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第39話『価値』

───ビスト王国、五大堕落者(アンテノール)拠点にて


「おいユグ起きろ」


 アンテノールのリーダー、黒髪黒瞳の男ハデスが立ったまま寝ているユグドラシルの肩を揺さぶる。


「ん?…ああ、ご飯まだ?」


「そんな状況じゃない。レイシ…アザトが連れてきた男が自分の意思で喋りだしたんだ。」


 ハデスがユグドラシルに状況を説明した。


「んーまぁ行動を制限できてるならちょっとうるさいだけで変わんないでしょ」


 このユグドラシルという男は随分と余裕があるようだ。この部屋に流れていた緊迫していたが一瞬で和む。


「命拾いしたね。その子がいないとこのままこの世界征服同好会のみんなは解散していたよ。」


 煽ってみたけど実際そんな感じがするなこの人たち。


「俺らの世界征服というのは手段であって目的ではない」


 リーダーが話してくれるみたいだ。


「ふーん、何が目的なの?」


「そうだな、最終目標は俺の幼なじみの女を生き返らせることだ」


 僕はその言葉を受けた瞬間に顔面から薄ら笑いが消えてしまった。待て、この人──


「俺は、いや、俺ら5人は孤児院出身だ」



──ドクン


──ドクンドクン


 心臓の鼓動が速くなるのを感じる。

 この場にいる全員が真剣な面持ちになる。


「俺らの孤児院は日常と共に魔王軍に潰されたんだ。その時に幼なじみの女が、メアリーが死んじまってな。だけどよ、能力に恵まれてた俺ら5人だけは助かったんだ。でも孤児院の連中も同じ村の人間も全員死んでたんだ。」


 ああこの人は─

 

 僕は言葉を発することができない。支配の影響ではない。胸がいっぱいになって・・・


「そこからは全てがどうでもよくなった。魔族も人間も殺しまくった。一番殺したいのは自分だったのにな。」


───同じなんだ。 

 

 ハデスは部屋の中央にあるソファに浅く座り下を向いて話し続ける。


「そんな俺でもこの4人は文句ひとつ言わずただ静かに見守ってくれてたんだ。そしてしばらく立ってアルコンにあったんだ。」


「アルコン?」


 僕は気になり声に出した。ハデス以外の4人は若干気まずそうな顔をしている。


「ああ、悪魔を名乗る女だ。」


───!?


 悪魔!?リリス以外に存在するのか!?リリスは復活してずっと僕といたから会うはずがないんだ。

 僕は驚いた表情を隠せない。


「アルコンは俺ら、いや俺に言ったんだ。メアリーを生き返らせてやろう。その代わり、全世界の半分の人間を殺せ、と。それで俺はアルコンと契約したんだ。」


「え?」


 思わず声に出てしまった。全世界の半分?1人の人間を生き返らせるために全世界の半分の命が必要なんて、釣り合ってないじゃないか。命の価値は全て同じじゃないのか?


「それ契約として成立してないんじゃない?」


 僕は分かるはずのないことを訊いてしまった。


「そうかもな。だが俺は全世界の知らない人間を皆殺しにしてでも、何をしてでもメアリーを生き返らせたいんだ。」


 こちらに向けた瞳には今まで感じたことのない程の覚悟を感じた。僕もリリスに出会わずに途方に暮れ、アリスを救ってくれると言う存在が現れたらそれに縋っただろうな。


「その気持ち、わかるよ」


 僕は思いの外優しい声色で話しかけていた。


「くっ、お前になにが!!…お前、泣いてんのか…?」


 僕からは涙が流れているらしい。ああ、だってこの気持ちを共感できるのは世界に僕1人だけかもしれない。


「僕もね、君と同じなんだ。孤児院出身で魔王軍に襲われて一緒に旅に出ようと約束していた人を失ったんだ。それで悪魔と契約したんだよ。」


 僕は涙を流しながら震えた声で語る。僕以外の5人はただただ沈黙してそれを聞いていた。


「そう、なのか、お前も一緒だったのか…お前のどんな契約をしたんだ?」


 ハデスが訊いてくる。


「魔神を殺すことだよ。命の価値は等しいんだ。人も魔族も神も。でも君の会った悪魔は怪しい。釣り合ってない気がする。何か裏があるんじゃない?」


「俺もそれは考えた。だがこれ以外に頼るものがないんだよ!お前なら分かるだろ!!」


「うん…じゃあ全世界の半分の命を奪うとしても君たちはこの国で何をしようとしてるの?」


「そうだな、少し長くなるな。みんなは夕飯を作っててくれ。」


 他の4人は「了解」と返事をして各々準備をしだした。その間僕は彼らの計画を聞いた。


 まず前提としてこの国は外部の国や村との連携が少なく、世界から見てほぼ孤立状態なこと。この国の国民…獣人は他の人間よりも戦闘能力に長けていること。

 作戦は4日後この国で最も大きな行事の武闘大会の日に行われる。そこで国中の人が集まる開会式を狙って一気に人々を支配し、軍を作る。そこから他の人間国に移動して人々を虐殺するそうだ。


