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第37話『幸運』

───なんで僕はリリスの首を絞めているんだ…




───やめろやめろやめろやめろやめろやめろ




───殺すなら僕にしろよ…なんで僕が…なんで…




 ある森にて──


 この森を抜ければ次の国だ。国と国の間には独立した村が多くあるんだな。確か世界秩序で独立した街や村及びそれに準ずるものを自国に強制的に取り込むことは禁止する。ってあるんだっけ。あと数日もしないうちに次の国か。どんな国かな〜。そんな期待を胸に僕は3人の幼女と歩いている。字面だと変質者だな。まあいっか。


「貴様、顔が気持ち悪いぞ」


 リリスが結構まじで引いてる。


「リリスさんは今日も辛辣なことで」


「事実を述べたまでだ。アマテラスもヒナもそう思うだろ?」


「キモかった!」


「ま、まぁ…」


 アマテラスはともかくヒナちゃんにそう思われてるのはまずいな。


「ご、ごめん…ちょっと考え事してて」


「変態だな」


「ち、違うって!そういうことじゃないよ、もうすぐ次の国に着くんだなーって思ってただけだよ」


「それであの顔なら余計変態だな」


「う、確かに」


 そんな会話をしてると、道の前方にフードを被った人が歩いてくる…が突然僕らの前方10メートルほどで立ち止まった。


───!?

 水色のショートヘアで身長は低めだ。いや、まさか…


「おい」


 リリスが小声で話しかけてくる。


「うん、探ってみる」


 僕は前に歩きだし、3メートルほどの距離まで近づいた。他の3人には後ろで待機してもらっている。とりあえず話しかけてみよう。


「どうしたの?急に立ち止まって…君1人かな?」


「見つけた」


「ん?何を見つけたの?」


 僕はゆっくりと鞘に入った刀の柄に手を掛ける。妙な動きをした瞬間に斬る。能力を発動するまで本人だと確定できないのが酷ではある。


「強い人。僕ね、みんなに何人か見つけてこいって言われてたから…でも君一人でも良さそうだ。僕は幸運だね。」


 こいつは五大堕落者(アンテノール)の1人、アザトースだ。みんなというのは他の仲間のことだろう。僕は斬りかかろうと一歩踏み出した瞬間、


──目が合った。


「くっ」


 ガクンと膝から体勢を崩しかけるが、立ち上がる。


「驚いたよ。目が合ったのに操れないなんて、君冒険者だよね?初めてだなー。戦士なら精神力が強くて効かないことがあるん──」



───流星一閃


 僕は既に男の後ろに立っていた。

 くそっ。腹に魔力を集中させて致命傷を防いだのか。


──ズバン



──パシッ


「見てダメなら触れればいいんだよ」


 な!?こんなに早く状況を理解できるなんて…


 僕は振り返る間もなく彼の後ろに伸ばした手に触れられた。

 

 そして男の腹から血が吹き出る。  


「痛いなぁ。魔力で防いでこれなのか…防いでなかったら真っ二つじゃん…それと、支配はできなくても考えは読めるんだよ。まぁ僕戦うの得意じゃないから避けれないけど」


 男は腹を押さえながら語る。


 まずい。体が動かせない。これが支配の能力か。強すぎるな。僕の魔力と能力の防御を突破してくるなんて。僕はまた勝てなかったのか。


「これはまずいな」   


 リリスがそう言うのが聞こえた。


「私の精神防御ありでも触れられるとさすがにダメか」


 いつの間にか防御魔法もかけられていたのか。それも触れられたらダメなのか。


「うーん、彼女たちも見るだけじゃ支配できないや」


「爆破魔法」


「防いで」


 僕は男の前に立った。体が勝手に動く。最悪の気分だ。



──ドンドンドン


 リリスの魔法は炸裂するが僕には大抵の魔法は魔力で防げる。


「はは、すごいね、あの攻撃を魔力だけで防げるんだ。うん、君1人でいいや。あの子たち殺してよ。」


 男が笑みを浮かべて指示を出す。くそ、体が勝手にリリスたちの方へ歩き出す。


「おい、アマテラス、ヒナ、逃げるぞ。あいつと戦うのはまずい。」


 リリスが2人に言う。だが、


「嫌です!!レイシさんを助けないと!!」


「僕もやだよ!!」


 お願いだ。逃げてくれ。僕は君たちに危害を加えたくないんだ。頼む。

僕はリリスの目の前に立った。 


「くっ」


──シャン


 リリスは鎌を空間から取り出した。


「リリス、魔法でなんとかできないの?」


「リ、リリスさんなら、」


 アマテラスとヒナちゃんがリリスにそう言うが、


「さっきのを見ただろう!こいつに魔法は効かん!殺すしかないんだ!」


 リリスが大声を出す。こんなの初めてだ。2人は驚いている。


「ねぇレイシ!!起きてよ!!」

 

 ごめん。アマテラス。


「レイシさんなら大丈夫ですよね?」


 ごめん。ヒナちゃん。


「くっ」


 リリスが鎌を振りかざす。だがその鎌の刃は僕の首の真横で止まる。


──ガッ


 僕の両手はリリスの細い首を握り、持ち上げる。

 なんで僕はリリスの首を絞めているんだ…

 やめてくれ。離せ、離せよ!!

