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第26話『羽音』

※食事中に見ない方がいいです。

──ある城壁都市の門の前にて─昼─


 僕らはようやくこの捨てられた少女ヒナちゃんの住んでた国の大きな門の前に着いた。都市の中心の城が高い位置にあり、そこから同心円状に低くなり外側にいくにつれて建っている家は古く廃れている。それはいいんだけど、おかしい。門番がいないなんてことあるか?なんだ?国の中で既になにか問題でも起きているのか?


──タッタッタッ

 

 突然ヒナちゃんが走り出した。急ぎたい気持ちは分かるけど──


「待ってヒナちゃん!!この国なにかおかしい」


 ダメだ。聞こえてない。1番低い位置はスラム街のようだ。なにがあるか分からない。追いかけよう。 


─ダッ


「待って!!ヒナちゃん!」


「おい……まったく」


「僕たちも追いかけないとねー」


─ダダッ


──はぁはぁ、速い。本当に足が速い。ヒナちゃんは貴族だから─


「貴様、なぜ止まっている」


「僕疲れたよ〜」


 ちょうどリリスたちも来た。


「リリスあそこに─」


 僕はある方向を指差した。


「なるほどな。──転移魔法」


 僕ら3人は貴族が住んでそうな高い住宅地に転移した。


──タッタッタッ


「あ、あれ?3人とも……速いですね」


──ガシッ 


 僕はヒナちゃんの肩を両腕で掴んだ。


「ひっ」


 そりゃビックリするよね。でも──


「急ぎたい気持ちは分かるけど、君のお父さんに化けた人は能力者だろうし、もしかしたら殺しに慣れてるかもしれない。それに君が襲われたら大変だ。僕らでも守れる範囲もあるし、なにより自分の体を大事にして……ほら、曲がる時に家のむき出しになった鉄の棒に当たって腕怪我してる。服も破けて……」


「ご、ごめんなさい……」


「僕が治すよ!」


──ふわー


 ヒナちゃんの腕の傷がアマテラスの力で癒された。


「じゃあ僕は─」


──スゥー


 破れた服を能力で繋ぎ合わせて元通りにした。


「あ、ありがとう……ございます」  


「ふむ、静かだな」


 たしかに。下のスラム街は飢えている人や倒れてる人がいたけど多少のざわつきはあった。けどここは無音だ。なんだ……この胸のざわつきは──


「とりあえずヒナちゃん、家に案内してくれるかな。」


「は、はい」


 僕はそう言いつつ静かに腰に鞘と刀を作り、ヒナちゃんとともに歩き出した。


 僕らはヒナちゃんの家…いや屋敷の門をくぐり、進む。道の両側には庭園が広がっており、丁寧にガーデニングされている。ただ、下のスラム街の光景を思うと、不気味に感じる。

 玄関の前に着く。静かだな。


──ガチャ


「あ、開いてる……おね──んんー」


 僕は玄関から叫ぼうとするヒナちゃんの口を押さえた。玄関が開いてるのはどうでもいい。まずい…最悪だ。


「おい」


 リリスが僕の方を見る。表情を見るにリリスも気づいていたようだ。


「ああ、とんでもない魔力だ。いち人間のそれじゃない。」


 貴族は魔力が多く、強い能力を持つ人が多いってクロノスくんから聞いたことがあるけどそれを加味してもこの魔力量はそこらの魔族とも比にならない。それに──


「あと、ごめん。逆探知された。」


「貴様、それを先に言え」 


 最大限気をつけて魔力探知をしたはずだ。それなのに逆探知された。相当な実力者だ。ただのなりすましの能力者なんかじゃなかった…!!

