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第27話『魔眼』

──ズバンッ……ビチャチャ…


 廊下に血が飛び散り、天井にも達している。男の右手が刃に変形し、腕が伸び、斬りかかったのだ。

変形した腕は男の元へ帰りまた右腕になりすます。


「うぐっ」


「レイシさん!!」


 僕はとっさにヒナちゃんを庇い腹を横から斬られた。すぐに右手で腹を押さえる。深い。ぱっくりと腹が開いている。僕は臓物が零れないように魔力操作で腹に力を入れて傷を閉じる。痛い痛い痛い痛い痛い。これでも血は止まらない。完全に閉じきらない。


「ご、ごめんなさい…私のせいで…」


「君のせいじゃないよ…僕が相手の能力を変身だと思って見誤っただけだから…気にしないで…」


 ヒナちゃんを狙ってきた。僕は腰の刀を抜くことを考えるより早く体が動いた。なんだあの能力。


「はっはっはっ、変身か…私の能力はその程度の能力では無い。それにしても私の攻撃を人間ごときが目視し、それに対して動けるとは……久しいな…食らったとはいえ、誇っていいぞ。」


 言葉と声には余裕が出ているけど男の顔は憎悪に満ちている。なんなんだこの生き物は。


「うっ」


 僕は痛みで倒れ込んだ……フリをして右手を地面につける。そして──


重力世(グラビティフィ)─」


───ズバン


「うぐぁっ」


 僕の右肘をはあの刃で切断された。僕は体勢を崩し、左手をつき地面に倒れるのを防ぐ。

 バレてた…?いや、この男は油断していた…

 僕は男の方を見上げる。男の左の瞳が紫色に、その瞳の中には赤色に光る魔法陣が映っていた。

 なるほどな。魔眼か。リリスから聞いたことがあるな。


「あぁ!!レイシさん!!」


 腹からと腕からの出血が甚だしい。まずいな。ヒナちゃんは僕の左腕を肩に乗せて上体を起こしてくれる。


「も、もうやめて…もう……私はいいから…レイシさんを傷つけないで!!」


「もちろんだよヒナ。もうその青年を傷つけない。と言っても、その出血じゃあいずれ死ぬがな。」


「そんな……レイシさん……」


 ヒナちゃんが大丈夫だよね、と心配するようなこの後のことを想像して怯えるような表情をこちらに向ける。


「大丈夫だよヒナちゃん。」


 僕は痛みに堪えながら笑顔を作る。大丈夫だ。腕はどうしようもないけど内臓なら今までも作ってきた。

 僕は体内の傷ついた内臓をバレないように修復し始める。そして血液も生成する。これなら死には至らない……はず。こんなことやったことないから分からないけどきっと大丈夫だ。能力は解釈次第だ。大丈夫。僕はそう自分に言い聞かせる。


「もうその青年が長くないなら死ぬまで君が知りたいことを話してやろう。秘密にしろと言われても誰にも言わないなんてことはできないな。この話し方もだりぃな。いつも通り話すぜ。」


 男は姿を変えないまま口調と声がガラッと変わる。紳士服のおじさんから20代後半男性のような声が発せられている。気味が悪い。


「お前、魔眼って知ってるか?」


「存在は知ってる。魔族の瞳にまれに現れる外付けの能力。見たのは初めてだ。」


「ああ、そうだ。俺の魔眼は『未来予知の魔眼』。つっても数秒先までしか見えねぇがな。」


「だから僕が能力を使うのが分かったのか」


「ああ。だが使わずとも同じ状況になっただろうな。

 お前、能力を常時発動してる割に……弱いな。

 まず能力について話してやるよ。俺らの計画話す前に死ぬなよ?

普通、能力を発動する時には"隙"ができるんだ。俺の場合『頭で考えて体が能力を発動するまでの間』と『能力が発動して攻撃するまでの間』だ。

この能力者の隙は常人にとっては一瞬だ。だが、その一瞬が強者同士の戦いにおいては致命的だ。その隙は誰にだってある。クロノスでもだ。だが、能力を常時発動することによってその隙を減らせる。クロノスはその隙自体無いが。俺は腕をすぐに変形させ攻撃出来る…ってわけだ。ま、今更改善してももうお前は死ぬだろうがな。」


 なるほど。僕の場合は常時発動してるのとしてないのとで変わらなかったのか。いや、自分の能力を発動してそこから氷や重力に変化させる過程がある感覚があるから、一応1工程は省けてる…だけどその隙が大きすぎるのか。それとこの男、毎回クロノスくんの名前を口に出す時だけすごい殺意が顔面に出ている。そして若干の恐怖も感じる。過去にクロノスくんにやられたのか?この男が恐るほどの男。クロノスくんは強者の中でも別格なんだな。