 やめろやめろやめろやめろやめろやめろ

 殺すなら僕にしろよ…なんで僕が…なんで…


「あははははは!!」


 後ろで男が大笑いをする。


「能力を発動できないよう抵抗してたつもりだけど逆にそれは仲間を苦しめる結果になるようだね。あははは」


「レイシやめて!!リリスが死んじゃうよ!!」


「やめてください!!いつもの優しいレイシさんに戻ってください!!」


 アマテラスとヒナちゃんが僕の腕を振りほどこうとするが2人の力ではそれは叶わない。


──カヒュ


 リリスが苦しそうになんとか呼吸をしようとする。もうやめてくれ。こんなことしたくない。やめて。僕を殺してくれ。こんなことするくらいなら死んだ方がマシだよ。僕はなんとか声を出す。


「ころ、して、くれ」


「カヒュ…終焉…魔法」


 リリスが僕の顔の前に手をかざすが、すぐにその手を下ろした。



「出来るわけ、ないだろう…貴様、今、泣いてるんだから…」


 ダメだよ。僕を殺さないと君が…!!



──グググググ


 リリスを握る手の力が強くなる。


「がっ、」


 あぁ!!ダメだダメだダメだ。もうやめろ。もうやめてくれ!!



「ヒナ!!あっちの能力者をなんとかして!!」


 アマテラスがヒナちゃんに指示を出す。それならもしかしたら、


──タッタッタッ


 男が僕らから離れるように走り出した。考えを読まれてるんだ。くそ。


──ドンッ


「なんとか当たりました。けど─」

 

 能力は解けない。


 「ぐああ!!」


 男は背中に拳大の穴が飽き、倒れる。


「もういい!!僕を仲間のところまで運べ!!」


 僕はリリスから手を離し、男の方に走り出す。

 リリスは地面にしゃがみこみ、


「ゲホゲホ、ゲホゲホ」


「リリス!!」


「リリスさん!!」


 2人は駆け寄りリリスの心配をする。


「レイシ待って!!」


「待ってください!!」


 2人が僕の方に手を伸ばし、呼び止めるが、僕は男を担ぎ、走り出す。みんな、逃げてくれ。


「げはっ」


 男は運ばれながらびちゃびちゃと吐血している。


「次会ったら殺す…ぐああ!」


 僕は担いでる腕を絞めた。これくらいの抵抗ならできるみたいだ。


「触れても完全に支配できないなんてな…まぁいい。早くシヴァに治してもらわないと…痛い。腹がほぼ貫通してるだろこれ。」


 しばらく森を走っていると、


「お、おい君大丈夫か?……お前!アンテノールのアザトースじゃないか!!」

 

 獣の耳が生えた男が話しかけてきた。


「殺せ」


──ズサァ


「ガハッ、お前、ふざけるな」


 僕はアザトースを投げた。そして刀を作り出して握る。


「さっきは能力使えなかったのに今は使えるのか…仲間に対しては使えないってところなんだ」

 

 アザトースが言う。

なんで刀なんて作ってるんだ!!このままじゃ僕は人殺しになってしまうじゃないか…もうやめてくれ…


「グルルルル」


 獣人が四足歩行に構えた途端、魔力の流れが変わった。そしてどんどん少なくなっている。


「獣化だよ。全能全魔(ムステリオン)ほどでは無いけど魔力回路を無理やり広げて出力を上げるんだ。こうすることによって身体能力を普通の魔力強化よりはるかに上げるんだ。ま、その分肉体強化だけで魔力を使い切るんだけどね。あはは」


「ぐああ!!」


 獣人が飛びかかってきた。速い!!



キンキンキンキン


 なんとか抵抗する。


「もっと強く能力を使え」


 やめろ!!

 僕の体は右手を地面につけた。



火炎世界(ファイアフィールド)


「ぐああああ」


 獣人は燃やされる。


「僕を運べ。死ぬのを見てるほど時間は無い。」


 そしてアザトースを担ぎ、走り出す。


 僕はもう少しで人殺しになっていたんだ。もう嫌だ。こんなの。




───誰か助けて






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