第35話『こんな日々』
───レオくんが元気になった翌日の朝
「そうか、もう行くんだね」
リオさんが少し寂しそうに言った。結局魔王軍はここら辺りの地域まで変装して来ていることがわかったからいち早く魔境の原因を突き止めあわよくば解決したい。魔王軍が魔境の両サイドから攻めてきたら人類は挟み撃ちにあう。そうなると大量の犠牲どころでは済まないだろう。世界の中心とも言えるクロノス王国だけは無事でもそれ以外の人類は滅亡するだろうな。そうならないためにも魔境を取り払い、こちらからも攻める方がまだいいだろう。
「はい。魔境を調査しないといけないので。」
「そうか。アタシは弟との時間を取り戻そうと思う。これまでの間何もしてあげられなかったからね。」
「ぜひそうしてあげてください」
沈黙が流れる。というよりリオさんはなにかを言い出そうとしているがなかなかその口が開かない。
「あのさ、レイシ。…君たちならきっと魔境もなんとか出来て、魔王も倒せると思う。…だから、また近くに来たらこの村に寄ってくれ。またみんなで宴会をしような。」
「はい!リオさんも頑張ってください!リオさんならファルコンさんにも並べると思います!!」
「はは、越してやるよ」
「それじゃあ」
「またねー!!」
「ま、また必ず来ます」
「おう!楽しみにしとく」
そう言って僕らは手を振って歩き出した。
───しばらく森の中を歩いて
「ねぇリリス、さっきなんで挨拶しなかったの?」
さっきリリスだけ別れの言葉を言わなかった。さりげなく手は振っていたけど、言葉は一言も発しなかった。
リリスはしばらく沈黙して、
「私は魔王を倒し、魔神を殺したあと、この体をアリスに返して消えるつもりだ。…だからあの村にはもう行くことはない。」
最近リリスが本当に表情豊かになった。それも負の感情のときにより顔に出ている。
「えー!!そんなのやだよ!!」
「私も嫌です!」
アマテラスとヒナちゃんが僕より早く反応する。
リリスは驚いた表情をしている。ここまでリリスが驚いた表情を見せるのは初めてだ。
僕は立ち止まりリリスの両肩を掴む。
「ほら、リリスがいなくなると2人も寂しがるよ。もちろん僕もね。あとね、リリス。前にも言ったけど契約が終わったあと、僕は君も助けるつもりだから。勝手に諦めないで。」
「き、貴様こそ私のことを勝手にするな」
リリスがそっぽを向いて照れている。僕は自分を諦める人を放っておけないのかもしれない。
「リリス!!」
──バッ
アマテラスがリリスに抱きついた。リリスは困惑して、
「な、なんだ」
「僕リリスがいなくなるのいやだよ!!」
「わ、わかったから離してくれ」
それでもアマテラスは離さない。アマテラスはリリスを見上げて、
「約束して!!魔神を倒したあともどこにも行かないって!!」
「…わかった。約束する。」
「うん!」
アマテラスが抱きつくのをやめた。リリスがアマテラスの頭を撫でている。
「私たちも約束しますか?仲良くなったら…することを。」
ヒナちゃんが小声で僕に囁いてきた。
「いや、ちょっとそれは、約束できないかも…」
「ふふ、冗談です」
僕は顔が赤くなった。勘弁してくれ。
その後僕らは夕方まで歩き、開けた場所で野営の準備をした。
「おい貴様、夜ご飯はどうする?一応リオの村で食料は調達したが…」
僕もリリスのことはわかってきた。ここで食料あるならそれを食べよう。保存期間もあるしね。というのは過ちである。これ、リリスはぼくが食料調達に誘うのを待っているんだ。
「うーん昨日リオさんの村の料理たくさん食べたから今日は違うものも食べたいな〜。リリス、2人で狩りにでも行かない?」
するとリリスは口角を上げ、
「そうだな、2人で行くか」
よし正解だ。これで間違った回答をすると機嫌を悪くして殴られるからな。助かった。僕はアマテラスとヒナちゃんに向かって、
「それじゃ、リリスと狩りに行ってくるから、晩御飯楽しみにしててね」
「はーい!!」
「わ、分かりました」
リリスは野営地に防御魔法を張り、僕らは狩りに出た。アマテラスとヒナちゃんのために忘れずに防御魔法を張るあたり、本当に気が使えるし優しいんだよね。
───レイシとリリスが狩りに出たあとの野営地にてアマテラスとヒナは並んで座っていた。
「ねぇヒナってレイシのこと好きなの?」
アマテラスがなんの躊躇もなくヒナに問う。
「え!?きゅ、急にどうしたんですか?」
「前一緒に寝てたよね!ヒナの家でベッドの上で。レイシはきっと床で寝るの選ぶだろうからヒナがお願いしたのかなーって。だから好きなのかなーって。」
「レ、レイシさんはお客さんでしたから、ベッドで寝るのが当然です。」
「それもそっか!!」
アマテラスは素直に受け入れた。しばらく沈黙が流れ、
「そ、その!!好きなんです」
「え!?僕のこと!?」
「いや、アマテラスさんも好きですけど、レイシさんのことが…」
「やっぱりー!僕はレイシの親だからね!なんでも言ってごらん!」
その瞬間、ヒナの中にとてつもない情報が流れ込む。
え?レイシさん母親と旅してるの?それに頭撫でたり、肩車したり…え?
