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第二話 アリエッタのウキウキ魔界ライフ 1

 魔界に残り、早くも一ヶ月が経過した。


 私は今――変わらず魔界にいた。



「さ、ルイ様! 起きてください! 今日は魔力操作について学びますよ!」

「うう……アリエッタか。あと五分……」

「んぎゅうう……だ、ダメです! 昨日もウェインさんに怒られたでしょう!」

「それはアリエッタが一緒に二度寝をしたからであって……」


 私の目の前では、厳かなベッドで丸くなって駄々を捏ねる魔王のルイス様が可愛らしい抗議の声を上げている。


 そう、この一ヶ月で、私はすっかり魔界の一員として受け入れられた。

 そして、晴れてルイ様のお世話係をもぎ取ったのだ!

 あ、ルイ様っていうのは私が勝手につけた愛称ね。可愛いでしょう?




 魔界に置いてもらえることになった翌日、私はルイ様の家臣の魔物たちにぐるりと取り囲まれた。


『娘よ、お前の真なる目的はなんだ?』


 首無し騎士からそう凄まれて(首がないから本当に凄んだ顔をしていたかは分からないけれど)、私は包み隠さず心の内を打ち明けた。



 子供が大好きなこと。

 やりたくもない聖女に担ぎ上げられ、強制的に神殿に連れて行かれたこと。

 便利な女として力を搾取される日々にうんざりしていたこと。

 魔王討伐に疑問を抱いていたが、国王の褒美に釣られて討伐パーティに参加したこと。

 大嫌いな勇者ファルガが、何を勘違いしたのか私を妻に囲い込もうとしていたこと。

 このまま国に帰っても、クソみたいな日々が待っているであろうこと。

 魔王ルイス様が可愛くて可愛くて可愛くて堪らないこと。

 全部。包み隠さずに全部を打ち明けた。



 するとどうだろう。

 半人半鳥のお姉様は、『はぁっ⁉︎ 嫌いな男と無理やり結婚させられるなんて考えられなあい!』と大いに怒ってくれた。

 それにしてもおっぱいがすごい。私の何倍あるのだろうか。物凄く際どくて布地の少ない服を着ているものだから、ぽろりと溢れてしまわないか気が気じゃない。


 首無し騎士は、私が望まぬ力の使役に憤慨してくれた。

『擦り傷、瘡蓋、極め付けにはささくれに治癒の力を使っていただと⁉︎ ぬるい! これだから戦争の時代を知らぬ者どもは腑抜けておる! そんなもの怪我のうちにも入らんわ。簡単に治療できると思っているから間抜けな怪我をするのだ! くそう。某が人間であったなら、その腑抜けた性根を一からたたき直してくれるものを』と頭から煙が出るんじゃないかってほど怒っていた。頭は無いのだけれど。


 そして、ルイ様の可愛さにノックダウンされたと語れば、全員が食い気味に『分かりみが深い』と同調してくれた。


 それからは、各々のルイ様秘蔵エピソードを語ってくれた。

 身悶えするような可愛い話ばかりで、みんな頬は紅潮し、鼻息は荒く、室内の気温が僅かに上昇するほどであった。朝早くに押しかけられ、結局昼過ぎまでルイ様談義に盛り上がり、私は晴れてルイ様親衛隊の末席に加えていただくことになったのだ。大変な名誉を賜った。




 ということで、私はルイ様のお世話係兼、魔法の指南役を仰せつかったのだ。


 当のルイ様も、『そ、そうか。皆が認めるというならば、余は反対するつもりはない。これからよろしく頼むぞ、アリエッタ』と照れ隠しにそっぽを向いて受け入れてくれた。

 小さなお耳が赤くなっていて、ピクピク動いているものだから私は卒倒しそうになった。


 きっと、これは喜んでいる。嬉しいと思ってくれている。

 でも家臣たちがいる手前、手放しに喜ぶ姿を晒すわけにもいかず、必死に取り繕っているのだ。可愛い。可愛すぎる。ギルティ。尊い。好き。



 こうして、力を搾取されることもなく、愛くるしい幼子魔王様のお世話もできるというウキウキ魔界ライフが始まったのである。最高。

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