取引
夜は涼しいですね。
「よかったの?サブロー」
「ああ。問題ない」
俺と黛は獣道を行く3人を見送っている。1日に2回は必ず地球に戻って、向こうの2人にサンプルを渡すことになっているらしい。この話を聞いて、タイミングが悪ければ異世界に来られなかったのかと冷や汗をかいたところだ。
しばらくはこの周辺の植生と動物分布の調査だと三木は言っていたが、その先には異世界人との交流が待っている。俺はダンジョンのモンスターの記憶を通して、こちらに多種多様な人がいることを知っている。その異世界人とのコミュニケーションにおいて問題になるのが言葉の壁だ。
【念話】のスキルオーブ。
俺がエジン達との取引に使ったのはこれ。【念話】のスキルオーブと【転移】の葛籠の交換を持ちかけたのだ。【念話】は言語を使わずに直接相手の意識と会話することができる。異世界では途轍もない価値をもつスキルだ。
頭の悪いエジンは渋ったが、俺のことを何故か信用している三木が説得して取引は成立した。三木、もしくは協会からなにかしらの補填がエジンにはされるのかもしれない。
【念話】
"聞こえるか?"
"すごい。聞こえる"
"これが念話だ。【念話】のスキルオーブは今のところ妖怪ダンジョンでしかドロップしていない"
"独占"
"そう、独占。甘美な響きだ"
"ねえ、サブロー。気付いてる?"
"何のことだ?"
"さっきから見られてる"
"やれるか?"
"うん"
黛の姿が森の風景に溶ける。その様子に驚いたのだろう。ダンジョンとは逆方面からかすかに物音がした。
小動物だろうか?そう思っていると藪の中から音の原因がやってきた。
「הנאסה!」
黛が小脇に抱えるぐらいだ。50センチないかもしれない。子供サイズのジジイが喚きながら連れられてきた。
「הנאסה!אני חזק!」
「これがいた」
「一匹だけか?」
「うん」
黛は無頓着に小さいジジイを地面に放る。
「כּוֹאֵב! היה עדין!」
何か怒っているが、まったく脅威を感じないな。
"おい、聞こえるか?"
"ほお、人間の癖に【念話】とは生意気じゃな"
"お前は何だ?"
"何だとは何だ!リリパット族の賢者として一族の全ての者から尊敬を集めるこのグランピー様を知らんのか?まあ、知らんだろうな。人間なんて無知で野蛮と相場が決まっておる!この女だってそうだ!儂をモノのように扱いおってからに。そもそも女としての魅力が全くない!まさにまな板!こんなでは、、"
黛がグランピーを蹴り飛ばした。
「どうした?」
「失礼なことを言われた気がした」
正解だ。
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