あなたへ
この千の文字をあなたのために残します。私はあなたの人形でした。私はいつまでもあなたの望む私であり続けようとしました。あなたはあなたの思い通りの箱庭のなかで私という人形で遊びました。それがあなたの幸せだと私は肌で感じ取っていました。
これは優しさでしょうか。それとも自我がないだけなのでしょうか。今日、私はそれを幾度も考えました。けれども答えは何度考えても分からなかったのです。ただ、私はあなたが幸せを溢れさせながら笑っているのが見たかったということだけは理解できました。
あなたは世渡りが下手でした。なぜならあなたは箱庭の外も箱庭にしようとしていたのですから。あなたはよく私に愚痴を言いました。私はそれを聞いているとき、あなたから闇がしたたり落ちていくようで、それが私のあなたへの畏怖となっていったように思います。
かく言う私も楽に生きられません。私はよく周囲を苛立たせてしまうのです。だから私はそうして外の苦しみを感じては、あなたの箱庭に帰ってきて人形になりました。それからあなたが私の性格を事あるごとに口に出すのを聞いたりしながら、あなたの箱庭に包み込まれていました。
あなたはあなたの箱庭の創造主であるかのように振る舞いました。あなたはあなたの気に入らないものはすぐに排除しました。あなたはあなたの好きな言葉ばかりをよく集めていました。あなたが箱庭の外に出るのは、箱庭にぴったりなものを探すときばかりでした。
私はそんなあなたが怖かったのです。いつかあなたが私を気に入らなくなって排除するのではないかという不安を、この体で感じていたのです。私はあなたの人形であろうとしました。しかし人形はいつしか捨てられる存在でしかないのです。
それでも私はあなたの箱庭だけでしか愛を感じられない人間になってしまいました。事あるごとにあなたの箱庭にある言葉やものとつなげて考えてしまいます。あなたの愛を思い出してしまいます。私はあなたのためだけの人形でした。もうあなたとあなたの箱庭なしでは生きていけません。
さようなら。ここで別れを言いましょう。今、私は死んでいきます。最後まで人形でしかいられなかった私という存在が消滅していきます。私は最後まであなたの愛する人形でいられたのでしょうか。最後までその事を聞けないままでした。それでもこれで良かったのでしょう。
箱庭の中でしか生きられないあなたへ。あなたの人形からの言葉です。