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たくやの糸  作者: 松仲諒
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第2章 (6) 光り

 翌朝、作戦を確認するために夕食をした部屋に皆で集まった。ケインが前に立って説明をした。

「これが次元の裂け目の地図です。壁まではここから歩いて二日で着きます。私たちは何回も行っていますが、そこまで行くのはそんなに難しくはありません。問題はその先です。壁は高く、何度となく挑戦していますがその壁の向こう側に行くことができた者はいません。我々の望みは”七つの世界が協力して壁を越える”という予見だけです。その”協力”がどういうことをすればいいのか分かっていません」

「そんな状況で我々が行って意味があるのか?」ガントが言った。

「私たちはサラさんにそこで会えると期待しています」

「サラさん?誰だ、その人は?」ガントが聞いた。

「”七つの世界が協力して壁を越える”ということを予見した方です。十年前に壁の前に現れその予見を私たちに伝えました。そしてそのときに”七つの世界の人が集まればまた現れる”と言って去っていきました」ケインが言った。

「ところでサラさんというのはどういう人なんだい?」健二がケインに聞いた。

「私も直接お目にかかったことはありません。十年前に突然、壁の前に現れたのです。会ったのはそのときに壁の前にいた者だけです。写真等も残っていません」

「なぜそんな人の言うことを信じたのですか?」僕が聞いた。

「十年前、現れたときにサラさんは私たちに何点か話してくれたことがあります。ひとつはウィンゼンの力のバランスが崩れていること、そしてそれにより私たちAの世界の気温が低下するということを教えてくれました。まだそのときには私たちはこのような気候変動が起こることは想像もしておらず、ウィンゼンの力の変化にも気づいていませんでした。しかしその後、サラさんの言う通りになったのです。そしてサラさんは二年後にCとFの世界の人と出会うということも予見しました。そして言われた通りに二年後に突然CとFの世界の人が西の土地に現れたのです」

「チェリムとハミィだね。僕たちがAの世界を知ったのはそのときだ」Fの世界のペロが言い、Cの世界のメイナがうなずいた。

「はい、そうです。私たちはそれまで隣の世界との交流はBの世界としかしていませんでした。しかしそのときからCとFの世界との交流が始まりました。このように全て予見通りに進んだので私たちはサラさんの言われたことを信じるようになったのです」

「そういこうことか」健二が言った。

「そして、サラさんが言われたことは、十年後に他の世界の人も現れ、七つの世界の人が集まる。そして七つの世界が協力をすれば壁を越えられ、ウィンゼンの力のバランスを直すことは可能だということでした」

「それが今日なのだな」ペロが言った。

「そして十年後にまた現れると言ってサラさんは去りました。その言葉に私たちは期待しています」

「なんか怪しいな。本当に信じていいのか」ガントが言った。

「今、私たちが信じられるのはその予見だけです。そして今のところ予見の通りに進んでいます。私たちはサラさんを信じています。そしてサラさんがその後のことを何か教えてくれるのではないかと思っています」ケインが言った。

「まあここから二日で着く距離だ。行ってみようや」ドロンが言った。

「向こうには十分な食料や飲料水を用意してあります。皆さんはそんな重装備をしないで行けます。皆さんがよければ、出発はこの後一時間後にしようかと思いますが、よろしいですか?」

