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第40話『君がいたから僕は』

───計画決行当日早朝、拠点にて


 あれからは普通に生活した。と言っても支配下に置かれているから話す以外のほとんどが自分の意思で何もできなかった。そして、この五大堕落者(アンテノール)は躊躇無く人を殺していたんだ。僕が見ている限りでも4日で15人以上も無辜の民を殺していた。僕は毎回逃げるよう叫んだけど結局殺された。僕は目の前で人が死ぬのを見てることしかできなかった。

 だけど、正直そんなことをどうでもいいともどこかで思っている自分がいることに驚いた。いや、驚いてないな。自分が魔族や魔物を殺すときもその敵に会うまでは命を奪うことに不安を感じるけどいざ戦うとなんの躊躇も無く殺してきた。そんなもんなんだ、僕って。

 


───会いたい。アリスに会いたい。また笑ってほしい。笑わせてほしい。


「これから革命が起こるってのにシケた面してんな」


 リーダーのハデスが僕に話しかけてくる。今日はやけにテンションが高いようだ。


「支配してるんだから僕の意思は関係ないでしょ」


「そうなのか?」


 今度はアザトースに聞いている。


「ほとんど関係ないよ。ただ少しだけ本人の魔力出力が変わるかもね。」


「ふーん、じゃあ気合い入れろよな」


 ハデスは僕の肩を強く叩いてきた。これで支配が解ければ良かったのにな。


「ずっと言ってるけど僕は反対だよ」


「同情はすれど理解はし合えないようだな」


「そうだよ。間違っているじゃないかこんなの…。他のみんなだって間違っているって気づいてるのになんで止めないんだよ…」


 僕は他の4人を見た。ユグドラシルは相変わらず立って寝ていた。他の3人は真剣にこちらを見ている。


「あのな、俺らにはハデスしかないんだよ。」


 ラーフが最初に口を開き、続いてシヴァが、


「私たちは家族も友人も故郷も全て失った。」


 そしてアザトースが、


「ハデスは昔からすぐどっかに突っ走るからね。僕らはハデスについて行くしかないよね。」


 この男がはにかみながら笑うのは初めて見た。


「それにユグもこれが最善の世界って言ってたからな。俺らの世界征服は確定事項なんだよ」


 ハデスも笑いながら言ってくる。


「さ、行くか。ユグ、起きろ」


 そう言って僕らは闘技場の裏側へ向かった。

 戦闘部族なだけあってか、闘技場はクロノス王国並の大きさがある。そして壁の向こうにはこの国の国王がいるらしい。2階席から開会宣言を行うため、その後ろから攻撃を仕掛けるそうだ。巡回していた警備員は既にハデスが殺してシヴァが死体を破壊し消している。


「開会宣言を始める」


 アナウンスが鳴った。シヴァが自分の周りに集まるよう手で合図し、僕らはシヴァの立った。

 するとシヴァが左手で土の地面に触れるとハデスを中心に僕ら6人の周りの土がボコボコと盛り上がっていく。

 これが創造の能力か。治す部分しか見てなかったがやはり規模が違うな。



───ゴゴゴゴゴ


 僕ら6人を乗せた筒状の地面はどんどん高くなり、とうとう闘技場よりも高くなった。



「お、おいなんだあれ」


「人が乗ってないか?」


 闘技場の戦士や観客席の人達の視線が一斉に集まる。2階席から開会宣言をしていた犬耳で褐色肌の女性国王もこちらに気づき、


「やはりこのタイミングで来たか、五大堕落者(アンテノール)!!」


「俺らは堕落者ではない!!この世界を革命する者だ!!」


 ハデスが全員に向けて叫んだ。


「うーん、無駄にキャパを使いたくないからなぁ。手前は女子供が多いね。殺っちゃって。」


 アザトースが僕に指示をする。


「待て。なんで僕に──」


 僕の体は勝手に観客席に飛び降りた。


──待て。やめてくれ。それだけは…!!


「みんな逃げて!!」


 僕は全力で叫んだ。観客は動き出したが、一気に動いたがために詰まっている。僕は右手を地面につけた。



───やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ



───最大出力颶風世界(ウインドフィールド)



───ズザザザザサザザザ


「きゃあああ!!」


「やめてー!!」


「せめてこの子だけでも!!」



 地面から風の刃が現れ獣人の体を足元から切り裂いてゆく男も女も、大人も子供も関係なくみんながぐちゃぐちゃになっていく。僕の目の前には人の部位や内臓がごちゃまぜになったり飛び散ったりして観客席を赤く染めた地獄が広がっている。


 ああ…!!なんで僕が、僕の手で!!人を!!