 ただ同じ部屋から動いていない。僕らに気づいてなおその部屋に留まり続けている。


「んんー!!んんー!!」 


「あ、ごめんヒナちゃん。」 


 僕はヒナちゃんの口を押さえてた手を離した。

 どうしようか、この場から退い──


「ご、ごめんみんな、僕……立てないや」


──ペタッ


 後ろにいたアマテラスが尻もちをついた。見ると両脚が膝を中心にガタガタと震えている。表情も無理して笑っているが冷や汗と共に恐怖が滲み出ている。

 当然の反応だ。魔力探知を使ってないヒナちゃんはともかく、戦闘経験の浅い小さな女の子がこの状況を前にしてまともに立てるはずがない。正直僕も怖い。

 今までは自分から向かってきた。それに逆探知ではなく探知して向かってくるタイプだった。わざわざ人の探知を探知するなんてことをするタイプはいなかった。それ故に異質。おそらく戦闘経験豊富なのだろう。いつまでもここにいるのも良くない。


「1回ここを離れよう」


「私も賛成だ」


「ごめんね、僕はヒナちゃんのお家に遊びに行く感覚でいたんだよね。」


 いや、この人今までの話聞いてた!?サイコパスだよこの人。


「う、うん。気にしなくていいよ」


「で、でもお母さんとお姉ちゃんが……」


 言いづらい。けど言わないとヒナちゃんが危険な目に遭うかもしれない。


「ヒナちゃん、この屋敷には人の気配がしないんだ。ほら、静か──」


「お姉ちゃん……!!」


──タッ


 ヒナちゃんが奥の広い階段に向かって走り出そうとする。僕はその腕を掴もうと手を伸ばす。


「待ってヒナちゃ─」


 速い。僕の手は空ぶった。僕もすぐ走り出し後ろを気にかけ──


「リリスはアマテラスと門の外で待ってて!!」


 それだけ言って僕はヒナちゃんを追いかける。


 僕が行ったあと─


「またか」


「ごめんね。僕のせいで…」


「気にするなアマテラス。ほら立てるか」


 リリスは座っているアマテラスに手を差し伸べる。アマテラスはその小さい手をより小さな手で握り─


「えへへ、ありがとう」


 立ち上がり、2人は姉妹のように隣に並び手を繋いだまま元来た道を歩き始める。


─タッタッタッ


──ダッダッ


 速いな。階段を上がり右に曲がりしばらく走り左に曲がる。─また階段か。今度はさっきに比べると狭い階段だ。とは言っても一般的な家より広いけど。その階段を登ると左右に広い廊下が広がる。床には間隔を開けて血の跡がある。最悪の予感がする。それに─


───変な臭いがする。

 

 右奥の扉が開いた扉の前でヒナちゃんが─


───ああぁぁぁぁぁぁ!!


 突然ヒナちゃんが叫び、力が抜けたように両膝を床につけている。


「ヒナちゃん……」


 僕はゆっくりヒナちゃんの方に歩く。臭いがどんどんキツくなる。


──ブーーーーー


 部屋に近づくにつれなにかの音が聞こえ強まる。これは虫の羽音?


「あぁぁぁぁぁぁ、ひっく」


 ヒナちゃんが無気力に顔だけ上に向け泣き叫んでいる。


 ある程度予想はついてた。だけどまさか本当に……


 僕はヒナちゃんの傍に寄り部屋の様子を見る。


───!?


 僕はその惨状に目を見開いた。死体が5、いや6人か?服を見るに父、母、姉と使用人が3人か。

 それらはもう人としての原型がほとんどないのだ

 人だったそれらは虫に食われ、卵を植え付けられ、ウジが大量に湧いている。血まみれの服だけが原型を残していた。全員が1箇所に投げ捨てられたようにそこにあった。

 ここは母、いや姉の部屋か?大きなベッドの上に死体が重ねられ、枕元にある大きなクマのぬいぐるみも血がベッタリとついている。

 壁にも飛び散ったように血が固まっている。死んで数日は時間が経っているようだ。部屋の外の血、別の場所で殺した人をここに運んだんだろう。犯人はこの廊下を戻りさらに1番奥の部屋にいる者だろうな。


