第25話『家族』
──周りが生い茂る緑に囲まれた山道にて
僕らは次の国へ向かっていた。なんでヒナちゃんは家族に捨てられたんだろう。こういうの本人に訊いていいかわからないなぁ。まぁ少し遠回りした質問からして自分から言うのを誘ってみるか。
リリスとアマテラスは……2人とも雑談で盛り上がってるな……なんで男ってみんな子供っぽいんだろうって?いや、2人に言われたくないよ。じゃなくて今は──
「ヒナちゃんは貴族だったんだね。だから村の人と服装が違ったんだね。」
「そ、そうなんです…広いお家で…子供の頃はお姉ちゃんと…お家の中で走り回ってました」
「そうなんだね。運動好きなのかな?」
「う、運動は…好き…です。こ、これでも得意で…お姉ちゃんより走るの速かった…です」
ヒナちゃんはもしかしたら幼い頃から無意識に魔力による肉体強化を使ってたのかも。現に今もほぼ最大出力で肉体強化をしている……おそらく無意識に。魔力量が多いからそれに裏付けした出力があるんだろう。
しかもヒナちゃんの魔力、僕と同じでみんなの紫色と色が違う。ヒナちゃんの髪色より濃い桃色だ。
「へぇー。お家の中走って怒られなかったの?」
「は、はい……お父さんもお母さんも使用人の人も優しかったので…」
わからない。なんで急にヒナちゃんを捨てるな──
「ぐすん……だから……なんで私……捨てられちゃったんだろうって……」
ヒナちゃんが歩くのを止まって俯きながら小さな両手で涙を拭ってる。
まずい…泣かせちゃった。どうしよう…
アマテラスが即座に振り向き─
「ヒナ、大丈夫!?」
「貴様、幼女を泣かすとはどういうことだ…これだから男は…まったく。ヒナ、大丈夫か?」
リリスはヒナちゃんに視線の高さを合わせて心配している。
「ごめんねヒナちゃん」
「よしよし。お姉ちゃんがいるからねぇ〜。」
──なでなで
ヒナちゃんより身長の低いアマテラスがヒナちゃんの頭を撫でている。
「ご、ごめんなさい……話してたら思い出して…」
「ヒナ、なんで捨てられたか本当に理由を知らないのか?」
そんな直球に訊けるなんてさすがリリスだ。ここは僕は黙って聞こう。アマテラスは僕の隣に来て肘で脇腹を殴ってきた。ヒナちゃんには申し訳ないことをしてしまった。反省だ。
僕はアマテラスに小声で「ありがとう」と伝えた。アマテラスは「今度から気をつけな」と笑顔で言ってくれた。気をつけよう。本当に。
「ぐすん…まったくわからないの…あ、でも…あの日お父さんの態度が急に変わって…」
「どういうことだ?」
別にほとんど人が通るわけじゃないけど道の真ん中で話すのも変な感じがしたので
「1回場所を変えようよ。みんなも歩くの疲れてきちゃっただろうし」
「そうだな」
僕らは薄橙の山道を外れ、緑の森に入った。
少し歩いたところに開けた場所があったのでそこに椅子を生成して円で座った。
ヒナちゃんは歩いてるうちに落ち着いたようだ。良かった。
「あ、あの日……いや、その前日…お父さんが仕事から帰ってきたときから…様子がおかしかったんです。」
「どうおかしかった?」
「ぜ、全部…です。優しい表情も口調も……家族の呼び方も変わったんです!……いつもは私のことをヒーちゃんって呼ぶのにその日は……ヒナって…姿も声もお父さんなのに…まるで別人みたいで…お母さんとお姉ちゃんもずっとぼーっとしてたし…」
能力なら可能かもしれない。能力だとしたら…変身の能力だとしたら……!!全て辻褄が合ってしまう……そうなると理由は?他の家族は?僕は前傾姿勢で両腕を膝に置き、両手で円を作ってそれを眺めながら考えていた。
「ふむ。推測だがその父親は本当の父親では無いだろうな。おそらく姿を変える能力者が何らかの目的で父親の姿になったのだろうな」
リリスも同じことを考えていたようだ。
「そ、そんな……じゃあお父さんはどこにいるの……?」
お父さんは捕まって他の場所に拘束されてるか、あるいは──
「十中八九殺されてるだろうな。生かすメリットがない。」