 会場が悲鳴や避難の案内で騒がしくなる。



「これくらいまで減れば十分かな」


 土の筒の上でアザトースがそう言った途端会場中の人達の動きがピタリと止まった。支配したんだ。

 僕はぷるぷると震えている自分の右手を見る。手のひらは流れてきた血がべっとりとつき赤黒くなっている。ああ、僕の手でやったんだ。それに支配も解けたのか。支配できる上限はあるみたいだ。今の支配でその上限に近づいたおかげで僕の支配が緩んで解けたんだ。


「お、まえ、らーー!!!」


 国王が2階席から飛び出し僕の方に爪を突き立て跳びかかってくる。

 もう、殺してくれ。僕は取り返しのつかないことをしてしまった。僕は全くの無辜の民を何十人も、いや100人以上殺してしまったんだ。

 僕は上を向き目を瞑り首を差し出した。


「ガァルル!!」


「させねぇよ」


───ドゴーーーン


 声の直後静かな闘技場に爆音が響く。

 ハデスが割って入り国王を蹴り飛ばしたようだ。


「さ、こっからは消化試合だ」


 ハデスが張り切った声を出し、他の4人も降りてくる。


「て言ってもあとはほんとに見るだけだけどね」


 アザトースがそう言った直後にピタリと止まっていた獣人たちが壁に打ち付けられた国王に向かって襲いかかる。その数は千を遥かに越える。


「お前ら!!私が自国の民を傷つけられないと知って!!」


 人の群れに溺れながら国王は叫んだ。


「はっ、んなこた知らねぇよ」


 ラーフが嘲け、


──ドゴーーーーン


 国王に雷が直撃した。そして雨が降り出す。天候を変えたのだ。


再現(リピート)


──ドゴーーーーン


 ユグドラシルが呟いたあともう一度国王がいる場所へ雷が落ちた。


「ユグ、それは?」


 シヴァがユグドラシルの顔を覗きながらに問う。


「平行世界の僕の能力だよ」


「お前ほんとどこの世界でも強いよな」


 ラーフがもはや呆れている。そしてアザトースは少し嫌そうな表情で、


「僕の兵を傷つけないでよ?治すシヴァが大変なんだから」


「ふ、私のことは気にするな」


「お前ら喋るのはいいけどあっちも本気モードだぜ?」


───ドンッ!


 ハデスが注意した直後に国王のいた場所から鈍い音がした。

 国王は跳び、観客席に着地した。魔力の流れが変わっている。獣化だ。


「やっぱり無傷だな」


 ハデスは予想していたようだ。


「あれが国王ビストの能力『力の権化(パワーアップ)』だ」


「そのままじゃねぇか」


「そのままだね」


「だね」


「だな」


「だからこそ強い。獣化と能力の使用でとてつもなく速く、固く、強くなる。一時的に北斗七星のファルコンをも上回る強化状態になるそうだ。来るぞ、気をつけろ。」


 4人が戦闘態勢に入った。

 アザトースは僕の耳元で話しかけてくる。


「どうせ君は僕らがすることに反対するだろう?今の状態じゃ君の支配は出来なさそうだし、戦っても僕らが勝つから、君のことはどうでもいいんだよね。もうどっかに行っていいよ。」


 そう言って他の4人と同様に戦闘態勢に入る。


 僕は下を向き、とぼとぼと歩きながら闘技場を出た。闘技場内からは凄まじい戦闘音が聞こえる。僕は歩き続ける。街は静かだ。ほとんどの人が闘技場にいたのだろう。そして全員が支配されるか僕に殺されたんだ。



