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PCRの原理と問題点

作者: ネタ帳
掲載日:2021/03/27

※多数の専門用語を含みます

それらについて特に説明をしていないことが多いので、分からない単語については各自調べてください。

PCRとはポリメラーゼ連鎖反応の略語で、ポリメラーゼという酵素を使って対象の遺伝子を増幅する操作のことを言います。従って、それ自身が病原体を検出する方法ではないというのはこの1年間様々なメディアで目にしてきた人も多いかと思います。ここではその原理や特性、問題点などについて述べます。


1. 原理

地球上に存在する生物(+ウイルスなど一部例外含む)はDNAやRNAなどの核酸を遺伝子として利用しています。コンピュータが0と1の2進数で情報を表すのと同じように、遺伝子はAT(U)CGの4種類の塩基を使って情報を保存しています。細胞が分裂する際、その遺伝情報を増幅するということが行われますが、これを利用するのがPCR法です。PCR法では強制的に遺伝情報の複製を行い、増幅した遺伝子を様々な実験等に利用します。

多くの生物が情報の保存に利用しているDNAは塩基同士の水素結合によって安定化された2重らせん構造を持っています。これを断ち切るため、PCRでは始めのステップとして約95℃に加熱する必要があります。その後50-70℃で一本鎖DNAにプライマーをアニーリングする工程を経てポリメラーゼでのDNA伸長が進み、複製が完了します。


2. 特性

先ほどは意図的にプライマーの説明を省きましたが、プライマーとは目印となるRNA断片のことです。ポリメラーゼは一本鎖DNAであれば何でも増幅する酵素ではなく、一本鎖DNAにRNAの断片が結合している箇所を起点として複製を開始します。そのため、増幅したい遺伝子の配列が分かっている場合にはその一部を使ったRNA断片(プライマー)を作製し、試料中に混ぜることで特異的に増幅させられるという特徴があります。注意点として、プライマーの配列が特異的でない場合には増幅される配列は特異的でなくなってしまいます。


3. 検出

増幅した遺伝子の検出方法にはいくつかありますが、代表的なものにはアガロースゲル電気泳動が有ります。何ちゃら細胞で有名な理研の方が画像を捏造したと話題になっていたのも電気泳動の一種です。電気泳動は分子量によって電荷をかけた際にゲル中の移動度が異なることを利用し、サンプル中の各要素を分離します。電気泳動によって得られた結果がキレイなバンドになっていて、想定される塩基対数と同じであれば標的遺伝子が増幅されていると言えます。多くの学術的論文においては、さらに制限酵素による処理を行ったのちに再度電気泳動を行い、得られたDNA断片のバンドが想定される分子量であることを確認します。

上記の電気泳動という方法は非常に信頼性が高い検出方法と言えるのですが、操作の完了までに時間が掛かるという問題点があり、疫学的に「PCR検査」をする際には別の方法が用いられます。


4. 問題点

4-1. プライマーの特異性

原理から考えれば当然ですが、プライマーが自然界に一般に存在する配列であっては余計なものまで増幅されてしまい検査になりません。COVID-19に関してはN、N1、N2セットと呼ばれる配列が国立感染症研究所やCDC(アメリカ疾病予防管理センター)によって提供されており、その信頼性は高いと言って良いでしょう。極まれにPCR検査ではCOVID-19とインフルエンザを区別できないと仰っている方がいますが、それは有り得ない話です。


4-2. 検出方法

3項でも述べたように電気泳動は信頼性の高い検出方法ですが時間が掛かり、感染症に罹っているかどうかを検査するためにわざわざ行うのは稀です。そういった場合に一般的に用いられているのは蛍光色素を用いたDNAのマーキングです。

ポリメラーゼが複製を行う際、当然無からヌクレオチドを生み出すのではなく周辺にあるものを利用します。そのため単体では蛍光しないが、DNA鎖に取り込まれることで蛍光する物質でラベルしたヌクレオチドをサンプル中に入れておくことで、蛍光強度を調べると増幅されているかが分かるようになります。

この方法の問題点としては、電気泳動と違い蛍光しているのか、いないのかしか分からないということがあります。蛍光物質が標的遺伝子と全く違うものに取り込まれていたとしても、それを見分ける手段がないのです。


4-3. コンタミ(コンタミネーション、異物混入)

コンタミを完全に失くすというのは非常に困難なことですが、PCRは1つの鋳型を数百万倍に増幅する操作であること、4-2項で述べたような検出方法を用いていることを考えれば余計なものが混ざるというのは有ってはなりません。極端な話、1コピーでも混ざりこめばそれが増幅されて検出される可能性があるのです。

また、COVID-19はRNAウイルスの一種であり、遺伝情報にDNAではなくRNAを利用しています。厄介な点としてRNAはDNAのように水素結合による安定化をしておらず、その二次構造は非常に不安定です。ただでさえ不安定な上、RNA分解酵素というのは至るところに存在しているため、RNAを扱う実験ではmilliQ水でさえDECP添加の上オートクレーブしなければならないほどです。もしサンプルにRNaseがコンタミしてしまった場合には本来陽性であっても陰性となってしまう可能性があります。


4-4. 増幅回数

4-3項までに3つの問題点を挙げましたが、4-1、4-2項については研究機関から信頼性のあるプライマーが公表されているため、それほど心配はありません。4-3項についても実験操作の習熟によってコンタミは大方防げます。無論完全には防げませんが、それは仕方のないことでしょう。

現在の日本で行われている検査方法の大きな問題点は増幅回数にあります。一般的にPCRの適正増幅回数は30-35回と言われており、これ以上ではプライマーが本来の標的以外とも接触する機会が増えて余計なものまで増幅されてしまう可能性があります。過度に増幅回数を増やしたPCRの泳動像を見ると、多くはスメア状になっています。そんな中、日本では45回という増幅回数を採用しています。サイクル数35回の場合と比較し、約1000倍に増幅される計算です。

45回という増幅回数を採用している理由には検体採取が難しいといった事情があります。被験者の鼻に検体採取のための棒を入れるため、被験者がじっとしていられずきちんとしたサンプルを得られないことも少なくないのです。そういった中で陽性を見逃さないよう、少量でも対応できるようにするため増幅回数を増やしているのです。


5. COVID-19パンデミックとPCRの利用について

COVID-19パンデミックはたった1種類のウイルスが1億人以上の人に広がったという特徴があります。ウイルスの毒性が現在それほど高くないことから、インフルエンザよりも「弱いウイルス」などと言う人もいます。しかし、ウイルスがこれだけ多くの人に感染するということは、より感染力が強まったり、感染力が強くなったりする可能性があることを意味します。その可能性を考えれば現状が騒ぎすぎだとは決して言えません。

PCRという手法はこのパンデミックによって広く一般に知られるようになりましたが、その利用にも賛否両論あるようです。検査の精度が抗体検査に劣るというような論外な指摘も見られますが、増幅回数に触れて日本のそれは多すぎるという人もいます。

私見として陽性が多く出るというのは仕方のないことだと考えています。COVID-19を完全に抑え込むことはほぼ不可能と言って良いでしょうが、ワクチンが普及すれば現在のように活動を制限する必要はなくなります。それまでの間の時間稼ぎとして、可能な限り被害を最小に抑え込むためにも陽性者の発見が必要なのです。

PCRの「問題点」って書けば陰謀論好きな人たちが寄ってくると思って付けてみました。

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