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第五話 生き物のお世話は大変なのです 2

「ま、待て! おい、フェリックス!」

「キュウウウッ」


 ドラゴンのお世話をすることになり、三日目。


 ルイ様が丸一日頭を悩ませてつけた名前が気に入ったのか、フェリックスは飛び跳ねるように中庭を駆け回っている。

 まだ翼が小さいため、空を飛ぶことができないフェリックスは、感情が昂るとこうしてよく走り回る。


「捕まえましたよー!」

「キュアッ⁉︎」


 ルイ様と挟み撃ちするように行く手を阻むと、急には止まれないドラゴンはぽふんと私の胸に激突した。


「ふふっ、フェリックスは元気が有り余っていますねえ」


 そのまま胸に抱いてヨシヨシ頭を撫でると、気持ちよさそうに私に寄りかかってきた。この子は随分甘えん坊のようだ。可愛い。

 緩む頬をそのままに、綺麗な鱗を撫で続けていると、ベリッと引き剥がすようにフェリックスを奪われてしまった。犯人はもちろんルイ様である。


「ああっ! なんでですか!」

「くっつきすぎだ」

「ええっ、そんな殺生な!」

「ダメったらダメだ」


 ルイ様は不貞腐れたようにフェリックスを抱えると、身体を捻って私から遠ざける。


「ええー……」


 がくり、と肩を落とす私を気の毒に思ったのか、ルイ様が少し申し訳なさそうな顔をする。


「アリエッタが……」

「私が?」

「フェリックスばかりに構うから……」


 ん? むう、と唇を尖らせるこの顔は、間違いなく拗ねている。

 私がフェリックスばかり相手をするから――?


「あああっ⁉︎ も、もしかして、やきもちですか⁉︎」


 なんとも都合のいい解釈だとは思いつつ、思わず口に出た言葉に、ルイ様がギョッと目を見開いた。そして一呼吸遅れてボッと顔から火が出るのでは? と思うほど顔を真っ赤に染め上げた。


「ばっ、な、何を言う! や、やきもちなどと……そんな……むうう」


 か、か、可愛い~~~~~~~~~~!


 鼻血っ! 出てない! はぁっ! フェリックスに顔を埋めて隠そうとしているけど、全然隠れていませんよ! なんですか、その可愛い反応はっ!


「大丈夫です! アリエッタの不動の一位はルイ様ですから!」

「そ、それならば、良いのだ」


 私の言葉に安心したように息を吐き、埋めていた顔を上げてくれたルイ様。仄かに頬は染まったままで、幼児というよりすっかり少年となったルイ様の表情に少し胸がざわめく。恐ろしいほどの美形なのだから、微笑みかけられたら心臓に悪い。そう、それだけ。


 私たちはマルディラムさんが用意してくれたピクニックセットを用意して、中庭で昼食を取ることにした。

 もちろんフェリックスには程よい温度のミルクを用意してくれている。ありがとう、マルディラムパパ。


「ぷきゅう」


 ミルクを飲み干して満足げに息を漏らすフェリックスを抱えて背中をトントンするのはルイ様の役目。もうすっかり板について、立派なお兄ちゃんをしている。尊い。


 仲良し兄弟のようなルイ様とフェリックスを見つめながら、私はルイ様に大切なことを伝える。


「ルイ様。フェリックスは親のドラゴンに育児放棄されました。きっとこの子はそのことも知らないのでしょう。空っぽな心の器に、たくさんたっくさん愛を注いであげるのです。器から溢れるほどに。満たされた心はきっと、その先の人生においてこの子の支えとなるから」

「アリエッタ……そうだな。存分に愛そう」


 よかった。しっかりと伝わったみたい。


 二人で微笑み合っていると、ルイ様が一歩歩み寄って金色の瞳を寄せてきた。ドキンと胸が高まり、息が詰まる。


「どこか空虚さすら感じていた余の心も、今ではアリエッタの愛でいっぱいだ。感謝してもしきれない」

「うふふ、ルイ様は私だけでなく、魔物みんなに愛されていますけどね。まあ、でも! 間違いなく私の愛が一番深いですよ!」


 照れ隠しも含め、私は大袈裟なぐらいに胸を張って見せた。ルイ様はおかしそうに笑い、私もその笑顔に釣られて笑う。私たちが楽しそうにしているからか、フェリックスも「キュウキュウ」と楽しそうに歌っている。


 とても幸せで和やかなひとときだった。

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