───ジャラ、ジャラ


 前方から金属が擦れる音が聞こえた。見ると小さな犬耳の薄汚れた小さな少女が手足に枷をつけ、よたよたと歩いていた。

 すれ違いそうになり、僕はぴったりと閉じていた口を開けた。


「そっちは、行かない方がいいよ」


「どう、して?」


 お互いに気力のない声で話す。僕は話す気にもならなかったので血塗れの右手をその女の子の顔の前に出した。


「そっ、か…私はどこに行けばいいの?」


「知らない」


 僕はそう言って歩きだそうとしたが、あまりにも可哀想に思えたので話だけでも聞くことにした。


「なんでそんな格好で歩いてたの?」


「檻に閉じ込められてたの。でも今日はその人たちが家に居なかったから抜け出してきたの。」


「そっか…誰に閉じ込められてたの?」


「ご主人様に…私が他の奴隷の方より使い物にならないから檻に閉じ込められて鞭で打たれてたの。」


 よく見ると少女の体には無数の赤い蚯蚓脹れのような痕がたくさんついていた。


「どうして私ばっか…どうして私ばっか…わあぁぁぁん」


 少女は両手で目を擦りながら泣き出した。


──ぽん


 僕は血で汚れていない綺麗な左手を少女の頭の上に乗せた。少女は少し泣くのがおさまり、こちらを見上げた。


「もう大丈夫だよ。今、闘技場で君にとっての英雄が戦っているから。」


「ひっく…どういう、こと?」


「さぁね」


 僕はそれだけ言って再び歩き出した。

 僕はひたすらとぼとぼと歩いた。


──ドクン

 アンテノールは誰かにとっては希望だった。じゃあ僕は?


──ドクンドクン


 僕だけはただの人殺しじゃないか。なんでだよ。間違っているのはアイツらの方なのに。


───ドクンドクンドクンドクン



なんで…




───なんで僕は生きてるんだ?


 その言葉と同時に僕が人をぐちゃぐちゃに殺した時の光景が脳内に流れ出す。



「う、お゛え゛ぇぇぇ」


 吐いた。横にあった壁に肘をつけ無理やり立ち続ける。ここで座り込んだら二度と立ち上がれない気がした。

 気づいたら路地裏にいた。周りは廃墟ばかりだ。僕は適当に廃墟の中に入った。なにもない。ただ部屋の中心に椅子があった。そこに重い体を置く。ただ座っているだけなのに、とてつもない重圧がかかっている気がする。


 もうダメだ。このままじゃ僕が僕で無くなってしまう。いや、そもそも僕ってなんだ?人殺しだ。僕がいるから人が死んだんじゃないか。そう僕のせいだ。僕が殺した人達の遺族はどうなる?僕を許すわけが無い。僕って生きていたらダメなんだ。ああ、その考えに至った時点で、



───僕は自分の首の真横に刀の刃を置いていた。


 ごめんリリス。契約守れそうにないや。もっと色んな話聞けば良かったな。

 ごめんアマテラス。僕の方こそいつもわがまま聞いてもらってた気がするな。

 ごめんヒナちゃん。もっと構ってあげたら良かったかな。

 

「ごめんアリス。僕は王子様じゃなかったよ。ただの人殺しだった……最後に君に会いたいよ…」


「レイシくん!!」


 アリスの声だ。僕は声の方に目をやる。部屋の入口に息を切らした金髪の少女が立っている。


「夢?」


 僕は涙が流れてくる。これはなんだ?走馬灯というやつなのか?


「アリス…」


 アリスが駆け寄ってくる。


「アリス、僕は君に─」


──パチンッ


 頬に衝撃が走る。痛い。持っていた刀が地面に音を立てて落ちる。


「なんで私を置いて死のうとするの!!私を連れていくんじゃなかったの!?」


「なん、で…」


「はぁはぁ、レイシ!!」


「レイシさん!!」


 アマテラスとヒナちゃんも来て入口で叫んでこちらに駆け寄ってくる。


「…どういうこと?夢?」


「夢だったらここに来るのに息切れないよー」


 アマテラスが膝に手をつき屈んで話す。


「リリスさんがあの後3日ほど熱で寝込んでたんです…それで目が覚めたらアリスさんになってて、最初誰だかわかんなかったんですけど、服がリリスさんのものなので何となくわかったんです。」


「じゃあなんでここに…」


「レイシくんの魔力大きいからどこにいてもわかるよ」


 アリスが言う。アリスが目の前にいる。アリスに会えたんだ…!!


