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第33話『村長』

───村の前にて


 今朝リオさんの弟を助けたいことを3人に伝えたら快く了承してくれた。リオさんの故郷の村はここから近いらしく早ければその日のうちに到着できるらしい。


「みんなありがとうな」


「気にしないでください。リオさんにはお世話になってますから。」


「ふん、こいつのわがままはいつも聞いてるからな」


「ぜ、絶対助けましょう」


「それじゃあ、しゅっぱーつ!!」


 こうして僕らは出発したわけだが─


 迷った。みんなとはぐれてしまった。森に入ってしばらく経った時、急に辺りが霧に包まれてみんなとはぐれてしまった。みんな無事だろうか。ただ、今はこの霧に包まれた目の前にある村に向かうしかない。霧のせいで魔力探知がまともに機能しない。この霧、魔力由来のものだ。僕は警戒しつつ村に近づき、木の柵の間にある門を一歩踏み出した─


──途端に霧が消え去り視界が開ける。


 周りを森に囲まれた小さな村だ。一見普通の村だが、僕はその光景を見て驚いた。村人が全員紫髪に紫の瞳…魔族だ。ここは、魔族の村か?

 するとこちらに気づいた住人が僕の周りに集まってきた。敵意は無い。何もしないで様子を見よう。


「おや、人間のお客さんかい?」


「ばあちゃん、ここは魔族しか来れないようになってるって聞いたよ!だから人間が来れるはずないよ」


 祖母と孫らしき魔族が僕について話している。また、


「あんたすごい魔力量だねー。人間に化けてんのか?」


「にしては珍しい髪色と瞳じゃないか?人間に化けるとしてももっと一般的な人種に化けるんじゃないか?」


 魔族の夫婦も僕を眺めながら語っている。


「いや、すまないね。うちの住民が。」


 遠くからこちらに若めの高身長の男が向かってきた。村長かな。


「私はこの魔族の村の村長代理、グラードだ。よろしく頼む。」


「レイシです。よろしくお願いします。」


 代理なのか。とりあえず挨拶しておこう。


「ふむ、この村は魔族のみが来れるはずなのだがな。レイシくんは魔力量は多いが人間だろう?途中霧に包まれたと思うが、あれは魔族のみに発動してこの村に導く結界のようなものなんだ。」


「はい、人間です。不思議ですね。」


「たしかに不思議だな。君、全く恐怖してないんだな。普通の人間なら魔族しかいない村を見ると腰を抜かすほど怯えると思うんだがなぁ。」


 たしかに、幼い頃の僕ならそうなっていたんだろうな。全ての命は等しく同じ─


「驚きはしましたよ。ただ、僕は人間も魔族も同じようなものだと思います。」


 するとグラードは涙ぐんだ瞳をこちらに向けて、


「こんな人間は見た事がない!!ぜひ村長に─」


───ゲホッゲホッ、こ、ここが魔族だけの村、ようやく…辿り着けたんだな、俺は…


 突然僕の後方に傷だらけの魔族が現れた。右目、右腕が欠損し、右足も引きずっており、左半身の皮膚が無く、腹部の服は破られ、大量の血液が付着している。


「どうしたんだ!?大丈夫かい」


 グラードが傷だらけの魔族に駆け寄り心配する。


「俺は人間の…貴族の奴隷にされてたんだ。そこで、俺は…俺は!!」


 パニックに陥っている。酷い目に遭わされたんだろう。


「気持ちはわかるが…皆さん!この方を診療所に──」


「僕が治してもいいですか?」


 僕ならすぐに治せる。僕が治した方が痛みに苦しむ時間も少なくていいだろう。


「できるのか!?それならぜひ頼む」


 グラードからお願いされる。怪我人をよく見ると腹部には大きな穴が開いている。おそらく内臓を生きたまま引きずり出されたのだろう。そして僕は怪我人の顔の横に手をかざす。


