いっぱいになったら?
ひだまり童話館参加作品
お題「たぷたぷな話」
水をコップに入れた。するとたぷたぷと揺れている。
もう少し入れてみよう。またたぷたぷと水が揺れる。
もう少し。もう少しと水をコップへ入れていく。その度に水はたぷたぷ揺れる。
もう水はコップの中にいっぱいだ。今にもこぼれそうなほどだ。
でもまだ大丈夫。一滴コップに水をたらす。たぷん。
また一滴水をたらす。たぷん。
そしてまた一滴。一滴と何回やっただろう。
とうとう水が溢れ出した。
* * *
「大介の一滴で水が溢れたから、大介の負けだ」
「お父さんずるい! 一滴が少なすぎるよ!」
「これはゲームだ。少なくてもコップに水を入れればいいんだよ」
「でも、コップより水の方が高さがあるのに、どうしてこぼれないの?」
「それは、表面張力って言うんだよ」
「何それ?」
「大介も大きくなったら勉強するよ」
「ふーん」
「もう一回やるか?」
「うん!」
こうして表面張力を利用した親子の遊びは続く。
「表面張力」のことを詳しく聞かれなくてほっとした父であった。自分でも上手く説明出来ないからだ。
(理数系は苦手なんだよな。)
そっと父は心の中で呟いた。