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二話 ライバル登場


「ここが私の家よ。道場も兼ねているの。今は一人だけど、今度父が帰ってくるの。父は白色の魔導士の中で一番強い『マスター』という称号持っているのよ」


 アカリの家は大きな日本家屋だった。


「それはすごいな。その魔法の色は何種類あるものなんだ?」

「大きく分けると九つよ。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七つと、白と黒を合わせて九つ。例えば赤は炎や熱、青は空や水とかの魔法が使えるわ。そして私や父さんが使う白は雪や紙、光の魔法を使えるの」

「なるほど、虹の七色に白と黒を足して九色か」


 この世界はいわゆる、RPG系のファンタジー世界とは少し違うみたいだ。ステータスの概念もないし、属性の概念も無い。異種族もいない。荷物を運ぶやけに大きな鳥や、人を乗せて駆ける虎などはいたけど。


「そう。私は白と赤のハーフだから、両方の魔法が使えるのよ。とは言っても、赤の魔法はうまく使えないのだけどね。器用貧乏なの」


 アカリは白と赤のハーフだからそれらが混ざったサクラ色の目をしているのか。


「無色ってのは無いんだな」

「そうね。普通はみんなどれか一つは必ず色を持っているわ。私も無色は初めて見たのよ」


 どの世界でもムショクは苦労するみたいだな。 


「そういえば、ここはどこなんだ?」

「ここは、オクト帝国のエリアホワイト。昔は色ごとに国が分かれていたのだけど、二百年前に一つの国に統合されたのよ。黒を除いてね」

「黒は征服できなかったってことか?」

「黒を持つ人はその魔力に心を支配されて悪の道に進んでしまうの。だから黒は敬遠されるのよ」


 やっぱり黒は悪役なのか。俺も何かとブラックな奴らに苦しめられてきたからな。黒に対しては良いイメージを持っていない。というか、目の色が無色でまだ助かったな。黒のまま転生してたら大変な目に遭う所だった。


「でも、今でも黒の国は帝国の民を襲うことがあるの。私たちレンジャーは黒の魔導士から民を守るために戦っているのよ」


 小さい頃はヒーローに憧れたりもしたっけな。悪者を倒して市民を守る正義の戦士。なれるもんならなってみたい。俺だって誰かの役に立ってみたいし、感謝の一つも言われたい。


「かっこいいな。魔法を使えない俺にはなれないだろうけど」

「そうかしら? 剣術の稽古は自分の身を守るためにも使えるし、無色のレンジャーなんて、きっと有名になるわ」

「確かに職を得たい俺にとっては魅惑的な誘いではあるんだけど……」

 

 魔法も使えずにレンジャーなんかになれるのか? でも、せっかく人生再スタートできたのに、夢を目の前にして諦めるってのも違うか。


「……わかった。無色だから弱いって言われ続けるのも癪だしな。レンジャー、目指してみるよ」

「うん!」


「――魔法も使えない奴がレンジャーになるだって? 冗談も大概にしろよ。無色野郎」


 どこからともなく、男の声が聞こえた。気づくと一人の大柄な男が立っていた。彼も目は白色だが、髪は黒色だ。道場で稽古をしていたのだろうか。


「お前は?」

「無色、お前に名乗る名は無え。正直迷惑なんだよ。素性も知れない部外者がいきなり村の中に入ってきて、アカリとも仲良くしやがって。その上レンジャーになるだって? 魔法の使えない無能には無理だ。支度が済んだらとっととこの村を出ていきやがれ」

 

 男は部外者である俺に怒っているようだ。


「ちょっと、コタロウ。言いすぎよ」


 アカリが咎める。男はコタロウという名前らしい。彼女は俺の代わりに彼に怒ってくれているみたいだが、ブラック企業にいた俺からすれば、この程度の罵声など小鳥のさえずりのようなものだ。言うなれば『理不尽耐性』。それが俺が元の世界から持ち出すことのできた唯一の能力だろう。


「いいんだ。確かに俺は部外者だ。なあコタロウ、どうしたら俺を認めてくれる?」

「認めるだと? 生意気な口きくじゃねえか。だが、そうだな……一週間後に決闘をしようぜ。それで俺に勝てたらレンジャー試験を受けることを認めてやるよ。試験まであと一週間と少しだしな」

「分かった。それまでに強くなってやるよ」


 コタロウは俺を鼻で笑って去っていった。


「トオル、ほんとに大丈夫? コタロウはレンジャーなのよ?」


 アカリが心配する。


「せっかくアカリとレンジャーになるって約束したんだ。一度結んだ約束は守らないと。それに……」

「それに?」

「まずは職を手に入れて、無職を脱出したいからね」


 気取ったことを言ってみたものの、結局はこれに尽きる。無色で無職という不名誉を挽回するためにも、俺はレンジャーにならなければ。せっかくの二度目の人生だ。今度は悔いの無いように生きたい。

 アカリはそんな俺がおかしかったのか、手で顔を隠しながら笑みを溢す。


「分かったわ。私も気合を入れて稽古させてもらうわね」


 彼女は真っすぐ俺を見つめた。

 そうして、俺のレンジャー試験のための稽古が始まった。


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