第45話『美しい夜を君と』
───ビストの宮殿にて
「食事の準備ができました。こちらへどうぞ」
「了解だ」
「う、う〜ん」
少し寝ていたようだ。使用人が部屋の扉を開ける音で目覚めた。頭の下の感触が柔らかい。なんだ?手で触ってみる。
「おい、やめろ。ふ、くすぐったい。」
ああ、膝枕されてたのか。
「ごめん。ふぁ〜」
僕は上体を起こし伸びをする。ご飯か。
──ぷにっ
ん?下ろした手の指に違う柔らかさの感触がした。僕はそちらに目をやると、ヒナちゃんのほっぺがあった。まだ寝てたんだ。僕が寝る前はアマテラスと向き合っていたけど今はこちらに向いていた。
「ん〜」
ヒナちゃんが目を覚ます。
「ごめん。起こした?」
「んー?んふ」
ヒナちゃんが寝たまま僕の腕に抱きついている。そうか、この子は自分の意思とはいえ突然家族の元を離れたわけで、寂しいだろうな。保護者を語るならこういう役もやるべきだな。僕は…僕は突然孤児院に入れられたとき、寂しかったのだろうか?たぶんシスターやアリスのおかげでそれを忘れられていた。僕もヒナちゃんにとってそういう人でいよう。僕は大丈夫だった。それならアマテラスは?リリスは?僕はアマテラスを見る。すごく幸せそうな顔で寝ている。
「もう食べられないよ〜」
あ、アマテラスは大丈夫そうだ。リリスの方を見る。
目が合った。沈黙が流れる。顔が近い。いや、そもそも真隣に座っているから顔は近いのは当たり前なんだけど。僕は自然とその唇に視線が向かう。
「なんだ?」
「あ、ごめん。ん?リリスこそどうしたの?こっち見てたけど。」
「ご飯に行かないのか?」
「あ、そっか。忘れかけてた。」
「また考え事か。貴様気づいているのか?普段考え事ばかりで全く話してないんだぞ?」
そうだったのか。全く知らなかったな。今度からは─
「ほら」
「あ、本当だね。あはは」
なにかのギャグかな?言われたことを速攻でやって馬鹿らしくなった。
「ご飯、行こっか。ヒナちゃん、アマテラス、起きて〜」
その後なかなか起きない2人をどうにか起こして両の手にそれぞれ2人の手を握って廊下を歩いていった。リリスは後ろを歩いてついてきていた。
「遅かったね〜レイシくん」
ソロネさんとアルコンの間に座ったクロノスくんが話しかけてくる。長方形のながーーーい食卓に豪華な料理が沢山並んでいる。あ、やっぱりカレーがある。そのまわりに既にみんなが座っている。僕らは空いた4席に左から僕、アマテラス、リリス、ヒナちゃんの順に座った。
「全員揃ったようだな。私は長話が苦手なもんでな。さっそくだが、この不思議な出会いに感謝し、乾杯としよう。」
「かんぱーーい!!」
結局クロノスくんがグラスを上げ、乾杯を合図した。僕らも乾杯をする。
「かんぱい!!」
─パゴーン
アマテラスが力強く僕のグラスにアマテラスのグラスをぶつけてきた。
「ちょ、アマテラス、割れる割れる」
「あはは、ごめんごめん。でもこんなご馳走なかなか食べれないよ!!食べよ食べよ!!」
「うん、そうだね」
僕らはご馳走を食べながら、盛り上がった。
「レイシ!!あーん」
アマテラスがスプーンに米とカレーをすくって差し出す。
あむ
僕は口を開けそれを含む。
「からっ!!辛い!!」
めっちゃ辛いんだけど!!