「ひっ!」


 怪我人は最初は怯え、震えていたが、僕が能力で治療を始めると、徐々に痛みで歪んだ表情も消え去っていき、


「ありがとう。…君は人間なのか?」


「はい」


「人間は酷いやつしかいないと思っていたけど君のおかげで少し考えが変わったよ。まだ怖いけど。」


「多くの人が魔族を恐れています。僕もその1人でした。魔族をいたぶって遊ぶ人間の方が極わずかだと僕は思います。」


「そう、なのか…そんな事は関係ないな。助けてくれてありがとう。」


 優しい顔を向けてくれた。その後グラードの手配によってその人は様子を見るため診療所に連れていかれた。


「さっきは本当にありがとう。彼の苦しみを取り払う最善の方法だったと思うよ。ここじゃなんだし、村長の家に来てほしい。」


「ぜひ」


 そして僕は村長の家へ案内された。見た目はやはりどこにでもある村長の家という感じだ。ここに来るまでに村の様子を見たが、畑や農場のような場所まであった。村の魔族はみんな幸せそうな顔だった。むしろそこらの村より栄えている。

 僕はグラードと机を挟み向き合って座った。


「村長は寝たきりでね、向こうの部屋のベッドにいるよ。もうかなりのお年なんだ。もういつ亡くなってもおかしくないんだ。」


「そうなんですね、ここに来てなんですが、僕はあまり長居できないというか、仲間とはぐれてここに迷い込んでしまって…」


「そうだったのか、すまないね。少しだけ話を聞いて欲しい。手短に話す。」


「それなら大丈夫です」


「ここは魔族にとってはユートピアのような場所として広まっている。魔王軍に属していない野良の魔族は迫害され、酷い目に遭うものも多い。そういうものが人間の手からどうにか逃れ、ここに来るんだ。」


「そうだったんですね。全然知りませんでした。」


 いったい何の権利があって迫害をするんだ。そんこと何があっても許してはいけない。


「ここの村はそういう者の逃げ場として先々代の村長が作った村なんだ。多くの森からここに繋がる結界を作り入った魔族をこの村に召喚するというものだ。逆にそういう者が人間を恨み報復しようとするのが魔王軍だろうな。やり返しなんて…ずっと同じことを繰り返す無間地獄だというのに…」


 少し村長は悲しそうな顔をしている。魔王軍は人間に報復をする集団…だからといって罪のない人達まで…いや、人間も同じなのか。たしかにこれは終わりのない争いだな。どうすれば…


「これは偶然来れた人間である君に知ってほしかっただけなんだ。そんなに気負わないでくれ。」


 今度は笑顔で話してくれる。優しい人だな。


「さっきの怪我人の人、酷い怪我だったろ?あれは抑制剤を投与されていた。魔族は人間で言う致命傷を受けてもゆっくりだが再生するんだ。吸血鬼ならもっと早く再生するんだがな。だがあの方はほとんど再生していなかった。できるだけ長く苦しみようにだろうな。酷いことをする人間は確かにいる。だが人間に君のような優しい人がいることを知っている。だから僕は、この村の人々は戦うのではなく逃げることを選んだ。この村のことは忘れてもらってもいい。だからどうかこの村のことは秘密にしてほしい。」


 頭を下げて頼んでくる。


「顔を上げてください。僕はこの村のことを忘れることはしません。だからと言ってこの村の存在を人間に広める気もありません。」


「レイシくん!ありがとう」


 希望に満ちた表情で僕の顔を見ている。そして深呼吸をして、


「最後に村長に会ってもらえるかい?」


「もちろんです」


 そして僕は隣の部屋のベッドの上で寝たきりになっている村長の隣にグラードと共に並んだ。もうほとんど目も開いていない。やせ細っていて皮膚は干からびたようにシワシワだ。そして瞳こそ紫色だけど髪は白色だ。魔族も老いるんだな。


