UFOと人魚
UFOの中で出会った人魚は、隣のクラスにいる前田さんという女の子によく似ていた。
「人間なんかよりも宇宙人の方がよっぽど紳士的だし、人間が汚した地球の水なんかよりも違う惑星の水の方がよっぽどお肌に優しいの」
どうしてUFOの中にいるのかと尋ねた時、人魚は気だるそうな表情で答えてくれた。僕たちがいる広い部屋の隅っこには銀色の光り輝く直方体の水槽が置かれていて、中には空気よりも透明な水が入れられている。人魚は半身だけ水槽の水に浸かっていて、濡れた山吹色の髪が水槽の縁にぴたりと張り付いていた。水槽の少し上には飛行機についているような丸い窓がついていて、窓からは青い地球が見える。ここら辺が私の実家。窓に映る地球の端っこを指差して、人魚はそう言った。
「人間が嫌いなの?」
「私が知っている限りじゃ、地球にいる生物で人間のことを好きなのは人間くらいよ」
それから僕は別室へと案内される。そこには下校中だった僕をUFOで拉致した宇宙人が丸いテーブルの前に座っていて、木製のチェス盤と睨めっこをしていた。僕は真向かいに置かれた椅子に座るように誘導され、キョロキョロとあたりを見渡しながら腰掛ける。僕が座った椅子は硬くて、冷たかった。
「地球の観光地で偶然この遊びを知ってね。せっかくだから誰かとやってみたかったんだ」
宇宙人はチェスのポーンを片手で握りしめながら僕に伝える。負けたら酷い目に遭うのだろうかとちょっとだけ警戒すると、僕の心を察した宇宙人がそんな構える必要ないよとあくびを噛み殺しながら呟く。
「ただ遊び相手を探しているだけだし、これが終わったら地球に送ってあげるよ。だけど、それだけじゃつまらないね。君を連れてきたお詫びじゃないけど、何かを賭けて勝負をしようか」
「何を賭けるんですか?」
「君が勝ったら、人魚をあげるよ。ペットとして連れて帰ろうかと思ったけど、地球以外じゃなかなか住みずらいだろうしね」
それから僕は宇宙人とチェスを五ゲームやった。宇宙人はチェスをやるのは初めてだと言っていたけど、最初の勝負以外は全部僕がボコボコにされてしまった。だけど、圧勝してしまったことを申し訳なく思ったのか、宇宙人は人魚を連れて帰っていいよと僕に告げる。とりあえず人魚が泳げるだけの水場へ、僕たちをUFOで送り届けてくれるとのことだった。
僕は宇宙人の好意に甘えて、高校のプールの近くで降ろしてもらった。辺りはすっかり暗くなっていて、校舎が深い藍色の影を地面に落としていた。夜風が水面を撫で、水面に浮かぶ綺麗な満月をゆらゆらと揺らしている。プールの中で泳いでいた人魚が水面を尾鰭で叩き、波紋で満月が消え、そしてもう一度浮かび上がった。
「ねえ、どうして月があんなに美しいか知ってる?」
「どうして?」
「月はね、美しいものばっかり食べてるの。日差しが強い真夏の木漏れ日だったり、白い吐息が溶けていくような高くて澄んだ冬の空だったり。そういう美しいものばっかり食べてるって思ったら、月があんなに美しいのも納得じゃない?」




