙。最初に沈黙を破ったのはヒナちゃんだった。
「な、なにしてるんですか…?」
「朝からなにやってんの!!」
アマテラスが頬を赤くして大声を出す。え?これ僕悪くないよね?僕も大きな声を出す。
「だ、だって翼触っただけでこんな声出すなんて思わないじゃん!!」
「もっと激しくてもいいぞ?」
リリスが赤い顔をこちらに向けて言う。あ、この人絶対わざとそういう言い方してる。すげぇ悪い笑顔してる。
「レイシの変態!!」
アマテラスに怒られた。ヒナちゃんにも
「私にはしないのにリリスさんにはするんですね」
と冷たい瞳で言われた。あんまりだった。いや、羽触っただけじゃん。しかも言われてやったのに…世の中理不尽だ。この騒動が落ち着いて、
「リリスの翼、すごく綺麗だね、整えてもっと綺麗になってるよ」
いい感じの触り方を見つけて撫でながら言う。
「ふふん、気遣っているからな」
腕を組み、自慢げに言っている。なんだこの可愛い生き物。
「そういえばリリスの羽が落ちてるとこ見た事ないな」
「それは取れそうになる前にリジェネで再生するからな」
「そうなんだ。便利だね」
「ああ、戦闘以外にも役立つ魔法は好きだ」
「リリスは戦闘が好きだから戦闘で使える魔法にしか興味無いのかと思った」
「私は戦い好きである前に女だ。まぁ女である前に悪魔だがな」
「そうだよね、でも僕から見るとリリスは悪魔である前に女の子だよ」
「そうか……おい、その言い方だと私を異性として見ているということか?」
「ん?守る対象だよ」
「そうか」
「あ」
リリスが前に歩き、翼は僕の手から離れる。リリスは振り返り、僕を見て言う。
「今日は何をする?依頼か?」
「なにするの!?」
「何をするんでしょう?」
リリスに続き、準備のできたアマテラスとヒナちゃんがリリスの両側につき、ワクワクした感情を顔にそのまま投影し、僕に訊く。
「うーん、明日は国王会議で明後日は用事があるから、今日はゆっくりこの国を見て回ろっか!はいこれ」
僕は内ポケットからあるものを取り出し、3人に差し出す。リリスが嫌そうな表情を浮かべる。
「貴様、正気か?」
「いいじゃん!リリス!着けようよ!」
「私はベレー帽を取らないとですね」
僕がみんなに差し出したのは「色んな動物になるケモミミカチューシャと尻尾セット」だ。アマテラスとヒナちゃんはすんなり着けてくれたけど、リリスは手に持ったそれをじっと眺めて苦悩している間に僕は身支度を済ませた。
「みんなかわいいよ!!」
僕はIQ3で褒める。アマテラスは狐耳、ヒナちゃんはうさ耳、リリスは猫耳だ。すごく可愛い。それ以外の言葉はあってはならないほどに。ちゃんとしっぽも生えてる。可愛い。リリスは羽をおさめてるようだ。
「貴様は着けないのか?」
「え?僕には需要がないからね」
「つけろ」
「はい…」
リリスが睨みながら怒りのこもった声をかけてくる。僕は能力で犬耳を頭の上につけた。うう。恥ずかしいな。
「しっぽもつけろ」
「はい」
コートにケモ耳としっぽってどうなんだ?というか恥ずかしい。
「レイシかわいいよ!!」
「はい、中性的な顔に似合ってて可愛いです」
うう。僕は恥ずかしくなり犬耳を押さえる。
「ふむ、悪くない。行くぞ」
これ他国でやったら狂人だろうな。獣人の国で良かった。僕らはこの姿でビストに今回のことで礼を言った。ビストは最初は驚いていたが、3人の可愛さに悶絶して僕に抱きついてきた。ちょっと意味が分からなかった。まぁでもビストには感謝だ。いつでも来てくれ、国王会議で会おうとのことだった。廊下の途中で会った、ハデスとクロノスくん、ソロネさんは僕の姿を見て笑ったあと3人の可愛さにやられていた。やっぱうちの女の子たちすごく可愛いよね。
「ビルばっかだねー!」
「もうちょっとしたら草原とか森が見えてくるからあとちょっと歩こ」
廃ビル見るだけでも楽しんでくれそうなアマテラスに僕は言う。さすがに廃ビルばかり見てても面白くないから郊外の自然が豊かなエリアに行こうと思う。ていうか、廃ビル撤去しようよ。ビストさん面倒くさがりなんだろうなぁ。
「あ、見えてきました」