「はい、大丈夫よ」ラドエが長い耳をピンと立てて答えた。

「ああ僕は構わないよ」ペロが甲高い声で答え、他の皆もうなずいていた。

「では皆さん、準備をして一時間後にここに集合してください」


 僕たちは集合の時間よりちょっと早めに部屋に戻った。既にケインとラドエ、ペロ、メイナがいた。

「あらたくやさん、健二さん。気になっていたのだけどあなた方いい服を着ているわね」ラドエが僕たちに話しかけてきた。

「はい、これはこのAの世界で頂いたんです」僕が答えた。

「デジャインの服と言って、有名な冒険家が作ったんだってさ」健二が僕の話にかぶせるように言った。

「冒険家の名前はガイナーだ。伝説の冒険家。次元の裂け目も彼が発見した」シャーリンが言った。

「すごく軽くて動きやすいし、寒くもないんだ」健二が腕を左右に動かしながら笑顔で言った。

「素敵ね」ラドエがほめてくれた。

「どんな素材なんだ」ペロが触ってきた。

「ほんとだ。凄く柔らかくて、不思議な肌さわりだ」そういうペロはぴかぴかの体にピッタリした服を着ていた。アマガエルそのままの体がくっきり浮き上がっておかしかった。

「ペロさんは、昨日の夜の服と違いますね」

「だってこれから外へ冒険に行くんだよ。しっかり装備しないと」


 しばらくして残りの人たちも集まってきた。最後にシャーリンが部屋に入ったときだった突然、音が鳴り響き同時に光が部屋にあふれた。その音はお寺の鐘が鳴ったときの余韻のようなウォーンという響きで、その響きが多くのところから出て、重なりあって大きな和音となり部屋全体に響き渡った。

「きゃあ、どうしたの」ラドエが驚いて大きな声を上げて飛び上がった。僕の背中のバックパックの中からも音が出、背中に振動を感じた。振り向くと蓋の隙間から明るいオレンジ色の光が漏れていた。僕は急いでバックパックを降ろし蓋を開けた。オレンジ色の光は直視できない程眩しく、目を横にそらしながら手を伸ばしてカバンの中をまさぐって振動している物をつかみ外へ出した。それはジャレインの欠けらだった。

「ジャレインの欠けらが共鳴している」ケインが叫んだ。各世界の人から違う色の光が出ていた。シャーリンからは青い光が、ドロンからは濃い青の藍色、メイナから黄色、ガントから紫、ペロから緑、ラドエから赤い光と七人から七色の光が発せられ、それらが合わさり白い光となって部屋中を明るく照らしていた。上を見上げると天井に七人の光が大きな白い円になっていた。その共鳴と発光は五分間位続き、次第に音と光が弱まり終息した。

「みんなジャレインの欠けらを持っているんですね」ケインが言った。

「ジャレインの欠けら? 何だそれは? これは母親から譲り受けた物だ」ガントが胸に下げているペンダントのような物を指して言った。それは細長いが長さが十㎝位しかなく僕のジャレインの欠けらより大分小さかった。

「これがジャレインの欠けらだとは気づきませんでした」ケインが言った。

「ジャレインの欠けらが何であるか詳細は私たちにも分かっていませんが、ウィンゼンから七つの世界に散ったと伝記に伝えられる欠けらです。皆さんがそれを持っているとは気づいていませんでした」ケインが言った。

「私のはここに来る前に友人からもらった物よ」ラドエが言った。

「俺のは警備隊のリーダーの証として引き継がれている物だ」ドロンが上着の内ポケットから小さい物を取り出しながら言った。

「私はお守りとして親からもらったは」メイナが言った。

「僕は二十年前に川を調査しているときに発見し、なぞの物質として研究していた物だ。自分の世界にはない物質なのでここに持って来れば何か分かるかもしれないと思い持ってきた」ペロがカバンから透明な入れ物と一緒に二十cm位の長さの茶色い物を取り出して話した。

「僕はこの世界に迷い込むときに触った物です」僕が言った。

「俺はおとといジャグルというじいさんの家で見つけた」シャーリンが言った。

「皆さん、それぞれに色々な経緯で持っているのですね。ここで一同に会しているということは重要な意味があると思います。今回のチャレンジに役立つ物と言われていますがどう役立つのか私にはわかりません。それもサラさんが教えてくれるかもしれません」ケインが言った。

「何でもかんでもサラさんが頼りかい」ガントが不満そうに言った。

「科学的ではないね」ペロが言った。

「しょうがないじゃないか、分からないんだから。まずは壁まで行ってみよう」ドロンが言った。

「そうだよ、行ってみよう」健二が賛同し、他の人も賛同したようにうなずいた。

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