「そんなの……嫌だよ……で、でも!……お母さんとお姉ちゃんは?生きてたよ?……2人も変身してたの?」
「変身の可能性もあるが……ぼーっとしてたと言っていたな?……おそらく2人は生かされている。貴族なら婚姻関係で家族同士での絡みもあるだろうからな」
「それなら私は……捨てられないはずじゃないの…?」
「そのことだがその父親もどきの目的に貴様が邪魔だったか、それか─」
リリスはヒナちゃんに向かって手を伸ばし何らかの魔法を使う素振りを見せた。
「ふむ、やはりな。ヒナに身体能力低下の魔法を使ったが効かないようだ。凄まじい耐性を持っている。」
リリスが少しワクワクした表情で僕に言う。 いや、戦おうとかしないでよ?ヒナちゃん運動得意らしいけどそういうことじゃないでしょ。
「てことは、ヒナちゃんは最初から目的の邪魔じゃなくてお母さんやお姉さんに使った能力が効かなくて邪魔になったのか」
「だろうな。それに婚姻は姉の方がいれば十分ではある。無理にヒナを傍に置くメリットが無かったのだろう。」
「……そっか……なら…うじうじしてないで…みんなを助けないと……!!」
ヒナちゃんが家族を助けることを決意したようだ。良かった。上を向いてくれた。
「僕らもいる。みんなで家族を助けよう。」
そう言って僕がヒナちゃんの頭を撫でたら笑顔になってくれた。
「あの!僕こういう話の時入れないんだけど!!」
アマテラスは反面激おこだった。
──ぽこぽこぽこぽこ
僕の傍にきて両腕でぽこぽこ腕を殴ってくる。え?それ理不尽な怒りじゃね?
「せめてさ!アマテラスは真剣な表情だ。とか考えてくれてもいいんじゃない!?僕の方1回も見てくれなかった!!僕のこと完全に忘れてたでしょ!!」
「ご、ごめんって。僕もヒナちゃんのこと泣かせたことでいっぱいいっぱいだったんだよー。」
僕はノーガードで殴られ続けてる。まぁたしかにアマテラスのこと気にかけてなかったことは申し訳ないと思う。
「ふん!じゃあこの後僕のこといっぱい構って!!」
どうしようかな。今日はヒナちゃん泣かしちゃった分お話して償おうと思ってたんだけど、まあでもアマテラスとも話したいことあるしそうしよう。
「あー!!今他の女の子と迷ったでしょ!!それで仕方なく僕を選んだでしょ!!」
げっ!!なんでバレたの。さすが神様。
「表情だよ!!君は表情に出やすいんだよ!!」
「ヒナの相手は私がする。貴様はアマテラスにしっかりと相手しろ」
ヒナちゃんのことはリリスに任せよう。
「あ、あの……私子供じゃないから…相手とか…大丈夫ですよ」
「ふん。私が暇なのだ。色々試したいこともあるしな」
「そ、それなら……」
いや、これリリス色んな魔法をヒナちゃんに試すんじゃない?
──バシーーン
「いて」
アマテラスにジャンプして頭叩かれた。
「全然僕のこと見ないじゃん!!もしかして僕のこと、き……きらい?」
アマテラスがうるうるした目で僕のことを見上げてくる。たしかに最近アマテラスに構ってあげれてなかった。
──なでなで
「嫌いになったりしないよ。むしろいつもありがとうって思ってる。」
「それならいいけど…」
目を逸らして照れてる。可愛い。
「それなら今日の夕飯をとりに行こう!」
僕はアマテラスの小さな手を握って走り出した。
「え?夕飯って買ってるんじゃ─」
「たまには自分たちでとってもいいでしょ!僕らも冒険者だし!!」
「うん!!」
アマテラスはいつも以上に大きな声で返事した。
そうして僕ら2人は夕飯探しに向かった。2人は大丈夫だろう。リリスがいるし。
──ブオォォ
「見て、アマテラス。イノシッシだ。」
「本当だ。あのイノシッシ、ブサイクで可愛くない。」
僕らは茂みにしゃがんで身を潜めて少し先にいるイノシッシを観察しながら小声で話している。あのイノシッシ、キバが長くて傷だらけだ。おそらく縄張り争いで勝った個体。しかも何度も。強いぞ。
「ねぇあのイノシッシ食べちゃうの?」
「そのつもりだけど嫌なら他の動物に──」
「ううん、なら殺してもいいよね!」
──え?
