クールな彼氏
私は先輩に恋してる。
でも、先輩はいつもクールで・・・。
私から告白したんだから、そりゃ、そうだよね。
きっと、面倒くさくてOKしたんじゃないかと密かに疑っている。
私の名前は宮野明里高校1年生。
私は一つ上の学年の先輩と付き合ってる。
先輩は、あまり口数は多くないけど人気がある。
私は校内で見かけて一目惚れしてしまって、3ヶ月片思いした挙げ句、ベタに先輩に手紙を渡して、告白したの。
そしたら、私のクラスに先輩が来てくれて、OKしてくれたんだ。
信じられない位嬉しくて、夢じゃないかと何度も思った。
それから付き合うことになって、たまに一緒に帰ったり登校したりしてる。
帰り道、一緒に帰りましょう、と朝に約束を取り付けたから、今日は先輩と一緒に帰宅する予定。
先輩はバドミントン部で私は文芸部だから、私の方が先輩を待つんだけど、先輩を待つ時間は全然苦じゃない。
むしろ楽しくて、先輩を待ててるんだってウキウキの方が勝つ。
だって、先輩に片思いしていた時には一緒に帰れるなんて思ってもみなかったことだから。
望んでも決して手に入らなかった時間を今、過ごせていることが嬉しくて仕方ない。
「おまたせ」
しばらく待った私の耳に響く先輩の声。
振り向くと、先輩が駆けてこちらにやってきた。
黒いサラサラの髪、印象的な目、整った大人っぽい顔立ち。
カッコイイ・・・。
私は初めて見た時から、先輩のことが頭から離れなくなっていた。
「いえ、待っていませんっ」
私は慌てて返事をする。
待ってるという意識がないから、これは本当の事だよね。
「・・・行こうか?」
先輩は私の横に並んで歩き出す。
「はい」
私も一緒に歩みを進める。
「部活どうでしたか?」
私が質問すると、
「うん、今日の練習試合は勝ったよ」
と先輩。でも、表情があまり変わらないから、どう感じているのか判らない。
「良かったですね!試合、もうすぐでしたっけ?」
「そうだね・・・」
「がんばってくださいね!応援してますから」
私が笑顔で話しかけると、先輩は頷いて言った。
「ありがとう。頑張るよ」
うーん。もっと表情があったら先輩の表情からどう感じているか読める気がするのに。
それでも、こうして彼氏彼女として会話が出来るだけでも私は幸せ者だと思う。
たとえ先輩にとっては、成り行きで出来た彼女だとしても。
「あの、先輩。今度、試合が終わったらデートしませんか?」
私は先輩に勇気を出して提案する。
今まで一緒に学校の登下校を一緒にしてるだけで
デートもしたことないから。
先輩は、私の提案に静かに頷く。
「いいよ、いこうか」
「はいっ、どこに行きたいですか?」
私が首を傾げて尋ねると、先輩は、肩に掛けていたカバンをかけ直してから私の方を見て言う。
「明里が行きたい所で」
「えっと、私が行きたい所で良いんですか?」
私は、先輩の意見を聞かずに決めていいものか迷って尋ねる。
「大丈夫、明里が決めて」
そう言われて、少し考えた後、ハッと思いついて、先輩に話す。
「じゃあ、プラネタリウムに行きたいです!星を見たいなって思って・・・」
「いいよ、この近くにあるね」
先輩は、すぐにOKしてくれる。
優しい、優しいけど、どうなんだろう?本心では面倒だと思っていないだろうか?