路地を抜け、眩しい光の向こうには草原が広がっていた。スライムやオークや色んな魔物がたくさんいる。それらを狩る獣人もたくさんいる。奥には高い木々の森も見える。
「すごーーい!!たのしそーー!!」
アマテラスがテーマパークに来た子供みたいにはしゃいで走り出した。
「ちょ、アマテラスさーん!私も行きますー!」
ヒナちゃんがアマテラスを追いかける。リリスが後ろで腕を組み僕の隣にそっと近づいて腕をぶつけてきた。
「全く2人は…と言ったところだな」
「はは、そうだね……なんか僕たち、親になった気分だね」
「ふふ、そうかもな」
僕らはゆっくり歩いて2人について行った。
「見てー!!スライム!!かあいい!!」
テンションの高いアマテラスがスライムを指さしヒナちゃんに向かって言うが、
「そ、そうですね。でも気をつけ─」
──ガブッ
「ぎゃあああああ!!」
アマテラスがスライムに腕を噛まれた。
「レイシさん!リリスさん!アマテラスさんが!!」
到着した僕らにヒナちゃんが助けを求めるけど、僕はアマテラスとスライムの方を指さし、
「ヒナちゃん、よく見て」
「ぎゃああああ……って痛くない…?」
「スライムは弱いからね。大抵は何されても大丈夫だよ」
「なーんだ、痛くないやー、えい!」
──ボンッ
アマテラスが内側から魔力を放ちスライムを爆破した。ヒナちゃんはそれを見て胸を撫で下ろし、
「良かったぁ」
「今日はこの原っぱで遊ぼっか」
その後僕らは遊んだ。スライムに餌をあげたり、撫でたり仲良くした。アマテラスがよく噛まれてたな。鬼ごっこもした。ヒナちゃんがすごく速くて捕まえれなかった。魔物狩りは言わずもがな、リリスが楽しそうに魔法を行使してた。そんなこんなで夕方になった。
「もう帰るの…?」
しゃがんでスライムを可愛がってたアマテラスがこちらを見上げながらこぼす。
「うん、いい料理店をビストに教えてもらったんだ。食べに行こう」
「わーいごはんだぁー!!」
アマテラス、ちょろい。立ち上がって両手を上げて喜んでいる。
「楽しみです」
ヒナちゃんはいい子だ。リリスはどうかと思い、そちらを向くと、
「……」
うとうとしている。眠そうだ。まぁあれだけはしゃいで魔法を使ってたからね。ほんとに楽しそうだった。
「リリス行くよ」
僕はリリスの前に背を向けてしゃがむ。
「うぅん」
リリスが目を擦り返事をし僕の肩に腕を掛ける。僕は立ち上がる。リリスをおんぶした。しばらく歩いて廃ビルの少ない、まともに機能している都市部に着いた。というかまともに機能してるビルがあったのが驚きだよ。そのビルの道路を挟んだ向かい側のオシャレなレストランに着いた。僕らは受付を済ませ、外にある丸机に座る。僕はリリスを椅子に座らせ、隣の席に座る。もうすっかり夜だ。ビルの明かりや街頭の明かりがむしろ風情がある。というかなんか道路あると思ったら車通ってね?なんだこの国、こわ。
僕らは料理を頼んだ。海鮮系や肉系、色んな料理が運ばれてくる。
「色んな種類があるんだね」
「好きなの頼めてさいこー!!」
「野菜もあります!」
「うぅん」
リリスはずっと眠そうだ。おぶっているときも寝ずに耐えてたからな。返って眠そうな時間が伸びてるな。
「じゃあ食べよっか、いただきます」
「いただきます!」
「いただきます」
「いた……ます」
僕らは料理を食べた。すごく美味しかった。さすがビスト。獣人なだけあって感覚が鋭いから美味しい店も的確だ。リリスは、
「はい!リリス!!あーーん」
アマテラスがカレーの乗ったスプーンをリリスの口の前に持っていき、
──はむ
「辛い……辛いぞ!!」
アマテラスがリリスの目を覚ませてくれた。起きたリリスはお酒を沢山頼んで飲みまくってた。今日酔えなければ明日酔えばいいって昨日言ってたもんな。結局リリスは酔いつぶれた。アマテラスとヒナちゃんは飲まなかった。明日は国王会議で二日酔いになりたくないみたいだ。リリスをおんぶし、宿屋まで運んだ。
「今日楽しかったなぁー」
「ですねー」
アマテラスとヒナちゃんがベッドの上で今日のことを楽しく語っている。僕は床に寝転び2人の声を聞き口角を上げ寝る。リリスは幸せそうな寝顔で爆睡していた。