「あ!!違うよ!!母親と言ってもレイシは神の子って言われてたから実質僕の子でしょってことで、(こっちの体は)血が繋がってるわけじゃないよ!!」
「あ、そうなんですね。良かった。」
「それでー、どこが好きなの?」
「一目惚れしたんです。でも、その後色んなことがあってもっと好きになりました。もちろん見た目も好きです。大人っぽい雰囲気があるのに顔は中性っぽくて少し幼さが残ってるとことか。目に光が差してないのに優しく笑ってくれるところとか。なんでもできそうに見えて家事が苦手なところとか。普段は優しくてずっと笑顔なのに戦う時は真剣な顔だったり、嘲笑う顔だったり、煽ったり、叫んだり…全部が魅力的なんです。」
「ゾッコンだねー!!」
「他にもいっぱい出てきますけど今はやめときます」
「もっと聞きたいなー!まぁ今度また聞くね!レイシの方はどうなの?」
「いい意味でも悪い意味でも平等なんです」
「確かにそうだねー、レイシからアリスのことは聞いた?」
「アリス?いえ、全然、もしかして昼にレイシさんがリリス“も”助けるって言ってたから他にも誰かいるのかと思っていましたが」
「そうそう!!そのことだよー、僕も本人からは詳しく聞いてないんだー、リリスから聞いたんだよね」
アマテラスはアリスについてヒナに話した。
「そうだったんですね。そんなことが…じゃあレイシさんはアリスさんのことが─」
「そうかもしれないね。どうする?諦めちゃうの?」
「いえ、諦めません」
「じゃあアリスのことを忘れるくらい惚れさせるの?」
「いえ、きっとレイシさんがアリスさんを好きでいたら、ずっとアリスさんのことを好きでいると思います。でも、私は諦めません!2人目の妻になればいいんです!」
「僕の村ではそんな風習なかったけど…そっか!一夫多妻制ってやつだね!」
「はい!レイシさんの一番になることは難しいかもしれませんが、私はそれでもレイシさんと一緒にいたいです!」
「そっかー、じゃあ僕もそこに混ぜてもらおうかなー」
「えー!?」
──一方レイシとリリスは
森の中を歩きながら、
「久しぶりじゃない?2人きりになるの」
「ふむ、確かにそうだな。孤児院が懐かしく感じるな。」
「どういうこと?」
「実は私はアリスの中にいる時も貴様を見ていたんだ」
急にすごいこと言ってくる。しかも平然とした顔で。
「えー恥ずかしいな」
「ふふ、貴様は変わっていたからな。あれだけ幼い頃から鍛錬をしているのは珍しかったな。たが、そのおかげで今貴様はかなりの実力者になっている。素晴らしいことだ。」
「ありがとう。リリスは2000年前から生きてたんだよね?人間はいたの?」
「ふむ。そうだな。原初の人間が1人、その後多くの人類が発生したが魔神に滅ぼされたな。原初の人間を除いて。まぁ細かいことはいずれ話す。」
予想以上に重い過去がありそうだ。あまり触れすぎないように気をつけよう。
「リリスは結婚とかしてたの?」
「いや、そんな概念はなかったな。ただ、その原初の人間が聖神と魔神の間に産まれた子ではあったな。感情は存在していたな。まぁ聖神と魔神の間に愛は無く、あったのは好奇心だったろうが」
今、僕すごい話聞いてるかもしれない。…愛か。
「そっか、リリスはその時好きな人とかいたの?」
「ふむ、そうだな…強いて言うなら原初の人間を好きだと思い込んでいたな。今となってはそれは兄のように思っていただけのようにも感じるが。私、悪魔と天使は原初の人間の後にそれぞれ魔神と聖神によって作られたんだ。だから原初の人間は兄妹…兄のようなものだった。」
「そっか」
そうは言ってるけどリリスの顔は寂しそうに見えた。リリスは悪魔。原初の人間は文字通り人間なんだ。種族が違うということは寿命も違う。その人はもう──
「何をそんな悲しそうな顔をしている。勝手に推測して勝手に同情するな。それに─」
──ガサガサ
茂みから巨大なうさぎが出てきた。高さが2mくらいある。
「リリス、今日の晩御飯が決まったね」
「ああ、私はシチューがいいな」
その後うさぎを狩ってリリスの魔法で収納して野営地に持ち帰った。
「おかえりー!!」
「おかえりなさい」
「うん。ただいま。」
「帰った」
「今日はこれを取ってきたよー」
僕がリリスに目で合図してリリスがうさぎを収納魔法から取り出し、地面にドサッと落ちる。
「ええー!!すごーい!!」
「こ、こんなに大きなうさぎさんがいるんですね」
「今日は色んな料理作るよ」
その後料理を沢山作ってみんなで楽しい時間を過ごした。リリスはシチューを食べてニコニコになってて可愛らしかった。アマテラスは焼いた肉に豪快にかぶりついて可愛らしかった。ヒナちゃんは鍋料理をずっとフーフーしてて可愛らしかった。
何気ない日々が幸せに感じる。アリスともこんな日々を過ごしたい。