先輩の顔からは感情が読み取れない。
何となく不安。先輩から提案とか、要望とかないから、余計に不安になる。
「あの・・・先輩・・・」
「どうしたの?」
「え・・・と、何でもないです、じゃあ、また。デート楽しみにしてますね!」
「うん、またね」
先輩は手を振ってくれてる・・・くれてるけど。
私は何だか凄く悲しい、切ない気持ち。
両思いなのかな?これって・・・。
相手と気持ちが通じてるって思えないと嫌っていう欲が出てきてる。
ただ話せただけで、最初は充分だったくせに。
どんどん欲張りになってる。
そんな自分が嫌で仕方ない。
私は再び歩き出したけど、自分の足が鉛のように重く感じていた。
先輩の試合の日は、友達と一緒に観に行った。有志の人が自由に見に行って良いことになっていたから。
「あ、ねえ、明里。先輩あそこにいるよ」
「う、うん」
友達に指さされるとっくの昔から先輩のことは視界に入ってた。どこにいても、すぐに先輩を見つけてしまう。
私の特殊能力なんじゃないかと思う。
先輩の試合が、始まるのが、まるで自分のことのようにドキドキする。
でも、そんな心配いらなかった。
先輩はとても強くて、あっという間に勝利した。
「すごいね!先輩勝ったじゃん、良かったね!」
友達に興奮したように言われて、私も、うんうん、と頷いていた。
先輩が勝って嬉しい。
帰りのバスの中で先輩にメールをしてみた。
「先輩、試合観てました!おめでとうございます、かっこ良かったです」
ますます好きになりました、って打とうと思ってためらう。
結局打たずにそのまま送信した。
すぐに返信が来る。
「ありがとう」
って一言だけ。でも、その一言が私にとっては嬉しかった。
それから少しして、試合の後の休日に、私と先輩は約束のデートに行くことになった。
念入りにメイクをして、お気に入りの淡いブルーのレースがワンポイントのワンピースを来て、デニム地のジャケットを羽織る。
白い花柄の落ち着いたバッグを肩にかけると、急いで待ち合わせの駅前まで行く。
私が行くと、早めに来たにも関わらず、先輩はもう到着していた。
スマホの画面を見てる。
白いTシャツに、黒いジャケットと、焦げ茶のチェックのパンツ。あまりのカッコよさに、一瞬、動きが止まってしまう。
先輩はふと顔を上げて、私に気づくと、手を上げる。
何となく表情が柔らかい気がするけど、気のせいかもしれない。だって私の心はウキウキして、もう有頂天だから。
先輩の所へ駆け寄ると、
「おまたせしました!」
と頭を下げる。
「大丈夫だよ、待ってないから。頭を上げて」
なんだか、前の私と先輩のやり取りみたいだ。
「・・・はい」
顔を上げると、私服の先輩が目に飛び込んでくる。
もう、目のやり場に困る。
先輩を直視出来ない。
「行こうか?」
先輩が私に聞く。
「は、はい!」
私は先輩と並んで歩き出す。
「せ、先輩は、プラネタリウムって好きなんですか?」
私は、私服の先輩に緊張しながら聞く。
「プラネタリウムは行ったことがなかったから、ちょっと勉強したよ」
「えっ、そうなんですか?初めてなんですねっ、じゃあ、楽しいといいですね」
私は先輩の初めてに立ち会えることに喜びを感じながら言う。
「きっと、楽しいと思う」
先輩が私を見て言うから、私は思わず目を反らす。
いつになったら私服バージョンの先輩に慣れるのかな?
電車で3駅程乗った所にプラネタリウムのある駅がある。
私と先輩は、その駅で下車すると、歩いてすぐの所にある、プラネタリウムに到着して、チケットを2枚買った。
「先輩、みてください。これ、3Dの映像で、立体的な映画みたいらしいですよ!」
プラネタリウムには小さい頃に来て、しばらく来てなかった。でも、最近は進化して、ストーリー仕立てになってたり、香りを楽しめるプラネタリウムもあるみたい。
「そうだね、楽しみだね」
本当に楽しいのかな?先輩の気持ちがわからなくて、私は不意に不安になる。
すぐに上映が始まるようだったので、プラネタリウムの座席に2人で並んで座ると、座席を倒す。
周りを見ると、カップルや家族連れが多くて、カップルは見つめあったり、手を繋いだりしている。
私は・・・私は、とてもそんなことができる気がしなかった。
そもそも、先輩が横にいるってだけで、今凄く緊張してるのに。
「もう少しで、始まりますね」
私が緊張しながらも、先輩に話しかけると、先輩もは軽く頷いて「そうだね」と言う。
間もなく照明が落とされて、プラネタリウムが始まった。
プラネタリウムはとても美しかった。
3Dの映像は素敵で、ロマンチックな星の伝説を分かりやすく教えてくれた。
小さい頃に見たプラネタリウムは、星空にただ音声の説明があるだけだったのが、映像が動いて、迫力ある動きも楽しめて、私は夢中になって見入ってしまった。
終わると、興奮して先輩に話しかける。
「凄かったですね!私、あんなに動いて綺麗な画面で見られると思っていませんでした!!」
先輩は、私を見て頷く。
「うん、凄く良かった。楽しかったな」
冷静な先輩。
だけど、その言葉、信じていいのかな?
私と一緒にいるから楽しんでくれてるって思っても・・・いい?