「あはは!なにその顔!!おもしろー!」
「ひどい」
僕は口を手で押さえながらアマテラスを見る。
「いやー僕は大丈夫だったんだけどね、レイシは辛いの苦手なんだね!!」
「うん、そうみたい」
僕はアマテラスの奥を見る。リリスとヒナちゃんはお話して盛り上がっているようだ。2人とも楽しそうに笑っている。
「クロノスくん、王宮の方は大丈夫なの?」
ちょっと気になっていたから向かいの席にいるクロノスくんに話しかける。
「ん〜?国王代理がいるんだよ〜。ま!パトロンだけどね!」
「あ、そうなんだ。てっきり騎士団に任せてるのかと思ったよ。」
「まぁパトロンもああ見えて国の治安を維持してくれてたり、働いてくれてるんだよ〜」
「パトロンは今頃王宮で何してるのかな?」
「さあ?玉座に座って王様気分を満喫してるんじゃない?」
「あはは、そうだったら面白いかも」
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───クロノス王国王室にて
パトロンは玉座をビーチチェアに変え、そこに座り、サングラスをかけトロピカルジュースをストローを使って飲んでいた。使用人の方は女性がほとんどで頼むことがはばかられるため影操作魔法を使い、大きな葉を仰いでいた。
「ったくよ、クロノスは俺のことなんだと思ってんだ。都合のいいやつと思ってそうだなおい」
と愚痴を漏らしつつ王としての仕事は夜までにしっかりと終わらせていた。
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「騎士団か〜。うーん、新たに騎士団を作ろうかな〜って思ってるんだよね〜」
クロノスくんが珍しく悩んでいる。机に肘をついて、押さえている頬がムニッとしてて可愛いらしい。
「クロノスくんの騎士団、人数が少ないもんね」
「僕がいなくなってもいいように色々考えてるんだよね。国王代理はパトロンでいいとして、パトロンだけじゃ他国にとって僕と同じだけの脅威にはならないんだよね〜。そのために強い近衛騎士団をつけようと──あっ!!」
僕も気づいた。クロノスくんは席から立ち上がり、二席隣からずらーっと並んで座っている5人に話しかけた。
「ねぇーねぇー、やっぱり五大堕落者は孤児院じゃなくて僕の国の近衛騎士団として戦ってよ!!」
アンテノールは驚いた顔をする。
「いや、逆に俺らでいいのか?世界最強の幹部みたいなもんだぜ?」
ハデスが驚きと少しの笑みを浮かべて訊く。
「もちろんだよ〜最近、民間異能治安維持特殊部隊って子達も捕まえてね近衛騎士団になってもらおうかと思ってて、リーダーは君、ハデスにするね!」
民間異能治安維持特殊部隊…ムジたち捕まったんだ。ちょっとおもしろい。
「光栄なことだ、もちろん喜んで引き受ける。だけど、メアリーは」
「メアリーは王宮に仕えるのはどうかな?」
クロノスくんがメアリーの座っている方を見て訊く。
「わらひれよへれは(私で良ければ)!!」
メアリーは料理を頬張った口で答える。
「うん!それなら決まりだね〜」
今度はハデスの方を見て訊く。
「ああ、それでよろしく頼む」
こうして近衛騎士団はすぐに出来上がるのだった。クロノスくんは自分の席に戻り座る。
「レイシくん、2日後に国王会議があるんだけど君も来て欲しいんだ。もちろん君のパーティーメンバーもね。」
「え?なんで?」
「まぁたくさんあるけど主な理由は3つかな〜。1つ目はその魔力量。世界中に存在する魔力全部集めても君の方が魔力量多いんだよね。2つ目は五大元素竜の討伐について。3つ目は五大堕落者の単独討伐だね。2つ目と3つ目は表彰もあるのかな〜?僕にもわかんないや。まぁトータルすると君は世界の脅威になりうる。だから国王会議で判断しようってわけだね〜。まぁ気楽においでよ。なにかあったら僕が守るからね〜。」
まぁ何となく分かるけど守るって何?そんな怖いの?国王会議って。
「わかった。気楽にするね。」
「まぁ今日と明日はゆっくり休んでよ〜。あ!それと五大堕落者の懸賞金は王都のギルドで貰えるから、はい、これ」
クロノスくんが紙を僕に差し出す。僕はよく分からないまま受け取る。