「村長、こちらは人間のレイシくんです」


「人間となぁ」


 ひどくしゃがれた声だ。


「レイシと申します」


「わしは…村長だ。もう自分の名前も思い出せん」


 見ているだけで悲しくなってきた。ヨボヨボの右腕を震えながら伸ばしてきた。僕はそれを両手でぎゅっと握る。


「もう人の体温も感じないが、うむ。温かい。」


 隣でグラードが俯き唇を噛み締め、下ろしている両拳をグッと握っている。


「そうか、最期に話すのが人間とはなぁ。辛い思い出もあるが優しい人間もおったのぉ。…おや、人間では無い…君は…君たちは…」


 なんだ、村長には何が見えているんだ。村長の顔をよく見ると、ほとんど開いてない左の瞳の奥に赤色の魔法陣が見えた。


「そんな、最期って村長!!」


 グラードが大声を出す。村長は幸せそうな顔をしている。僕は、村長の手を強く握る。


「村長、僕には力があります。必ず人間と魔族が手を取り合えるような世界にしてみせます!!だからどうか安心してください!!」


 自分の名前を忘れ、死ぬ間際まで忘れることの出来ない辛い記憶。そんな経験をほかの人に味わってほしくない。僕がこの世界を変えるんだ。この世界に神の子として生まれたのならば。


「ミレイ、ソヨ。そこにいたのか…やっと…会えたな…今…そこにいくからなぁ。」


 最期に村長はそう言って息を引き取った。

 グラードはしばらく大声で泣いていた。その後、村はバタバタしだした。僕は村から出ていくことにした。村の門の前でグラードが、


「今日はいろいろとありがとう。すまなかったな。」


「いえ、全然。これから忙しくなると思いますが頑張ってください。」


「ああ。…門を出たら元の場所に帰れるはずだ。」


「分かりました。ありがとうございます。必ず人間と魔族が手を取り合えるような世界にします。」


 僕は門に向かって歩き出した。


「ありがとう。レイシくん。君ならきっとできる。」


 村を一歩出た瞬間辺りが霧に包まれ、霧が消えたと思ったら僕は森の中にいた。


──おーい、レイシー!!


 遠くでリオさんの声が聞こえた。僕はリオさんのもとに走り合流し、その後みんなも集まった。どうやら手分けして探してくれていたらしい。そしてみんなには普通に遭難したと話した。


「貴様が遭難とは珍しい…どうせまた人助けでもしてたんだろう」

 

「さ、さあねー」


「全く!!予想外だったよ!!」


「ほ、本当に心配しました。でも無事で良かった。」


「見つかって良かったよ。体調は大丈夫かい?」


「大丈夫です。元気ですよ。」


「ふむ、貴様、涙の跡があるぞ」


「えー!レイシ泣いてたんだ!!」


「な、泣いてないよ」


「そ、遭難して寂しかったんでしょうか」


「ははは、君でも泣くんだね」


「泣いてなーい!!」


 そんな強がりを言ってみたり。


「誰だ」


 リリスがいち早く反応する。


──ガササ


 近くの茂みで音がした。するとそこには傷だらけの紫色の髪と瞳の魔族がいた。


「どうする?」


 リリスが僕に聞く。


「や、やる気か!?」


 魔族が怯えながら戦闘体制に入る。


「みんなちょっと待ってて」


 そう言って僕はゆっくりと魔族に近づく。魔族はポーズをとりながらも怯えている。僕は魔族に近づき、手を前にかざした。


「も、もう痛くしないでくれ!」


「大丈夫」


 僕は魔族の傷を癒した。魔族は間の抜けた表情になり、


「あ、あれ…治ってる」


「治したからね」


 すると魔族は嬉しそうな顔で、


「ありがとう!助かったよ」


 僕は魔族の耳元で小声で、


「魔族の村を求めてるんだろう?この先に進むんだ。僕を信じて」


 そう言って指を指した。そして魔族は走っていった。僕はみんなの元へ戻る。


「いいのか?逃がして」


 リリスが聞く。ほかのみんなも不思議そうな顔だ。


「ん?怪我人を助けただけだよ」


 するとみんなの表情が明るくなり、


「さすがレイシ!!」


「や、優しいです。そういうところが…」


「本当に君はいい人だね」


「ふむ、魔王軍にまで慈悲をかけるなよ?」


「あはは」


 僕は助けられる命は助けていきたい。僕は体の向きを変え、


「さ、リオさんの弟も助けに行こっか!」


───僕らは歩き出した。





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