──ダッ
あ、行っちゃった。
イノシッシはアマテラスに気づいて─
ブオォォォォ!!
突進だ。アマテラス大丈夫かな。
え?あの人思いっきり腕回してる。なるほど、相手の勢いも利用して……いや、正面からじゃアマテラスも痛いよ?
「次やったら絶対に許さないんだから!!ふーーん!!」
──ゴンッ!!
アマテラスの拳はモロにイノシッシの鼻を捉えた。
なんか怒りこもってなかった?ていうかイノシッシの顔面逆にイケメンになってるんだけど……それはそれでやだな。
「あースッキリした!!」
この人生き物殺してスッキリしてる!こわっ
「はい!じゃあこれ持って!!」
「ああ、うん」
「違うよ!!肩に乗せずに!」
「え、なんで?」
──ぴょん
「こうするため〜」
アマテラスは僕の首をまたいだ。肩車か。じゃあイノシッシは能力で浮かせて運ぶか。僕は二人のもとへ歩き出した。イノシッシを狩る前に食べれる植物やキノコも採ったからね。
「えー!?君の能力本当に便利だね!」
それに関しては本当に親には感謝だな。関係ないかもだけど。ていうか─
「アマテラスって僕のお母さんでしょ?それなのに僕に肩車されるって─」
「アマテラスはお母さんじゃないよ?だからいいの!!」
いやまぁたしかにそうか。アマテラスはロリだし。僕のお母さんは姉御肌っぽかったし。全然違う。
「アマテラスさ、最初話した時より子供っぽく感じるんだけど、それはどうなの?」
「だって!!やっと外の世界歩けてるんだよ!?それで色んな世界見れて……こんなに素晴らしいことってあるかな!?そりゃテンションも高くなるよ!!」
それもそうか。少なくても200年以上はずっと同じ場所にいたんだもんな。そりゃ楽しくもなるよね。
──ぎゅっ
肩車されたアマテラスが僕の頭を抱いてきた。
「ありがとね。君たちには本当に感謝してるよ。」
「う、うん」
素直に照れるよ。こんなの。
「あ、あのアマテラスさん。着物で前が見えなくて──」
「あ!ごめん!」
アマテラスは抱擁をやめた。
正直魔力探知で地形は把握できるけど、あまりあの状態が続くと僕は死んでしまうかもしれなかった。
その後、しばらく歩いて、2人のもとに着いた。
ちょうど夕暮れ時でいい感じだ。
「遅かったな。ふむ。夜ご飯の調達か…正直早く空間魔法の中身を使い切りたかったのだが……その様子、仲が戻ったなら構わん。」
リリスは優しい。そう言いながら焚き火の準備を済ましていた。
「わ、私も子供の頃はよくお父さんに肩車してもらってました」
──ぴょん
アマテラスがジャンプして降りた。身軽だな。
「ヒナも肩車してもらお!!」
「え、でも私……大人だし……」
「それ言ったら僕は年齢だけだったらおばあちゃんだよ!」
僕はもじもじしてるヒナちゃんの前にしゃがんだ。
「ほら、乗って」
「じゃ、じゃあ……失礼します」
ヒナちゃんはゆっくりと僕の肩に乗った。そして僕もゆっくり立ち上がった。
「わぁー、た、高いです。お父さんもこんな感じでした。」
ヒナちゃんは色々思い出してるみたいだ。
「泣いてもいいよ」
「いえ、もう泣きません。家族を助けるまでは。」
「そっか。必ず助けようね。僕らも協力する。」
「へへ、ありがとうございます」
僕らに会って初めてヒナちゃんが笑った気がする。いい笑顔を作って言ってくれてるに違いない。見れないのが悔やまれる。
「あはは!良かったね!!ヒナ!!笑顔かわいい」
アマテラスもいい笑顔だ。
「おい、捌いといたぞ。あとは貴様らがやってくれ。」
リリスが下準備してくれてたみたいだ。ありがたい。
「ありがとうリリス。じゃあワイン漬けにして焼こうか。臭みが取れて美味しいよ。」
イノシッシはカタナ村でもたまに食べてた。懐かしいな。お兄ちゃんが狩るのも捌くのも上手だったな。
「僕それ食べてみたかったんだよね!!楽しみ!!」
その後僕らはイノシッシパーティーをして眠りについた。
───必ずヒナちゃんの家族を助けよう。そして今度こそこの子の笑顔を見るんだ。