「先輩、ここってカフェがあるんですよ、寄っていきませんか?」
調べておいたんだ。先輩とのデート、楽しく過ごしたいから。
「いいよ、行こうか」
私と先輩は、二階のカフェに入る。
「先輩、ここのオススメはこれ、です。色とりどりの星のゼリーが沢山乗ってる青いサイダー。有名らしいですよ。私これにしようかな」
私がそう言うと、先輩は、
「じゃあ、僕もそれにするよ」
と言ってくれる。私は嬉しくなって、思わず笑顔になってしまう。
「先輩は、初プラネタリウムどうでした?」
星空サイダーを頼んでから、私はプラネタリウムについて先輩に感想を聞く。
「良かった。初めてだったけど、綺麗だったね」
「そうですよね!先輩、勉強してきたんですよね?勉強してきたとこ、やっていましたか?」
私が、先輩が星の勉強をしたと言っていたことを思い出して聞いてみると、先輩は頷いた。
「少し映像に出てたよ。勉強したかいがあったな」
「そうなんですねっ」
彼との会話はとっても楽しい。
先輩を見てるだけで幸せだと感じる。
本当に踊り出したい位楽しいな。
そのうち、2人分のソーダが運ばれて来た。
煌くゼリーはラメが入っていて、中のサイダーは、綺麗な濃いブルーで、本当の星空みたいで、私は目を輝かせる。
「うわぁ、素敵!写真撮りたいなぁ」
「撮ろうか?」
私がサイダーの写真を撮ろうとすると、先輩が手を差し出す。
「あ、ありがとう、ございますっ」
スマホを差し出すと、先輩が私にスマホを向ける。
「撮るよ?」
そう聞かれて、
「は、はいっ!」
私は緊張して、スマホを見つめた。
そのスマホ越しに先輩の顔があって、ドキドキと心臓が高鳴る。
「撮れたよ」
そう言って、スマホを返してくれる先輩。
う、なんか、幸せ。彼氏になった先輩に写真撮ってもらえるなんて。
それからもずっと楽しかった。
先輩と一緒にいられるだけで、もう。有頂天で。
だけど、そうして、はしゃいで笑顔でいればいるほど、先輩の表情がそんなに変わらないことが気になってしょうがない。
私は楽しいけど、先輩に無理やり付き合わせてる?
それだったら・・・嫌だなっていう気持ち。
付き合ってみたものの、つまらないのかもしれない。
でも、私からグイグイ行くから断れなかったりして・・・。
「どうかした?」
プラネタリウムを出て、その辺を2人で歩いて見つけた公園で休んでいた時。
先輩が私に尋ねてくる。
「あ、えと・・・何でもないです」
「そうやって、今まで何度も何か言いかけてるよね。教えてほしい」
いつもは流してくれる先輩が、今日は追求して来た。
先輩が私を見ている。
その視線を゙直視出来ずに目を反らして話す。
「あの・・・先輩私といて楽しいですか?」
「楽しいよ」
すぐに返事をくれる先輩・・・でも・・・。
「でも、私、強引に告白したじゃないですか?本心ですか?もし、私といてつまらないなら振ってくれていいですからっ」
思わず言ってしまう。振ってほしいわけない。
絶対嫌だ。でも無理やり付き合わせてる方が何倍も嫌だ。
不意に先輩に抱きしめられる。
「明里が僕を嫌いになったっていうこと?」
「ちがっ、違いますっ」
抱きしめられた事に動転しながら先輩に返事を返す。
「僕は明里が好きだよ」
「え・・・」
直球で言われてポカンとした目で先輩を見つめてしまう。
先輩の顔が近づいてきて・・・キスをされる。
「別れない。僕は君といるのが楽しいから」
えっ、えっ、何が起こってるの?!
私の心臓はもはやパニック状態だ。パニックになった私はギューッと先輩に抱きしめられたままの状態で固まる。
「だっだって、先輩って表情あまり変わらないからっ」
思わず本音が漏れる。
「ああ・・・良く言われる。表情分かりにくいって。でも、明里といるのは、誰といるより楽しいよ」
「えっ、そ、そうなんですか?嬉しいです」
先輩の直球の言葉に私はドギマギされっぱなしだ。
「だから、もう別れるって言わないでね。僕は君とずっと付き合っていたいから」
「は、はい・・・」
私が頷くと、先輩の口角が微かに上がった気がした。
そのまま、顔が近づいて、2回目のキスをされる。
「せ、せんぱ・・・」
口を挟む間もなく、もう一度深く口づけられる。
「ふあっ、せんぱっ・・・」
「可愛い、明里。いつも思ってたけど、どう近づいていいか分からなかったから」
キスを終えて、耳に届く先輩の声。私も、私もずっとそう思っていた。手を繋ぎたくて、触れたい気持ちを伝えたかった。
「それなら言ってくれれば・・・あ、言うのは恥ずかしいですよね」
「そうだね。だけど今、伝えたから。これからは近づいていい?」
先輩の顔がもう一度近づいて来る。
「あ、ちょっと待ってください!ここ公園だし」
冷静になると、何人か公園にいるし、私は先輩を手で静止して止める。
それに、もう、3度のキスで結構心臓が乱れてて、次のキスに耐えられそうにない。
「そっか・・・」
なんか・・・先輩が残念そうな表情をしている気がする。可愛い・・・。
「あの、先輩、嫌な訳じゃないですよ。人に見られるのが恥ずかしいっていうか・・・」
私は思わず弁解していた。
先輩が残念そうにしてるの、可愛いけど見てるの切ないし。
「分かった。じゃあ、手をつなぐならいい?」
「あ、はい・・・」
先輩はすぐに手を握って、私を見つめる。こころなしか得意そうな顔をしてるような・・・。
可愛い・・・。
何だろう、この感情。
それに、先輩って、表情は変わりづらいけど、結構愛情表現してくれるタイプかも?