「それを王都のギルドに持っていけば懸賞金貰えるからね〜。好きに使ってよ。世界中の国王が出し合ったお金だから何も気にすることないよ〜それほどアンテノールは世界の脅威になってたからね〜。」
「あ、ありがとう。」
ここは素直に受け取っておこう。
「さ!あとはゆっくりご馳走を楽しも!」
「うん、そうだね!」
「クロノス〜アタイのこと、忘れてないかーい?」
「げっ」
クロノスくんの腕にアルコンが抱きついている。
「国王様、私のことも忘れないでくださいよ」
ソロネさんもクロノスくんの腕に抱きつく。
「レイシくぅん」
クロノスくんが子犬みたいな目で僕に助けを求める。
「クロノスくんモテモテだね、あははー」
「おいおい、クロノスちゃん、私もいるぜ」
見るからに寄ったビストがクロノスくんの席の後ろから抱きつく。
「レイシくぅん」
「あはは、あは、あははー」
僕は笑って流した。その後クロノスくんは思うようにご飯を食べることが出来なかった。食事を食べ終わり、風呂に入った。もちろん男湯と女湯は別だ。僕らは座って体を洗っている。
「レイシくんも助けてくれれば良かったのにー!!」
横にいたクロノスくんが立ち上がり、僕の髪をぐちゃぐちゃにする。シャンプーを手につけて。
「頭洗ってくれるんだ、ありがとう」
「僕の不満も込めて、ね。へへ」
ザバーーン
「おい!ラーフ、飛び込むなよ…って、ユグは泳ぐな!!」
ハデスは大変そうだ。僕は頭を流し、今度はクロノスくんを座らせ、僕も頭を洗ってあげる。
「クロノスくんの能力ってどんなものも治せるんだね。死人も戻せるって本当にすごいよ。」
「まぁ戻してるだけだからさ〜、先天的な病気とか契約とかは難しいかもね〜。あとは呪いとかもね〜。」
「それでもすごいよ。病気も分かる、契約も神秘的というか高次元のことだから分かるけど呪いもなの?」
「呪いは完全な人の意思の塊なんだよね。それを発動前に戻しても、呪う本人の意思が無くならない限り、再度発動する可能性が高いからね。あ!それと起こるのが決まった事象は戻してもまた起こるんだよね〜」
「あ〜確かにね。あと起こるのが決まった事象って?」
「それこそ先天的な病気とか契約もそうなんだけどダンジョンブレイクとかさ、あーゆーのは原因を取り払わないと起こっちゃうんだよね〜」
「なるほどね」
決まった事象は変えられない。またクロノスくんの能力について知れた。いつかクロノスくんともいい勝負できるくらいには強くなりたいな。
風呂を上がり、宿泊部屋に戻る。もうみんな戻ったきてたみたいだ。
「おぉー!!帰ってきた!!」
「みんな何してたの?」
「ババ抜きだ」
「へぇー僕も混ぜてよ」
「レイシさん、ここに」
ヒナちゃんが自分の隣をポフポフと叩き僕はそこに座る。そしてみんな眠くなるまではしゃいだ。
「じゃあ約束通り貴様には一緒に寝てもらうからな」
リリスが腕を組み僕に言う。僕は唾を飲み、
「わ、わかった」
「貴様は真ん中だ」
「うん、え?寝るって普通に寝るだけだよね?何もしないよね?」
念押ししとこう。
「当たり前だ」
「わ、私は前添い寝してもらったのでリリスさんとアマテラスさんがレイシさんの隣で寝てください」
ヒナちゃんが2人に譲る。そうして寝ることになった。しばらく経って、アマテラスとヒナちゃんは眠りについた。また2人とも向き合って寝ている。僕は、
寝れん!!こんなに女の子に囲まれて寝れるわけがないだろう。リリスもさっき部屋の外に出て行ったし、僕もちょっと出ようかな。
僕はベッドを降り、部屋の外に出た。すると廊下の奥の窓際に、リリスがいた。外を見ているようだが、僕に気づいたのか振り返る。月明かりの逆光で分からないが、多分微笑んでいる。僕はリリスの元へ近づいて、一緒に窓の外の庭園と夜空を眺める。
「なんだ起きてたのか」
「僕は夕方寝ちゃったからね。リリスこそ、休んだ方がいいと思うよ」
「夜はいつの時代もどこの場所でも変わらない。美しいんだ。」
「そうだね、美しい」
僕は月明かりに照らされたリリスの横顔を見ながら言う。
「リリス、今日はお酒飲んでなかったよね?」
「ああ、一緒に寝る約束をしていたからな。変に酔って記憶が無くなってはこまる。それに、今日酔えないなら明日酔えばいいからな!」
いつものリリスがしない、にっとした表情で笑いかけてくる。僕も同じ笑顔でそうだねと返した。




