男の能力は
エイダは片方しかない翼を盾にし、アレン先生をかばう。銀髪の男は忌々しそうな顔をして言う。
「邪魔をするな、エイダ!」
しかしエイダは反応を示さない、意識はどこかに行ってしまっている。彼女の虚ろな目には複雑な幾何学模様が浮かび上がっていた。
エイダはそのまま羽による殴打で男を跳ね除ける。
男は体制を立て直し、再び雷を腕に纏わせエイダと対峙する。
「聞く耳は持たないか…」
再び男の姿が消える。次の瞬間、エイダの胸が貫かれる。鮮血が滴り、地面は赤く染まった。しかしエイダは意識を失わない。いや意識はとうに失っているのだ。今エイダを動かしているのはエイダの無意識に潜む者である。エイダは羽で男を上空へと吹き飛ばす。
男は打ち上げられるが自身の翼で、バランスをすぐに取り戻しエイダを見下ろす。
(心臓を貫けば止まると聞いていたが。)
エイダが止まる気配はない、先ほどの傷はとうに塞がり血も垂れてはいなかった。エイダは止まるどころか戦う意思がまだあるようだ。彼女は背中の片方しかない翼を散らす。散らされた翼は光の粒子と化しさらには光る、無数の剣へと転じた。
その光の剣が一斉に男へと飛んでいく、しかし男の姿は一瞬にして消え、光る剣達は空中で互いにぶつかりあって爆発していく、そしてエイダは複数の打撃を同時に浴びた。
「貴様の意識が飛ぶまで、あと何発必要かな?」
いつのまにかエイダの背後にいた男は表情を変えず、エイダに殴りかかった。意識を一撃で奪えないのなら、奪えるまでダメージを与え続ければいい、なにも心配する必要はない自分の能力は無敵だ、故に周りを気にする必要もない。
それが銀髪の男が出した結論だった。
事実、男の能力を理解できているものはいない、目の前のエイダさえ神の使者の力を駆使しても防戦一方なのである。
今この瞬間この男を止められるものはいなかった。
(なぜだ…なぜ、攻撃をしかも打撃を同時に繰り出すことができたんだ?)
ドンキホーテは思い悩む。少し時は巻き戻り教会の屋根の上、ここでドンキホーテは身を隠していた。
どうにかしてアレン先生達と合流しなければいけない、しかし合流した後はどうする。あの化け物から逃げ切れるだろうか。
(無理だ…!)
ドンキホーテはそう感じた。ボスの、マリデの転送魔法は時間がかかりすぎる故に、逃走には適さないかと言って、足で逃げる?論外だ追いつかれてしまう。
倒すしかないそれしかないのだ、そうドンキホーテは結論に行き着いた時だった、遺跡から炎が吹き上がったのは、その紅蓮の炎は突如現れ遺跡の一部の地域を飲み込まん勢いで燃え上がる。幸運だったのはほとんどの遺跡が木造ではなく。石やレンガによってよって作られていたため、過剰に燃え広がらなかったのと、吹き出した炎が遺跡を一瞬、飲み込んだかと思いきや、吹き出した根元から炎が消え去ったいったことでそれ以上炎が吹き出し続けることはなかったため、遺跡に対するダメージは少なかったことである。
ドンキホーテはその様子を見た刹那、理解する。あれはアレン先生の魔法なのだと、急ぎドンキホーテは炎の根元へと走った。するとドンキホーテは金色の光を放つ無数の剣と、赤い光の片翼をその身に持つ男を、捉えた。男は空中に来る浮かび、迫り来る剣に顔色1つ変えず、佇んでいる。
剣が着弾する直前に男は消えた。剣は空中でお互いを弾き合い爆発する。
エイダが戦っているのだ。そうドンキホーテは捉え、急ぎ戦いの現場へと向かおうとした。
「やめるんだドンキホーテ」
そのドンキホーテの行動を阻止するものが一人、マリデだ。
「ボス…止めるな!」
「いま君が言ったところで、やられるだけだ。」
「それは、エイダも同じことだぜ…ボス…」
「だろうね、いまエイダ君は苦戦している。」
その言葉を聞いたからにはドンキホーテは黙っていられない。助けに行かねばならないのだ。
「だったら!」
「待つんだ、冷静になれドンキホーテ戦うなとは言ってない、あの銀髪君の能力がわからない以上僕たちは負ける。逃げることもできない。僕もさっきぶっ飛ばされたばっかりさ。相手の能力を見極めないと。」
「そんな時間ねぇだろ…あいつの前じゃ俺たちは只の止まったカカシだぜ!手も足もでねぇ!」
マリデはそのドンキホーテの言葉に引っかかりを覚える。
「ドンキホーテ今なんて?」
「あ?カカシだよカカシ!俺たちは手も足もでねぇって。」
「ドンキホーテ奴の能力は報告にあった神の使者のと同じような見た目をしているね。」
「ああ!そうだよさっきからなんだ!?」
「わかったかもしれないんだよ…彼の能力が…」
銀髪の男は歩く、戦闘の最中だというのに、ここは静かでいいなんて思いながら歩く、急ぐ必要はない。なにせ全てが静止しているのだから。雲も、鳥も、目の前にいるエイダでさえ、男は空中へと飛んだまま静止している、エイダの顔を殴る雷をまとって腕で。
しかしエイダにはなんの変化もない、そのまま胸、腹、足、腕、と他にも数カ所、打撃を入れる。
嗚呼、あと数秒といったところだろうか。この静けさが失われてしまうのは、最後に男はもう一撃エイダに叩き込む。次の瞬間、世界は音を取り戻す。静止していた全ての物体が動き出した。エイダは先ほど静止していた時に殴られた箇所の肌がめり込むまるで拳で殴られたかのように。エイダは吹き飛ばされる。
しかしまだエイダは意識、いや戦う意思があるようだ、再び立ち上がった。だが動きは鈍くなっているようにも見える。
「あと少しか?」
ならば駄目押しにと、男は再び全てが静止した世界を作り出す。これが銀髪の男の能力だった。
「やはりこの世界はいいな…静かだ…」
「へぇ…!あんたこんな世界、展開できんだな。」
全てが静止した世界で、マントがはためく音がした。
「なんだと…」
気づいた時にはもう遅い銀髪の男の腕は胴体から、別れを告げていた。
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