 作戦時はアザトースの能力が重要になってくるため視界をクリアにするためにラーフが天気を晴れにするそうだ。この2人で開会式に人を支配する。だけど獣人の男は戦士が多くなかなか支配できない可能性がある。その上この戦いが好きな国の国王は国で1番強いため支配できないと想定している。アザトースとラーフが国民を支配している間にハデスとユグドラシルとシヴァで国王を抑える、もしくは殺害するそうだ。アザトースとラーフの護衛として強者が必要で僕はその対象に選ばれたそうだ。 



「やっぱりそんなの間違ってるよ」


 僕はそう言った。ハデスはソファから立ち上がり僕を睨みつけた。


「こっちはもう何人も人を殺してるんだ。今更引けないんだよ。それに他に頼るものも無いんだ。」


「メアリーさんの体の一部とか持ってないの?」


「はあ!?お前急に何言い出すんだ」


 僕は真剣にハデスを見つめた。ハデスは察して口を開く。


「俺は持ってないが、アルコンが自分が悪魔である証明をするために自分の腕を切ってメアリーの腕を作っていたな」


 やっぱり等価交換なんだ。体の部位から同じ部位を召喚する。じゃあ人類の虐殺をさせるその悪魔の目的はなんだ?  


「その悪魔に会えないの?」


「あっちは転移ができるんだ。だから俺らから会うことはできない。あっちからは来るんだがな。」


「そっか」


「会えたらなんかあったのか?」  


「いや、なんもないよ」


 ハデスはしばらく僕の顔を眺めて、


「そうか、だが、計画は変えない。お前も支配から解放はしない。だから従ってもらうからな。」


「従ってもらうというか従わせるんでしょ」


「はっ、まぁそうだな」


 どうにか支配から逃れる術を見つけないと。


──ゴンゴンゴン!


 誰かが玄関のドアを叩いている。



「おーい誰かいるのか?ここは廃墟のはずだが」


 ドアの向こうから男の声が聞こえる。おそらくアンテノールがいるとは思ってないんだろうな。


 アンテノールは声も出さず目でやり取りをしてハデスがドアに向かった。


──ガチャ 


 ハデスが扉を開けた。ドアの向こう側には警備服を来た獣人がいた。そして獣人が部屋の中を覗きながら、


「ここは廃墟だぞ。出ていきなさい。」


 そう言った瞬間ハデスが右手の黒い手袋を外しだした。


「逃げて!!」


 僕は獣人に向かって叫んだ。「ちっ」ハデスは舌打ちして右手を獣人に向かって伸ばした。


「まさかお前ら…」


 獣人はこの人達のことを察して背を向けて走り出そうとした。だが、


──パシ


 ハデスは獣人の背中に触れた。


──バタ


 そして獣人は倒れた。


「おい、お前、余計なことするな」


 ハデスがこちらに振り返り、光の差してない瞳で睨みつけてきた。僕は怒鳴る。


「なんで殺したんだ!!殺す必要なかったじゃないか!!」


「いいか?俺らは世界を敵に回してるんだ。1つのミスで俺らは終わるんだ。お前みたいに温い環境に生きてないんだよ。」


「化け物…」


「そうだ、俺らは化け物なんだよ。お前もこれからそうなる。自分の意思と関係なくその体で人を殺すんだよ。」


 倒れた獣人の胸ポケットから「警備員さんへ いつもありがとう」と拙い字で書いてある手紙が出てきていた。


「この人にだって君のメアリーみたいに大切な人がいたんだよ。逆に大切に思う人もいたんだ。」


「知らないやつの命より自分の大切な人の命を優先するのは普通だろ。その知らないやつの命がどれだけ多かろうとな。」


「なんでそんな躊躇せず命を奪えるんだ…」


「はぁー、めんどくさいなお前。俺にとっての命は手で触れたら簡単に壊れる、そんくらいのもんなんだよ。まぁメアリーだけはそんな考えも簡単に壊してくれたんだっけか。もうあいつはいないが。だからもうどうでもいい。どうでもいいんだ。」


 途中から独り言のようにブツブツと言い出した。この男はもう既に壊れているんだ。この男こそが壊れてしまったんだ。


「シヴァ、処理してくれ」


 ハデスがそう言うとシヴァが右手で死体に触れ、塵となった。シヴァもなんの躊躇いもなかった。この集団は狂ってる。きっと計画当日も同じように人を殺すんだ。


───僕がどうにかしないと。僕が今、世界の存続の選択権を握っているんだ。







 

 





挿絵(By みてみん)

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