第31話『努力と才能』
「次はアタシが相手するよ」
そう言ってリオさんが小さな闘技場に飛び降りる。
「まじか、そのままAランク試験始めんのか?」
「確かにBランクは一瞬で終わっちまったけど」
「え、リオさんが相手すんのか!」
静まっていた会場がリオさんの一言によってざわつきを取り戻す。気絶していたBランク試験官を職員さんが2人がかりで運びだし2人は向かい合う。
審判が訊く。
「準備はいいですね?」
「は、はい」
「ああ」
と言いながらリオさんは弓矢を構えている。さっきヒナちゃんが開始と同時に仕掛けたようにリオさんも開始と同時に矢を放つつもりだ。心配してヒナちゃんの顔を見る。うん、少し怯えているけど瞳には覚悟が現れている。大丈夫だ。
「Aランク試験──開始!!」
──瞬間、リオさんが矢を放つ、ところまでは見えた。
ドゴーーーン
「ははは!!」
笑ってしまうくらいだよ、こんなの。ヒナちゃん強すぎる。1歩も動かずして敵を倒してしまうのだから。矢を放った位置にはバキバキに折れた矢が落ちていて、リオさんは壁にぶつかっている。とんでもないな、この子。僕よりも強い。
「勝者ヒナ・アイオーン!!Aランク試験合格!!」
──ガラガラ
崩れた壁の中からリオさんが立ち上がって出てくる。
「すごいよ、ヒナ。やっぱり認識すら出来なかった。」
「そ、そういう能力ですから」
「ふはは、面白いね」
いい雰囲気だ。
「まじか、Aランクをこんなにあっけなく…」
「うおぉぉぉぉ!!」
「嬢ちゃんすげぇな!!」
「なんもわかんねぇ!!」
とりあえず会場が盛り上がる。
「おい、レイシさん、あんたのパーティーとんでもねぇな!!」
世紀末の格好の人が興奮気味に話しかけてくる。
「そうですよ。強いんです。この子たちは。」
「ヒナちゃん!!おめでとう!!」
僕は笑顔で大声を出す。ヒナちゃんはにこにことした顔でぺこりとお辞儀をする。今日はご馳走にしよう。
「おい!レイシ!!もしダンジョンに行くことがあるならアタシも誘ってくれ!」
リオさんが闘技場から叫んでいるので僕も返す。
「もちろんです!明日にでも行きましょう!!」
その後僕たちパーティーはギルドの外に出た。
「ヒナちゃんがすごすぎて今日は夜までまだまだ時間があるから自由時間にしよう。夜までには宿に帰ってきてね。それと、明日ダンジョンに行くのはどうかな?」
「了解だ」
「やったー!ダンジョンたのしみー!!」
「わ、私も興味あります」
「うん、ありがとう。それじゃまた宿でね。村からはなるべく出ないように気をつけてね。」
そう言って解散したのだが──
──村の魔道具店にて
僕は屈んで商品を見ながら、
「なんでついてきたのかな?ヒナちゃん」
僕は買いたいものがあったんだ。見られたくないものだ。
「つ、ついてきたら…だめですか?」
隣で立っているヒナちゃんが言う。
「そんなことないよ。せっかくの自由時間だし、自分が好きなことした方がヒナちゃんのためかなって」
「仲良くなりたくて…」
「もう仲良いと思ってるよ」
「そ、そうじゃなくて、あの時『こういうのはもっと仲良くなってから』って言ってたから」
確かにあの時、咄嗟に言ってしまったな。うぅー。ちょっと意地悪言ってせめてこの魔道具店にいる間は離れてもらおう。僕は屈んだままヒナちゃんの方を見て、
「へぇーヒナちゃんは僕とそういうことしたいんだ〜」
絶対今の僕の顔、酷いことになってるだろうな。するとヒナちゃんは頬を赤くし右の拳を口の前に持ってきてキョロキョロした後上目遣いで、
──コクン
と頷いた。
違うんだ!!ヒナちゃん!そういう反応を求めたわけじゃないんだ。
「ごめんヒナちゃん!!」
僕は姿勢を正して頭を下げた。
「ど、どうしたんですか?」
「少しの間離れてもらおうと意地悪言ったんだ。」
やっぱり正直に伝えないとだめだと思った。するとヒナちゃんの顔はさらに赤くなり、
「え、じゃあ私、意地悪に正直に答えて…」
プシューと蒸気が出たんじゃないかと思うくらいヒナちゃんの顔が赤くなった。そして、
「ちょっと頭冷やして来ますーーーー!!!」
そう言って店の外に走って出ていった。頭冷やすべきなのは僕の方なんだけどね。まぁ離れたなら買えるな。そう思って会計の隣の「色んな動物になるケモミミカチューシャと尻尾セット」を取って買った。ヒナちゃんもパーティーに加入したし、いつか来るその時のために買っておかないとね。
