表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
融合世界  作者: らる鳥
9/94

第三領域と先駆者『ファーストプレイヤー:イオ・アガリス』8


 集まった人員は幾つかの注意点を確認され、木壁沿いに幾つも設けられた物見櫓に手分けして登る。

 まあ注意点と言っても然程難しい事は何も無い。

 町に近づくアンデッドを見付けたらすぐさま物見櫓に備え付けた鐘を鳴らし、駆け付けた警備隊員の指示を仰ぐとか、万一命を落とした場合は報酬が出ないから無理はするなとかって話だ。

 当たり前と言えば当たり前の事なのだけれど、こうやって確認をしておけば、いざアンデッドを発見して慌てたとしても注意を思い出せる可能性が上がる。


 一つの物見櫓に付き二名ずつ配置されているようだが、私が組んだのはこの仕事を幾度もこなしたと言うベテランの傭兵だった。

 恐らく、否、多分間違いなく、この仕事を初めて受けた私をフォローする為に配置されたのだろう。

 夜なので辺りは既に大分と暗いが、物見櫓に設置された篝火と、星と月の光の御蔭で、切り開かれた町の周囲位は見渡せる。

 動く物があったとしても、見落とす事はない筈だ。


 ベーデと名乗ったベテラン傭兵は、私の緊張を解そうとしているのかしきりに話し掛けて来た。

 夜は長く、途中で警備隊員が交代で休憩を回しに来てくれるとは言え、ずっと緊張し通しでは後半が辛くなると気遣ってくれているらしい。

 私は有り難くその気持ちを受け取り、防壁の外を見張りながらもお喋りに付き合う。

 幸い、私は経験こそ乏しいが、依頼人の御蔭で知識だけは持っている。

 適度に話を合わせる事位は出来るし、ベーデもベテランの傭兵だけあって話題は実に豊富だった。



 例えばコフィーナの町が警戒するアンデッドの多くは、旧都と呼ばれる場所から流れて来ている事や、この国に関して等々。

 コフィーナの町を治めているのは貴族に仕える代官なんだとか。

 代官を派遣したここら一帯を統治する貴族は、コフィーナから南に行った場所にある大きな町、ガーデナにいるらしい。

 そしてガーデナから馬車で五日ほど移動すれば、この国、グリフィード王国の首都へと辿り着くと言う。

 と言っても、傭兵やハンターの仕事はコフィーナの様に兵の足りない小さめの町の方が豊富にあるそうだ。


 他にも重要な話題としては、アンデッドに関しても詳しい話を教えて貰えた。

 何でも、どうやらこの領域のアンデッドは、私のイメージするゾンビやスケルトン等とは大きく異なる存在らしい。

 身体は死後硬直で硬く、肌も土気色をしているが、別に肉が腐り落ちる等と言う事はなく、不完全ながらに知能も残しているそうだ。

 しかし墓を守る神が全ての人をアンデッドにしてしまおうとした影響で、アンデッド達は生きた人を自らと同じアンデッドとする為に襲って来る。

 そして曲がりなりにも一度は死んだ存在なので、多少の傷を負った程度では痛みも感じず、動きも鈍らない。

 動きこそは生前よりも僅かに鈍るが、力に関しては圧倒的に増しているとの話だった。


 だがアンデッドには明確な弱点が幾つかあり、一つは当然、昼間の活動が出来ない事だ。

 これは昼の神がアンデッドの存在を拒絶したからだが、意外な事に、後二つの弱点に関しては、実は関係するのは夜の神である。

 後二つのアンデッドの弱点は、火と魔術。

 そう、夜の神が、闇夜に怯える人を哀れみ、脅威を打ち払う為に与えた二つの力だった。


 アンデッドは火や魔術を用いた攻撃には大きなダメージを受ける他、火の熱が届く場所には近寄れない。

 なので万一、旧都からコフィーナの町では処理が不可能な規模のアンデッドがやって来た場合は、盛大に火を焚いてアンデッドの足を止め、その間にガーデナの町に救援を求めるのだと言う。



 まぁ何と言うか、思いの外為になる話が聞けてしまった。

 もしかしなくても、この話を聞けた事の方が、仕事の報酬よりも大きな利益である。

 この領域のアンデッドは、確実に他の領域のアンデッドとは大きく異なる存在だろう。

 つまりそれはこの領域と、他の領域との大きな差異だった。

 勿論結論は他の領域に赴き、その地のアンデッドを調べてからになるが、本来の目的である差異の発見がこんなにも早く出来た事は間違いなく僥倖だ。


 意図した行為ではないだろうが、ベーデには一つ借りが出来てしまった。

 何らかの形でこの借りは返さなければならないだろう。

 傭兵が相手なのだから酒を奢るとか出来れば手っ取り早いのだけれど、残念ながら私は飲酒の経験がないから、それは少し難しい。

 出来れば働きで返せれば一番なのだが……と、そう考えた時だった。


 防壁の外の遠い場所、視界の端、暗闇に紛れて、何かが動く。

「ベーデ、あそこ!」

 地を這うように姿勢を低く、コフィーナの町に忍び寄ろうとするのは、間違いなく複数の人影だ。

 私の指差す先を見たベーデは、舌打ち一つして迷わず鐘を鳴らした。

 カランカランと、乾いた音が夜闇に響き渡る。


「イオ、正解だ。火矢の準備をしろ!」

 鐘の音に静かだった町中が少し騒めく。

 ガシャガシャと、鎧兜を身に纏った警備隊員が駆け寄ってくる音がする。

 だが鐘の音を聞いたのは、寝ていた町の住民や警備隊員ばかりじゃない。

 ソロソロとコフィーナの町に近寄って来て居たアンデッド達も、自分達の接近がばれた事を知り、立ち上がってこちらに向かって駆け出した。

 あぁ、うん、ゾンビの類にはあり得ない行動で、あり得ない足の早さだ。


 私とベーデは油の浸みた布の撒かれた矢を篝火に突っ込んで火を移す。

 それを見た物見櫓の下まで駆けて来て居た警備隊員は、

「射ってくれ! 町にアンデッドを近づけさせるな!」

 そんな風に叫ぶ。

 ちらりと横目で見れば、ベーデも一つ頷いたので、私はタイミングを彼に合わせ、狙いを定めて同時に放つ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