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狸と龍の話

作者: 虹彩霊音


「オオカミさん!ずっと前から好きでした!付き合ってください!」


ぽかぽか温かい日に、そんな声が響く。そこに居たのは猫と狼。


「…僕で良いの?」


「もちろんです!そりゃあもうかっこいいし強いしイケメンだし…」


猫の言葉を遮るように狼は喋る。


「まぁ構わないけどさ…僕オオカミじゃなくてタヌキだよ?」


「タヌキィ!?」


ぽん、と狼が煙を出す。その中から現れたまんまるの狸。


「ちょ、おま聞いてないんだけど!?」


「知らなーい、そっちが勝手に勘違いしたんでしょ。オオカミだなんて一言も言ってないし」


「このクソダヌキッ!!うどんにして食ってやる!!」


「おー、怖い怖いww」



僕はタヌキのディグル。知ってると思うけど、タヌキは変身するのが得意なわけ、だから最近は色んな生き物に変身して周りの奴らを揶揄ってる。


「次は誰を揶揄うかなぁ」



「はぁー、全然相手にされなかった」


「どうした?今度は誰にフラれた?」


「ほら、あの恐ろしい森に居る金色のドラゴン」


「うげぇ、お前あんな所に行ったのかよ。勇気あるな……もしかして、その龍『錆びついた黄金郷』じゃないか?とてもイケメンでかっこいい、みんな声をかけていくけど正気のまま帰ったものは居ない。噂じゃかつての輝く鱗は返り血によって錆びれに錆びたとか…」


「うわ、龍をナンパしたのは間違いだったかぁ」



「『錆びついた黄金郷』………次の揶揄う相手が決まったな」


相手が龍だろうが、僕は決して尻込みはしない。




そこには太陽の光が全然届かない暗い森があった。ディグルはその森にゆっくり入っていく。


「さて…まぁ適当に変身しておくか」


折角だから同じ龍に変身してみよう、そう思いディグルは小さな龍に変身する。



「……おっ、こんな暗い中でもわかりやすい体してやがる…あれが噂の龍だな…!」



「………誰だ」


龍はディグルに気づく。


「ゴホン、驚かせてすみません。この森に迷い込んでしまったようで…貴方の姿を見かけたので帰り道を…とでも思いまして。しかし、こうして出会ったのも何かの運命…何かお話でも―――」


「―――断る」


「えっ」


「…最近変な奴らばっか俺の勢力圏に入ってきやがる。俺を誘おうとしても無駄だからな、そもそも俺はお前ら如きに興味のカケラもない!!!帰り道なら真後ろ向いて真っ直ぐだ!!もう二度と来るな!!!」


「は、はい…」


龍の怒号に思わずディグルは体を縮めた。




「なんだぁ!あいつ!この僕に微塵も興味をわかない奴は初めてだ…龍に変身したのがダメだった…?」



次の日。


「…」


「こんにちは、ドラゴンさん。良いお天気ですね、よければ私と一緒に過ごしませんか?」


「お前のせいで良いお天気じゃなくなった」


「ふごっ!?」



その次の日。


「お前、僕のモノになれ」


「素直にキモい」



また次の日。


「貢ぎ物なんて要らん」


「…」




「今回もダメだった〜…何がいけないんだ!?」


ディグルは地団駄を踏む。


「…おい、そこのメスダヌキ」


龍がそう言った。


「メスダヌキッ!?どうしてタヌキって…」


「は?臭いでわかるだろ」


「臭い…ってまさか」


「…お前、ほんとに変わり者だな。こんな森にわざわざ入って積極的に来たのはお前が初めてだよ。いくら着飾ろうとも、俺は()()()()()()のだから、褒めることもできない」


「は、初耳なんだけど!」


「そら言ってなかったからな」


「もう!折角色々な動物に変身したのに意味なかったってことじゃん!」


「知るか」


龍はほら穴に入る寸前、ディグルに言った。


「どうせ、明日も来るんだろう?なんか持ってこい」


「はぁ!?どうして僕が…」


「いいから持って来い、良いな?」



「だ……誰が持ってくるかあああぁぁぁぁぁぁ………………結局持ってきちゃったけど…」


「…お、これ案外美味いな。どっから仕入れた?」


「え?僕の庭からとってきた」


「自家農園…ってわけか。しっかしまぁ、お前はアホだな。原材料のまま突き出せばいいのに、わざわざ加工しやがって」


「うるさい!どうせなら手の篭ったものの方が良いでしょ!?」


「……ククク」


龍の固まった口角が上がった。


「わ、笑った?」


「いや、お前俺の家族にそっくりだなって」


「家族?」


「そう、騒霊っていう種族の三人姉妹なんだけどさ、その末っ子がお前そっくりでなにかあったら俺のところにとことこ走ってきてはちょっかい出してくるのさ。ちょっと手に余るが、その笑顔は守りたいほど素敵だったよ」


「へぇ〜」


「……まぁ、その笑顔ももう見えないけどさ」


「だから、他の女に興味なかったんだ」


「ククク、あいつ以上に魅力のある女なんて居ないさ」


「…どうして目が見えなくなったの?」


「さぁな、俺が聞きたいくらいだ。ある日突然目の前が真っ暗に染まって…ずっとそのまま。聴覚と嗅覚だけで生きてきたよ」


「そうなんだ」


「ああだが……それも明日で終わりかもしれないな」


「どういうこと?」


「明日、俺の知り合いが特別な目薬を持ってきてくれる」


「な、治るの!?」


「さ、流石にそこまではわからねぇよ。ただ凄い腕の医者が調合したみたいだから杞憂は要らないとは思うが…そこまでか?」


「当たり前じゃないか、自分の見た目とか気にしなくて良いとは思ったけど、君と一緒の景色を見てみたいって最近思ってたとこなんだ」


「何だそれは告白か?悪いが俺は…」


「そ、そんなんじゃないってば!さーて、明日はどんなのに変身しようかなー」




次の日の早朝。


「それじゃ、さすよー」


「おう、頼む」


一人の少女が龍の右目に目薬を一滴落とす。


ポタッ


「・・・」


「ゆっくり目開けてみてよ」


「…いや、まだ開けない」


「どうして?」


「今日会いに来てくれる友達が居るんだ。まずはそいつの姿を一番初めに見たい」


「へぇ、貴方が友達作るなんて珍しい」


「ことの成り行きでな」


「わかった。あ、ついでに左目の目脂とってあげようか?」


「お、じゃあ頼む」




ぽこぽこぽこぽこ




「…お、メスダヌキ。来たな」


「待ってまだ目を開けないで!」


「なぜだ?」


「僕、自分の見た目が嫌いなんだ。だからいつも別のやつに変身してないと落ち着かなくて…でも今日何にしようか決まらなくて…だったらもういっそのこと、本来の僕を見てほしくてさ」


「・・・へぇ」


龍の瞳が開いている。彩度の高い蒼い瞳がディグルを見つめていた。


「…っておい!目を開けるなよぉ!」


「フッ…アハハハハハ!!」


龍は大声で笑い出す。


「確かに、お前の体まんまるで腹がボテてて人に見せるにはだらしなさすぎるな!」


「お、お前ェェェェ!!こんなことになるなら何かしらに変身してくればよかった!!!」


「しっかし、お前の最初に見る姿が嘘偽りなし(オリジナル)の姿で良かったよ」


「あ、あのさっ」


「何だ?」


「君が嫌じゃないなら…これからもここに来て良い?」


「…好きにしろ、お前は嫌いじゃないからな」



俺、黄金郷(エルドラド)はいつでも歓迎するぜ。



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