 僕はこの間に内臓を修復しきった。傷は少し塞いだが、血は生成し続けている。斬られた場所から生成しているのだ。これは血を流し続け傷を治したのを悟られないためだ。腕の傷は塞がらない。ずっと血がダラダラと流れている。さすがに切断されると傷を塞ぐのは難しい。


「相当、クロノスくんに恨みがあるんだな。それだけは伝わったよ。」


 僕はにやけ面を顔面に貼り付け男を見る。


「お前…まぁいい。俺らの計画も話してやるよ。俺はこんな計画クソだと思ってるしな。だからめんどくなってそいつの家族を殺しちまってよぉ。あいつにバレたら大変だなぁ。いっそあいつも殺しちまおうか。」


 こいつ。一時の感情で一家殺害だと?そんなの何人たりとも許されないぞ。

 僕の腕を支えてるヒナちゃんの腕がぷるぷると震えている。凄まじい怒りを感じる。


「ヒナちゃ─」


「私の家族は!!そんな事で殺されていいわけが無い!!」


 凄まじい怒号が廊下に響き渡る。戦慄が走った。あの男も驚きつつ警戒して目を見開き、魔眼を発動している。それだけの覇気がこの少女にはあった。


「悪かったよ。クロノスにでも言えば生き返らせてくれるだろうよ。今は話を聞け。俺はこの計画をめちゃくちゃにしたいんだ。」

 

「そういう問題じゃないだろ。たとえ生き返らせる手段があってもこの人たちは今僕が経験した痛みなんかよりもっと辛い苦しみを味わったんだ。そもそもそんな苦しみを味わっていい人たちでもない。部外者のお前が来て勝手にやったことだろう。それはお前が言っていいセリフじゃない。」


「るせぇな。お前は早く死ねよ。……いやまだ話し足りねぇな。魔王軍には話の通じるやつが少なくてよぉ。やっと話せる機会ができたんだ。聞いてくれよ。」


 魔王軍だったのか。冒険者になって初めて会うな。なんで魔王軍がこんなところに……いや、それこそこの男の能力か。他人にも使えるのか?いやそれなら一家全員分の兵を用意して変身させればいい。それに仮にできても範囲があるだろう。ならばおそらく本人のみ。協力者は何らかの変装、もしくは移動手段を持っているということか。


「はぁはぁ」


 ヒナちゃんは息が上がっている。


「最初は魔王からの命令…いや、魔王の執事からの命令だった。この国……カースト国の統治権を得ろってな。国王を殺しに行っても良かったが騎士団に守られてるからなぁ。こんな国だからいつ暗殺が来るか分からないから常に大人数で国王を守ってやがる。洗脳が使えるやつも一度に10人くらいが限界って言ってたからなぁ。だから貴族のフリをして政治的権力を得てこの国が魔族を受け入れるようにすれば実質統治したことになる。この国はこう見えて民主主義らしくてな。ただ貴族の方が票の価値が重い。だがそれ以上の魔族を受け入れれば問題ないって感じらしいぞ。俺はこんな回りくどいことめんどくさくなっちまってこういう状況だ。まぁだいぶ前の魔王直々の命令で魔族の姿のまま統治権を得ろっていう無茶苦茶な命令よりはマシだったがな。」


 聞いた感じこの国に来てるのは2人っぽいな。こいつならそこらの騎士団なら壊滅できそうだが…そうなると任務失敗になることを考える脳はあるようだな。それにもう1人の協力者はそもそも戦闘する気がないようだな。命令に忠実なのか。


「もう満足したか?俺はまだ死んでないけど」 


「そうだな……最後にもうひとつ。能力ってのは進化するらしいぞ。解釈でどこまでも伸びる。俺は俺の能力をただの攻撃速度を強化させる能力だと思っていたが、追い込まれてどうしようもなくなった時、体が『変化』し、俺を守った。最高の気分だったぜ。──俺はお前を見たことがある。お前も俺を見たことがあるだろう。」


 すると男の体全体が変化し始め─


────!?


