火をつけたもの
「勇者がいなかった…?」
それは今までの歴史を否定することと同じだ。エイダは息をのんだ。
「こんなこと書くなんて相当勇気があるぜこのメルジーナ先生のお爺様は、ソール国にしてみれば、領土問題に関わるとんでもないことだぜ、勇者を生み出した国だからこそソール国は、広い領地を手にすることを許されているのにな。」
ドンキホーテは眉間に皺を寄せながらそう言った。
「どういうこと?」
エイダは理由が分からず聞き返した。ソール国の領地は元からあるものではないのだろうか。許されているとはまるで元からソール国のものではないかのような物言いだ。アロクはドンキホーテの代わりに説明を続けた。
「勇者が、魔王を討伐する前、ソール国の領地は今ほど大きくなかった。だが魔王が現れた時殆どの国は、魔王に負け、領地を手放したのだ。その時に領地を手放した国々の王や民はソール国へと集結した。そのおかげかソール国は巨大な国となった。1つの脅威を前に力を合わせようと。そうして打ち勝ったのだ、魔王討伐後、国々は元に戻った。その際だソール国への礼として多くの土地を明け渡したのだ。勇者を生み出し、そして魔王を討伐した国への礼としてな、その結果、ソール国は巨大な国へと成長を遂げたのだ。」
アロクの説明にドンキホーテも頷く。
「アロクの言う通りだ、こんなことを書けば周りから相当叩かれる。だからこそこうして隠してきたんだろうけどな。エイダ悪いな読むのを止めて、続けてくれるか?」
「うん、わかった。」
エイダは、返事をすると再び本を声に出しながら読み始める。
勇者などいなかった。正確には私達の知る勇者が、である。
この話を書き記す前にまず私のことから説明しよう。私は田中次郎。トラックにはねられこの世界に転生して来た。私はこの世界に転生する際、神に出会った。神はこう言った。真実を突き止めてほしいとただそれだけ。そうして私は神から過去を見る力を授りこの地へと生まれ落ちた。
転生してから私はその神の言う真実とやらを探るために各地を放浪した。そしてあるところに行き着いた。カルエ遺跡だ。
カルエ遺跡、表向きは流行病で人々が全滅したとあるが実のところ違う。私はそこで過去を見た。
カルエの人々が死んだのは、魔法のせいだ。何者かが毒の魔法により、カルエの人々を全員殺してしまったのだ。
ではなぜカルエ遺跡の人々は殺されなければならなかったのか。それはカルエ遺跡の人々が真実の歴史を知っていたからに他ならない。
魔王討伐の際、我々の知る歴史では勇者と呼ばれる1人の人間が魔王を討伐したと、言われている。しかし、実際には違う。魔王を倒した英雄は複数人いる。
白き炎の剣を携えた女勇者コルナ、天の星を落とすことのできた魔法使いヴァルデ、神の道具さえ盗んだ盗賊ザルバ、全ての傷を治すことができた僧侶マリル、これが私が確認できた。英雄達である。
恐らくではあるがカルエの人々はこれらの記録を残そうとして、排除されたのだ。
この記録の何がいけなかったのか、それはわからない恐らく何か不都合なことがあるのだろう。彼女たち、コルナの話が残ってしまうと。
ここで話を元に戻そう。神の言う真実とは、つまり歴史のことではないかと私は考えている。私が神の言う真実を探し、カルエ遺跡にたどり着いたのは、多分神の導きなのだ。私はしばらくの間、この遺跡を調べる。そして万が一私が死んだ時のためにこの手記を残しておくことにする。恐らく私が死んだとしても第2、第3の転生者が私の後に続くだろう。そしてこの手記を読んでいるものよ、どうかこの真実を再び闇に隠されないように守ってほしい。これは神が私たちに与えた使命なのだ。背負わなけれならないものなのだ。真実を突き止めその真実がいつか意味を成すその日までこの真実を守り抜いてほしい。
そしてこの部分以降この手記からは大した情報が得られなくなった。なぜならこれ以降。過去を見る力は同じものしか見せなくなったそうだからだ。しかもカルエ遺跡以外のところに行こうにもどうやら田中次郎は途中で病で足を悪くし旅が続けられない状態になってしまったようだ。
念のためエイダは最後まで読んでみたが、やはり得られるものはカルエ遺跡の事以降なかったらしく、後のことは孫であるメルジーナに託すと書き記し手記は終わった。
エイダが読み終わるとメルジーナ先生は礼を言う。
「ありがとう、エイダさん。おじいちゃんもあなたに読まれて幸せだったと思うわ。同じ神の使者に読まれてね。」
「そう言っていただけると私も嬉しいです。」
メルジーナ先生の言葉には素直な感謝と賞賛が込められておりエイダはその言葉に少々照れながらそう返事をした。
しかし問題が残った。手記の内容である。
「この4人の勇者?聞いたことがないぜ。」
ドンキホーテが首をかしげる。
「先生は聞いたことがあるかい?」
「いやわしも聞いたことがないの」
ドンキホーテの問いにアレン先生は首を振る。
「どっちにしろこの話はヤベェ、ずっと信じてきた勇者の伝説を否定するものになりかねないかもな。なんせこの4人の勇者のことを残そうとしたカルエの人々は殺されたんだろ?信じたくないが明らかにソール国が関わってるんじゃねぇか?」
ドンキホーテは顔を曇らせながらそう言った。
「そうかもれんな勇者の伝説が疑われて一番困るのはソール国じゃ。」
そこでメルジーナ先生は何か思いついたの「あ!」と大きな声で言う。
「そういえば、火事が起きる前、私の手記が読めるかもしれないっていう人物が来たわ!」
「何!?先生、なぜそれを俺たちに言わない!」
ジンが怒る。
「ち、違うのよ、私ねおじいちゃんの遺言を守るためにあちこちでこの手記を読める人を探してたの。だから読めるかもしれないって話しかけてくる人はたくさんいたわ!言語学者とかね。まぁ解読できなかったんだけど。でも火事の前に会った人は少し様子が違ったの、おじいちゃんの手記をじっくり隅から隅まで読んで、「申し訳ないやはり読めない」って帰って行っちゃったの、でもその数日後私の家は火事に見舞われたわ。」
ドンキホーテはそこで気づくメルジーナ先生が何を言おうとしてるのかを。
「まさか火をつけた犯人は!カルエを滅ぼした者達と同じ組織の者ってことか?!」
感想や評価などいだけましたら幸甚です。