───夕方、宿に戻った。
「あれ、みんな戻ってくるのはやいね」
「ああ。貴様のことだ、今日は豪勢な料理でも食べに行くのだろう?」
「僕もそう思ってた!!」
「わ、私はあの後すぐ帰ってベッドで暴れてました」
ヒナちゃんには申し訳ないことしちゃったな。それなら─
「よーし!今日は僕の奢りにする!!だから遠慮せずみんな食べて呑もう!」
その後僕が自由時間のうちにリサーチしといた飯屋に向かい、ご馳走様を食べた。
「どうしよう」
みんなが酔いつぶれて大きな机に小さな顔をつけて寝ている。2人なら僕一人で運べるんだけど3人となると─
「手伝おうか?」
この声は…僕は声のした方を向く。
「リオさん」
「ああ、アンタが昼間にこの店を眺めてるのを見かけてね。アタシも夜食べに行こうと思ったんだ。そしたら昼じゃなくて夜に食べてたのか。ヒナの合格祝いってとこか。」
「そうなんです。こういうのはきっちり祝った方がいいかと思うんだ。」
「いい保護者だな。」
「そうなれるよう頑張ります」
「はは…それで、この子らを宿に運ぶの手伝おうか?」
「はい。お願いします。」
「いいね…けどそれならアタシにも飲ませてくれよ。」
なるほどね。そういうことか。
「それくらい全然いいですよ」
「いいね、懐も広い。いい男だ。」
「いやいや、手伝っていただくんだから当然です」
「へへ、おもしろいね」
リオさんがお酒を注文し僕も追加で注文した。
リオさんは脚を組み、氷とお酒が入ったグラスを掴むように持ち、カラカラと音を立てながら振っている。すごく様になっている。
「へぇー、魔王軍の幹部は能力2個持ちで魔眼まで持ってたのか…まぁアタシには関係ないけどね」
「なんでですか?」
「戦う気が無いんだよ…アタシはパーティーを組んでないからね…というか組んでもみんなすぐにアタシのこと嫌って離れてくか死んでしまうんだ」
リオさんはどこか寂しそうな表情をしている気がする。
「そうなんですか」
「アタシはさ、他のAランクの奴らに比べて能力が弱いんだ…ほら、アタシの手握ってみな」
向かいの席に座ったリオさんは片手を差し出してくる。僕はその手を握る。
「どうだ?効くか?」
「いや、特になにも」
「やっぱりね、それだけの魔力量だと効きもしないか。今アタシは麻痺の毒を使ったんだよ。アタシの能力は毒の散布や付与だ。矢に塗って使うこともあるが大抵効かない。弱い能力なんだよ。」
リオさんは笑ってる。けど無理して笑ってるようにしか見えない。
「リオさん…」
「おいおい、アタシは別に悲しんでないぞ。ただ、今日は圧倒的な才能を見て少し驚いただけだよ。」
確かに頑張ってきた人からするとヒナちゃんの能力は圧倒されるだろうな。リオさんは一息ついて、
「自分の能力が弱いならそれ以外を強くすればいいだけだ。魔力出力、肉体強化を成長させて、体術を鍛えて、遠距離が体術で通用しないなら弓矢を極めて、そうやってたまに無理もしながら鍛えていってて冒険者の最高峰と言われるAランクまで辿りついた。アタシがここまで来れたのは憧れの存在がいたからなんだ。」
「ファルコンさんですか?」
「そうだ。わかってるじゃない。先人であり現役のファルコンの存在はアタシにとっては希望だったんだ。無能力でAランク最強にまで上り詰めた男。その努力を想像するなんてアタシにはできない。アタシも努力してきた、でもファルコンはそれとは比にならねぇくらい苦しい思いをしたと思うんだ。」
「はい。ファルコンさんはすごい人です。でもリオさんも十分にすごいです。ファルコンさんには仲間がいるんです。でもリオさん、あなたはたとえ1人でもめげずに頑張ってきたんです。」
そして僕は席を立ち上がり─
──なでなで
僕はリオさんの少し固めな髪の生えた頭を撫でた。
「…こういうのも悪くないね」
リオ・ディリティー 女 26歳
体力:A 魔力量:B 魔力出力:S
攻撃力:B 攻撃範囲:C 防御力:B 敏捷:S
能力:毒の散布と付与
麻痺毒、溶解毒、弱体化毒などあらゆる毒を生物、物体に付与できる。また霧状にして周囲に撒き散らすことが可能。
好きなもの:小動物、頼りがいのある人
嫌いなもの:自分に甘い人、辛いもの
最近の悩み:結婚相手が見つからないこと。