「お…前…があぁぁぁぁ!!!!」


 僕はこれまでにないほどの殺意が体の奥底、いや全身から込み上げ、到底声とは言い難い咆哮を上げる。


 先程までの姿とは全く異なり全身包帯の魔族の男が僕の前に現れた。こいつがお兄ちゃんの腕を切り落とし嘲笑い、僕の村をめちゃくちゃにした張本人…!!そして今度は少女の家族をも奪ったんだ…

 許せるわけがない。許していいわけがない。こんな怪物が世界に存在していいわけがないのだ。


「殺す!!」


 この時は気づかなかったが僕は切断されたはずの右腕を生やし腰の刀を握り、両足を前後に広げて構えていた。


「はっはっはっ!!それでこそ冒険者!!戦士だ!!さぁ!!死ぬまで戦おう!!」


───流星一閃。僕は既に包帯の後ろにいた。


 くそ。弾かれた。



───キィィィィン!!


 刃物の衝突音が廊下に響き渡る。この速度にもついてくる。

 僕は前方に跳び振り返る。男は両手を刃に変えて腕が伸びている。気色の悪いやつめ。


「本当に怪物みたいな姿だな」


「お前ら人間は見た目ばかり気にし、自分たちとは異なる姿の魔族をそうやって迫害してきたんだろうが!!」


 突然キレだした。煽りとしては成功だけど気にしてたんだ。見た目。それは申し訳ない。


──キキキキキキキキキキキ


 包帯の伸びた両腕の刃と僕の1本の刀が打ち合う。僕は連撃付与で腕に負担をかけながら応戦する。使ってなかったら今頃八つ裂きどころでは済んでない。このままじゃジリ貧で負ける。

 必死の攻防の中、包帯の後ろで俯いた少女が見える。ヒナちゃん……?


「あん?」

 

 魔眼で何かを予知した包帯が間の抜けた声を出す。

 そしてヒナちゃんは顔をあげカッと両目を見開いた。その桃色の瞳は発光しているようにも見えた。直後─


──ドゴーーーーン


 突然目の前の包帯が消えた。轟音がした後方を振り返ると、廊下の突き当たりの壁が無くなり日光が廊下の床を照らし外の景色が見える。大きな穴が空いている。そちらも気になるが僕はヒナちゃんに近寄る。


「ヒナちゃん大丈夫?」


 さっき明らかに様子が変だった。僕はヒナちゃんの横に立ち両肩を持って心配する。


「見に行こう」


 ヒナちゃんはそう言って穴の空いた壁に向かう。僕もついて行く。

 壁のすぐしたの庭の上に包帯が倒れている。見ると胸に大きな穴が空いている。だが─


「いってぇなぁ。心臓ずらして縮めてなかったら死んでたぞ」


──バッ


 僕は穴から飛び降りる。トドメをさす。心臓を縮めているならさっきまでの速度も出せないだろう。殺せる…!!僕は空中で刀を振り上げ、包帯目掛けて落下する。


──ドゴーーーーン


 衝撃音が辺りに流れる。

 くそっ。避けられた。


「あっぶねぇなぁ」


 包帯は足を獣のようなものに変形させて後ろに跳んで避けたんだ。


「大丈夫!?」


「大丈夫か!?服が血まみれだが」


 リリスとアマテラスが2度の衝撃音を聞き駆けつける。2人も包帯を見る。


「この人!!僕の村を襲った魔王軍の人じゃん!!」


「ほう。魔王軍ということは間接的に魔神の手下か。殺す。」


 アマテラスは指をさして大声を出し、リリスはやる気満々みたいだ。僕らはなにかしら魔王軍に因縁があるらしい。


「さすがに分がわりぃな。」


──ダッ


 包帯は後ろに跳び逃げようとする。


「待て!!」


「拘束魔法」


──ぐにゃあ


「なんだと」


「わりぃな。強そうな嬢ちゃん。女に捕まる趣味はねぇ!!」


──シュンッ


 包帯は拘束魔法を体を変形させ回避し、速度を変化させ消えた。あれだけ戦闘狂のような素振りを見せて逃げた!!


「くそっ!!」


「やはり強いな」


「僕も悔しい!!」


──タッタッタッ


 ヒナちゃんが玄関から出てきて走ってきた。


「あの人は!?」


「ごめんヒナちゃん。逃がした。」 


「ヒナ、そんなハキハキしてたか?」


「僕みたい!!」


「そ、そんなこと…ないです…」


 あ、いつも通りだ。

 

 その後、僕はリリスとアマテラスにあの屋敷の中で起きたことを話した。その間ヒナちゃんはポロポロと涙を流し、静かに泣いていた。それでクロノスくんに何とかならないか聞こうと思って僕ら4人は王宮にリリスの魔法で転移した。



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