「アリス!!」


───ガバッ


 僕は立ち上がり目の前の小さな体に抱きついた。


「ちょ、レイシくん、いきなり恥ずかしいよ」


 やっと会えたんだ。そんなの知らない。


「んじゃごゆっくりー」


「わわっ」


 アマテラスが口を両手で隠して眺めてるヒナちゃんの腕を引っ張り、外に出ていった。


「もぉーしょうがないなぁ」


──ぎゅっ


 アリスも僕の背中に手を回した。


「アリス、ずっと君に会いたかったよ」


「私も、って言っても目が覚めたらレイシくんが冒険者になってて色んな女の子連れて冒険しててびっくりだけどね」


「うぅ、でもみんな強いんだよ。いつも助けてもらってばかりなんだ。」


「いいな〜、私もレイシくんと一緒に冒険したいなー」


「しようよ、今からでも。…そっかリリスが…」


「そうなんだよね、リリスちゃんが夢の中で話しかけてきてね、少し寝るからその間は体を使っていいって。」


「そっか。ありがとうアリス。君が来てくれなかったら僕は…」


「旦那を助けるのも正妻の役割だからね!」


「あはは、元気もらえたよ」


「私ちょっと嫉妬してるんだよー」


 アリスが僕を前に押し頬を膨らませながら言う。


「大丈夫だよ、あの子たちはそういうのじゃないから。保護者って感じだからね。」


「どうだろうな〜、レイシくん結構流されそうだし…レイシくんは良くても他の子がどう思ってるかは別だからね」


「うぅ…」 


「ま、あの子たちいい子そうだし、私と1番に結婚してその後だったらあの子たちとも結婚していいよ!」


「え、離婚とかしないよ」


「そういうことじゃないよ!一夫多妻制みたいな?レイシくんがどーしてもって言うなら許してあげようかと思って…ふふん♪」


 アリスは両手を後ろで組みながら楽しそうに話す。


「なんであの子たちとそういう関係になる前提なの」


「え、だってレイシくんかっこいいもん。モテるじゃん。孤児院でもモテてたもん。」

 

「え、そんなの知らないよ」


「ふふん、私が毎日レイシくんに話しかけて遠ざけてたからね。私の愛は重いよー?」


「あはは、知らなかった。それでもいいよ。僕は君を─」


 アリスが僕の唇に人差し指を当ててきた。


「その言葉は私を助けた時に言ってほしいかな」


「わかった」


「今回は私が助けてあげたから今度は私を助けてね。ずーっと待ってるから!!」


「うん!!」


「それじゃ、頑張ってね!!レイシくん!!」



──ちゅっ


 アリスは背伸びして僕の頬にくちづけをして僕の胸の中で眠った。


「頑張るよ、アリス」


 僕はそう囁いて彼女を抱えて外に運んだ。


「2人ともごめんね、迷惑かけた」


 玄関の前の段差に座っていた2人の女の子に謝罪する。


「わあお姫様抱っこじゃん!」


「い、いいなぁ」


「アリスを頼んだよ、次目覚める時はリリスだと思う」


 僕は先程と違い髪の白くなった女の子の体を2人に預けた。そして──


「行ってきます」


 僕は駆け出した。


「はっや!!」


「私より速いです」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

おまけ

───レイシのハグを見て外に出てきたアマテラスとヒナ。玄関の前の段差に腰掛ける。


「ぎゅーしてたよ!!ぎゅー!!」 


「わ、私もされたことありますもん」


「あー、ヒナ嫉妬してるんだ」


「わかってるんです。頭では。でも心は違うんです」


「よしよし、大丈夫だよー、ん?でもまだあの2人付き合ってないよ?」


「だからって…もう時間の問題ですよ」


「ヒナちゃんが慰めればもしかしたらあったかもよ?」


「いいえ、私じゃダメなんです。アリスさんだから良かったんです。」


「そっかー、よしよし」


「でもレイシさんが元気になってくれるならそれでいいんです、本当に良かった」


「ヒナちゃんが最初に言ったもんね。レイシさん絶対に傷ついてるって、このままじゃ自分のことも傷つけちゃうって…それで急いで来たもんね」


「一緒に旅してたら分かります。レイシさんが一番優しいから…一番傷つきやすいって。」


「そ、そうだね!ぼ、僕もわかってたからね!」


「アリスさんもとてもいい人だからレイシさんが惚れるのも分かります」


「ヒナちゃんも負けてないよ!ヒナちゃんといる時間が長くなればレイシももしかしたら…」


「でもアリスさんとは10年くらいいたらしいですし、難しいです。レイシさんなら10年以内にアリスさんを助けちゃいますよ。そしたらアリスさんと、結婚して、私は…ぐすん」


「そ、それなら!もうレイシのこと襲っちゃお!レイシも男だからその気にしたら勝ちだよ!なんなら既成事実作っちゃえばいいんだよ!責任取らせよ!!」


「前襲った時はもっと仲良くなってからって断られました。添い寝はなんとかしてもらいましたけど。」


「じゃあ今度レイシを酔い潰してみようよ!今までやったことないんだよね」


「やったことないなら、試すのはありですね。今度やってみましょう」


 そしてレイシが来てリリスを預け走り出した。


「はっや!!」


「私より速いです」


 レイシが行ったあと


「本当にアリスってすごいね!!」


「私にはあんなに勇気づけられる自信ありません」


「負けてられないね!」


「はい。楽しみにしててくださいね、レイシさん」




 




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