ショートショート『地球模型』
「結局、火星移住計画も失敗か……」
宇宙移民局の長官である彼は頭を抱えながら呟いた。
西暦というものが数を重ね始めてから三千回目の春。すでに地球は人間で溢れている。政府は人間の生きる場所を他の惑星に求めた。最初は月。そして火星へ。しかし人類は地球以外の環境に適応する事はできなかった。移住計画は次々と失敗していった。そして今、火星移住の最後の計画も失敗が確定したという報告が入った。
「やはり、あの計画を実行するしかないようだ」
長官は部下に言って、博士を呼びに行かせた。長官には、一つの案があった。それは秘密裏に『地球模型計画』と呼ばれるものだ。その計画の内容は、簡単に言えばこうだ。
『太陽を挟んで地球と反対側に、地球と気候、地質、その他全てが同じ惑星を人工的に作る』
地球以外の星に人間が対応できないのなら、地球をもう一つ作ってしまえば良いのだ。理論上、現在の地球人口の半分を新たな地球に移住させる事ができる。これは、増え続ける人口に対する最後の手段だった。
「お呼びですか、長官」
部屋に博士が入って来た。
「待っていましたよ、博士。あなたの天才的な頭脳で、やってもらいたい事業があるのです」
「ほほう」
「太陽を挟んで地球の反対側に、新たに地球と同じ惑星を作って欲しいのです」
「地球を……もう一つ作ってもらいたいと言うのですかな?」
「そうです。気候、地形、地質、大気。その他の全てが地球と同じ、新しい星をです! もちろん、費用は政府からいくらでも出させてもらいます。可能でしょうか……?」
博士はアゴひげをさすりながら答えた。
「ふむ……政府のバックアップと私の頭脳があれば、恐らく可能でしょう。完璧なものを作ってみせますよ」
「それはありがたい! お願いします!」
博士はさっそく開発に取り掛かった。政府のバックアップを受けながら、開発は順調に進んだ。もちろん問題は多発したが、博士はその頭脳をフルに生かして解決していく。新しい地球はどんどん形になっていった。そしてまた幾度もの春が過ぎ去った頃、博士が再び長官の部屋を訪れた。
「長官、ついに新たなる地球が完成しましたよ。気候、地質、大気、その他全てが完全に再現できました」
「本当ですか、博士! これで人口増加の問題も解決できます!」
「……え? 今なんと? 何に使うと言いましたか?」
「ああ、言っていませんでしたか? 新たな地球に現在の地球の人類を移住させるのです。これで人口増加の問題が解決できますよ」
「そんな……。聞いていませんよ……」
「え? 何か問題でも?」
長官の質問に、博士はため息をつきながら答えた。
「長官が言った通りに、私は地球を完全に再現したのです。気候、地質、気候はもちろん、そこに住む人間も……」
(了)