「何考えてるの?」
私と手を繋ぎながら、ぎゅっぎゅっと力を込めて握ったり、指で私の手を撫でたりしながら、先輩が聞いてくる。
その動き、心臓の動きを激しくするからちょっとやめてほしい・・・。
「あ、私、先輩ってクールなのかなって思ってたんです。でも、愛情表情してくれるんだなって思って」
私は手を撫でる動きを指で制そうとするも先輩は、スイッと指を避けて、手の他の場所をスリスリしてくる。
「そうだね、君以外にも告白されて付き合ったことあるんだけど、つまらないって言われて振られることばかりで」
「えっ、他の人とも付き合ってたんですかっ?」
いやー、聞きたくなかった。そんな情報。わざわざ言わなくてもいいのにっ。
「付き合ってたけど、明里だけだった。ずっと一緒にいてくれたのも、一緒にいて楽しいって思ったのも」
その言葉を聞いて私は瞬時に許してしまう。
私、先輩には一生甘いかもしれない。
「先輩、今後、私に他の付き合ってた女の子のこと、言わないで下さい。妬いちゃうんで・・・」
私は、一応釘を刺すと、先輩が私のあごに手をやって固定すると、私の方へ顔を近づけてくる。
「なっ、せんぱっ・・・」
「だめ。可愛いすぎるから」
そう言うと、私はその日4度目のキスをされた・・・。
帰り道、行きとはうってかわって近い距離の私と先輩。
先輩は、私の手をずっと離してくれなくて。
恥ずかしかったけど、嬉しかったから、そのまま手を繋いでた。
私が、もっといろいろ話して下さいって言ったから、先輩は、私に話しかけてくれて、行きよりもっと先輩ことを知ることが出来た。
「明里が告白する前から僕は明里を知ってたよ」
電車に乗りながら話してるとき、ふと、先輩がそう言った。
「え?本当ですか?えっ、どうして・・・?」
「明里、部活終わってからバドミントン部見に来てくれてたでしょ?視線、感じてた」
「ええ、恥ずかしいですっ、こっそり見てたつもりなのに」
ちなみに只今電車の車内だけど、席がなくて座れなかった私達は入口のドアの辺りにいる。
そして、先輩は、私を抱きかかえるようにして、立っていた。
転んだらいけないから、だって。嬉しいけど恥ずかしい。
「手紙もらった時、嬉しかった。明里のこと、可愛いと思って僕も明里のことこっそり見てたから」
「え・・・」
先輩に急に言われて、私は赤面する。
「そう・・・なんですか?」
「そうだよ。だから、一方的に押し切られたわけじゃないよ。ちゃんと、明里のこと好きだったから」
顔を覗き込まれてそんなこと言われると、もう、キャパオーバーになってしまいそう。
「せ、先輩、あまり顔近づけないでくださいっ、ドキドキしちゃうので」
しかも抱きかかえるようにして、先輩との距離が近いからより動揺が隠せない。
先輩は、拗ねたような声を出す。
「これからずっと一緒なんだから、沢山見て早く慣れて」
そしてより顔が近づいてくる・・・。
「もうっ、先輩っ!」
私は車内なので小声で懸命に先輩に抗議をした。
先輩の顔が見慣れるようになるのは一体いつなんだろうか・・・。
先輩は、私が、思う以上に私のことを好きでいてくれたらしい。
先輩のクールなイメージとは、少し違う中身だけど、どんな先輩でも、私は大好きだ。
私ももちろん先輩と別れるつもりなんて毛頭ない。
これからも、可愛い一面を発見した先輩とずっとずっーと一緒にいたいと思う。
私の彼氏は表情はあまり変わらないけど、実は私のことを愛してくれている自慢の彼氏だということが判明した!