表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私と小鳥と鈴とブラック企業と必殺技と忍者とおにぎりとドラゴンと文学少女とその他諸々

作者: てこ/ひかり

 踏切が締まると、降りてきたのは黄色と黒の遮断棒……ではなく、真っ赤な鳥居だった。

 

 私はあっけに取られた。

 仕事帰り、もうすぐ日が暮れようとしていた時間帯だった。


 目をこすり、もう一度前を見る。

 どう見ても、鳥居だった。

 線路の前に、古ぼけた鳥居が澄まし顔で立っている。


 混乱する私の前に、さらに理解不能な状況が押し寄せてきた。


 向こうから、巨大なビルが線路を走ってきたのである。


 見間違いではない。

 ビルが横向きに倒れ、線路を突っ走っている。


 それだけではない。猛スピードでビルが左から右へと過ぎ去って行くと、今度はその後ろから眩い閃光が、さらにその後ろから忍者が駆け抜けて行った。そう、あれは確かに忍者だった。


 忍者の次はおにぎり、ドラゴン、本を抱えた少女……と続く。謎の行列は中々終わらなかった。その間、踏切の周りにはずっと調子外れの「かごめ、かごめ」が流れていた。


 鳥居は、鳥居だから、くぐれないこともないのだが、線路上を走っているブラウン管や幕末の志士に轢き殺されて人生を終えるのは、さすがに泣くに泣けない。仕方なく、私は行列が過ぎるのをじっと待っていた。私の隣には車や主婦もいたが、彼らは特段驚いた様子でもなかった。私は首をひねった。


 或いは私にだけ、このおかしな光景が見えているのだろうか?


 どれくらい待っていただろう。最後の最後に、森野投手がやってきた。私の応援しているプロ野球選手の一人だ。コントロールに定評がある。


「あなたも、走りますか?」

 驚いたことに、森野投手は私の前で止まり、鳥居の向こうから話しかけてきた。私はブンブンと首を振った。

「そうですか」

 じゃ、トレーニングがあるので。彼はそう言って、再び線路上を走り出した。


 列が終わり、ようやく鳥居が上がり始めた。鳥居はある程度上まで行ったところで、煙のように夕暮れの景色の中に溶けていってしまった。


 それから何もかもが日常に戻った。隣にいた車も、主婦も、何事もなかったかのように線路を渡った。


 狐につままれたような話である。

 あれ以来、何度も同じ道を使っているが、線路に鳥居が降りてきたことは一度もない。ちなみに森野投手は、その年リーグで最優秀防御率を取った。私が線路上であったのが本物の森野投手であったのか、確かめる術は今のところ、ない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 通りたくても通れない。。あるある の悪夢ですが、さすがに、ビルが横倒しで滑ってくるのは、夢でもみないかも^^;;主人公も森野投手と一緒に走ってたら、どうなったのだろうと、考えましたが”体重が…
[一言] 森野投手見てみたい。ググってみますね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