「わ、私が……家族を助ける……って……決めたのに……お姉ちゃん……お母さん……お父さん…お手伝いさん……うわぁぁぁぁん」

 

 こういうときどんな言葉をかけたらいいんだろうか。


──ブーーーーーーー


 羽音がうるさい。腐臭も強い。思考が鈍る。 


「ぐすん…こ、こんな思いするなら……私も……死ん──」


──バッ


 僕は膝をつき後ろからヒナちゃんを抱きしめた。


「ダメだよ!そんなこと言っちゃ…分かんないけど…!!………ダメだよ。」


「うわあぁぁぁぁぁぁん!!」


 ヒナちゃんは僕の腕を握り泣き叫ぶ。

 なにやってんだ僕は…こんなことしても何かが変わるわけじゃないだろう。でもこんな小さな子が自分も死んだ方が良かったなんて言っちゃダメなんだ。言わせちゃダメなんだ。目の前の惨状をもう一度見る。

 許さない。こんなことしたやつ。こんな小さな子から家族を奪い、泣かせたやつ。

 殺す。この子とこの子の家族が苦しんだ分、いやそれ以上の苦しみを与えてやる。絶対に──


「なんだ、帰ってきてたのか、ヒナ」


────!?


 いつの間に!?僕はすぐさま立ち上がり声のした方を向く。廊下の真ん中に立っている。部屋で殺されていたヒナちゃんの父と同じ服装の男だ。いや、それよりも綺麗だ。血の付着していない綺麗な服。

紳士服でシルクハットを被り右手にはステッキを握っている。


「おかえり、ヒナ」


 声は柔らかく笑顔だが目の奥は笑っていない。


「あ、あなたが!!あなたがお姉ちゃんを…!!みんなを!!」

 

 ヒナちゃんは立ち上がり僕の隣、さらに一歩前に出て下がっている両手を震えるほどにぎゅっと強く握り男を強い憎悪の籠った瞳で睨みつける。

 

「ただいまは?ヒナ。そんなんじゃまた捨てられてしまうよ?」


 こいつ。イかれている。


「どうしてこの子だけ捨てたんだ?精神操作系の能力が効かなくてビビったのか?」


「はっはっ、煽っているつもりだろうがそれは見当違いだよ青年。その精神操作、いや洗脳をしたのは私では無い。『ビビった』か…まあたしかに娘の能力にはビビっているな。はっはっは。」


 協力者がいるのか。だけど魔力探知に引っかかっていない。いや、この男がさっき魔力探知にかからずに近づいたように近くに仲間がいるのかも。一旦退くか?だけどもう少し情報を集めたいな。


「そうか。ヒナちゃんにビビって捨てたのか……ははっ…殺そうとして自分が返り討ちにされるのを恐れたか……自分より弱い相手しか殺せない小物だな!」


「ぜ、絶対にあなたを私は許さない!!」


「はっはっはっ、たしかに娘の能力には恐怖している。なにせあのクロノスに1番近い能力だからな。だが殺そうと思えばいつでも殺せる。」


 男はステッキを左手に持ち替え──


「ひっ!!」


──ズバンッ……ビチャチャ…


 廊下に血が飛び散り、天井にも達している。男の右手が刃に変形し、腕が伸び、斬りかかったのだ。

変形した腕は男の元へ帰りまた右腕になりすます。



幼い頃に山のそばのほとんど水の流れてない川(山の上流の地面がコンクリートでできてる。)に鹿の死骸を見つけて近づいたのですが羽音がすごいし、ウジ虫がどこからともなく出てきてて気持ち悪かったです。あと今でも思い出せるくらい独特な臭いでした。若干の甘さの中に吐き気を催す癖の強い鼻にくる腐臭がしました。さすがに人間の死体の腐臭とは違うと思うので書きませんでした。

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