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宵の明星

 「私は降りるわ」


 ホールを充たした彼女の声、その凛とした佇まいに暫く見惚れていた。

 夜だというのに彼女の白だけがはっきりとしている。

 足元には無数の星々、太陽も月も雲もここからは上下曖昧な位置に存在していた。


 「正気か」


 口をやっとこ開いてそれしか出てこなかったのは自身の方が正気ではないからだろう。

 もうずっと前から分かりきっていたことだった。

 彼女が告げる「降りる」というひとつの動詞に詰まったものが俺を急かしていた。

 彼女の表情は暗闇で捉えることは出来ないでいたが、それでも淀み無いことなんてすぐにわかった。


 「役目でしょう」


 それは違うと出てこない自分(意気地なし)とこのまま付き合うのか。

 彼女が言っていることは本当に間違いなのだ。それはここにいる全員の与えられた役割なのだ。それを俺達はこなすことが出来ずに放置した。

 そのツケを彼女はひとりで背負うつもりなのだ。

 

 ――そんなの間違ってる。


 「お前がそうしたいなら誰も止めないよ、当然俺も」


 口はあくまで他人行儀だ。

 今更止めることは許されなかった。だって彼女は決めたのだ、それを邪魔してはいけないのだ。

 俺はここに残ると決めた。

 彼女が愛したこの景色を一緒に見るのは多分これが最後だ。伝えなければ、伝えなければ、伝えなければ……。


 「落ちこぼれは完全な空間を穢すから、さっさと降りてしまわないといけないわ。誰か止めに来るんじゃないかなんて、私もまだまだみたい。見送り感謝するわ」


 ――やめろ、なんてこと言うんだ。今までで一番酷い冗句だ。


 鼓動は速まっていく。どうしてこうも、また、一体何をやっているんだ。


 「俺はまだお前を――、まだ……!」


 「いいのよ貴方は身を守るために最低限の選択をしたまで」


 男らしくない自分に嫌気がさす。

 気の利いたセリフも、自分の愛を叫ぶことも出来ないまま。

 やがて彼女はゆっくりと立ち上がった。


 「それじゃあね、ありがとう」


 「達者でなエスラル」








 


 羽を伸ばす  


 白い羽をどこまでも


 彼女は降りていく


 世界が黒に染まる前に


 雨が降り出す


 その日から


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