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たくやの糸  作者: 松仲諒
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第2章 (8) 二日目、壁へ

 翌日、早朝に皆で次元の裂け目に向かい出発した。テントから出て歩いて程なくすると高い崖が立ちはだかり行き止まりになった。

「これからここを登ります。その先が次元の裂け目です」ケインが言った。

「え、これを登るのか」健二は口先を横に曲げてうんざりしたように言った。

「こっちに道はある。そんな大変じゃない。ここでめげるな」シャーリンが言うように崖の横に細い階段上の道が上に続いていた。幅は一人がやっと通れる程度と狭く皆で一列になって登った。先頭はケイン、その後にドロンと続いた。一番後ろはシャーリンが付いた。脱落者や逃げる者がいないようにということだろうと思った。まだ僕たちは百%信用されていないようだった。上の方まで行くと崖の間に谷のような裂け目があり道はそこに続いていた。その谷に入ると今まで普通のグレーだった両側の岩肌が朱色を帯びてきた。そしてしばらくすると崖が途切れ急に開けて広い場所に出た。果てが見えない程広いその場所には、今までの崖が嘘のようにただ真平らな地面が続いていた。そして地面はほのかな朱色をしていてまるで夕焼けの空が地面にずっと広がっているようで美しかった。

「わー綺麗、こんな光景は観たことがないわ」ラドエが興奮したように言った。

「不思議だな。この地面の朱色の輝きは何からできているんだ?」ペロが興味深そうに前に出て地面を触りながら言った。

「こっちに入口はあります」ケインが促すように歩き出した。

「まっ平らで何にもないようだけどなあ」ドロンが付いて行った。十分位歩くと今まで平らに見えていた地面に丸い穴が見えた。

「あれ、あそこに穴がある。遠くからだと気づかなかった。穴の中も朱色をしていて気づかなかったんだな」健二が言った。

「あれが次元の裂け目への入口だ」シャーリンが言った。傍に寄ると直径五m位の真ん丸の穴だった。

「降りられるのか?」ガントが口を開いた。

「はい、降りられます。こっちです」ケインが先導した。穴の反対側に行くとへりに細い下りの道がらせん状に続いていた。その道も色がほとんど壁と変わらず影等も見えなかったので傍にいくまで存在に気づかなかった。

「ここから降ります」穴の中を見ると果てしなく朱色が続き底がないように見えた。

「きゃあ、怖い。どこまで続いているの」メイナが怖がって言った。

「大丈夫です。そんなに深くはないです」ケインの言う通り五分位歩くと平らな地面になった。

「これは不思議だ、確かに地面があった」ペロが驚いたように言った。錯覚なのか周囲の朱色にほとんど濃淡がなく境目がわからなかったため、壁や地面の存在に気づかなかった。その感覚は、僕も不思議に感じ、ちょっと恐怖も感じた。

「ここから次元の裂け目です」ケインが言った。

「ここから隣の世界に行けるのか」ガントが聞いた。

「可能性はあります。でも、行き方は私たちにはわかりません。ここでは色々な次元が交錯していて、ときどき他の世界から現れるものや、他の世界へ行って消えてしまうものは確認されていますが、私たちは移動の方法を知らないのです」ケインが言った。

「帰りたい気持ちはわかるが、そう慌てるな」シャーリンが言った。

「確かなことはこの先の壁の向こうにウィンゼンとの境界があるということです」ケインが言った。

「壁というのは近くなの」ラドエが聞いた。

「はい、すぐそこです。行きましょう」ケインが案内した。横に洞窟のような穴が開いていて、その中へ歩いて入った。しばらく行くと行き止まりになった。

「これが壁か?」ペロが聞いた。

「いえ、これは壁ではありません。この向こうです」ケインが言った。

「でも行き止まりじゃないか?」ペロが反論した。

「ここに穴があります」ケインが指をさした先に人の顔が入る位の楕円の穴が開いていた。

「ホントだ、穴だ」健二が興味深そうに覗くように穴に顔を近づけた。

「ここにもあるわ」メイナが言った。確かに無数の楕円の穴が開いていた。

「皆さん、この穴に顔を入れて向こうを覗いて見て下さい」ケインが言ったので皆そばにある穴に顔を入れてみた。僕も手近にあった穴に顔を入れてみた。すると向こう側には青白い空間が広がっていた。正面を見ると穴から出ている健二の顔が見えた。健二は隣にいるはずなのに正面に見えるのが不思議だった。

「あれードロンじゃないか?」正面にいる健二が僕の方を見て叫んだ。

「僕はドロンじゃないよ、たくやだよ」と僕は返した。しかし健二は僕の声が聞こえないのか反応しなかった。僕は上を見た。そうしたら穴を覗いているガントの背中が横向きに見えた。なぜそこにガントの背中が見えるのか不思議だった。右を見るとメイナの尻尾が揺れていた。僕はその不思議な光景をずっと見ているのが怖くなり穴から顔を出した。

「どうでした、皆さん、何が見えましたか?」ケインが声をかけてきた。

「皆の顔だけでなく、背中や尻尾が見えた」

「俺にはお尻も見えた」健二が言った。

「やだー、私のお尻を観てないわよね」ラドエが甲高い声で叫んだ。

「上下や左右も変だったぞ」ドロンが言った。

「ははは、そうでしょう」ケインが笑った。

「そうか、次元が狂っているんだ」ペロが言った。

「そうです、前後、左右、表裏等の次元がここでは交錯しています」ケインが説明した。

「次元の裂け目という訳か」ドロンが言った。

「いや、これはまだ序の口です。ここの周辺の次元が少しねじれているだけです」ケインが言った。

「それで、壁にはどうやって行くんだ」ガントが聞いた。

「簡単です。この壁を超えるだけです」ケインが言った。

「この壁を?どうやって?」ラドエが聞いた。

「簡単さ、体当たりすればいい。こうやってな」シャーリンがそう言ってメイナの目の前を壁に向かって走って行った。

「きゃあ、危ない」メイナが叫んだ。シャーリンが壁にぶつかったときコトンと少し音がしたがシャーリンはそのまま壁の向こう側に消えて行った。

「消えちゃった」メイナが小さな声で言った。

「この壁は、すり抜けられるのです。私たちにもなぜなのか分かっていないのですが、向こう側は次元が少し異なるようです」ケインが言った。

「向こうに行っても大丈夫なのか?」ペロが聞いた。

「はい、大丈夫ですよ。私たちは何回も行っています。皆さん、壁に体当たりするように走ってください」

「よし、行ってみよう」ドロンが駆け出して壁に体当たりした。するとドロンも壁をすり抜けるように消えた。

「よし、俺も」健二が続き、ガントも続いた。メイナがためらっていたが、ペロが手を引っ張って一緒に走った。僕もラドエとほぼ同時に駆け出した。壁に上腕と肩から体当たしたら、当たるときに軽い感触があったがそのまま壁をすり抜けられた。そこは青白い光があふれる円形のドームのような空間だった。青白い光の中で唖然としてぼーっと立っている皆の姿が何かの現代美術の像のように見えた。

「あっさり抜けられたな」ドロンが言った。

「皆さん、揃っていますね。壁はこっちです」ケインが案内した。青白い空間を僕たちはケインに付いて歩いた。地面はフワフワし、柔らかい苔かピートの上を歩いているような感じだった。しばらくするとドームのように感じた空間が開けて、突然前に高い壁が立ちはだかった。周りの青白い光に照らし出されていたが、壁の表面は茶色でちょっと木材に似ている質感だった。見上げると上の果ては見えず、壁がどこまで続いているのか分からなかった。

「ここが壁です。多くの人がここを登りましたが、この壁は上までずっと続いていて果てまで到達した者はいません」

「上に果てがないというのは不思議だな。次元の歪みのせいで上に感じるが上ではないのかもしれないな」ペロが言った。

「これからどうするんだ」ガントが聞いた、そのときだった赤い光の塊のような物が目の前に現れた。

「何だ?」ドロンが後ずさりして腰を低くして身構え、他の皆も一緒に少し後ろに下がりながら身構えた。

「いらっしゃった。あの方だ」ケインが目を見開き嬉しそうな笑顔になって赤い光を見つめた。赤い光の中央に黒い人影が見え、こちらに歩いて来た。


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