第三領域と先駆者『ファーストプレイヤー:イオ・アガリス』7
「リザルト」
三日目の夜でなく四日目の朝に、私はリザルトを行った。
理由は至極単純で、昨日は弓の練習をし過ぎたせいか、とても眠気が酷かったのだ。
私はまだまだ自分の身体を把握し切れておらず、取った行動が思わぬ結果を招いてしまう。
だがまぁそれはさて置き、リザルトの結果だが、
『封印された邪神の情報を入手:達成★
アンデッドの脅威の情報を入手:達成
社会の仕組みを知る(ハンター):達成
三つの目標を達成しました
重要な情報の入手が含まれています
階位の上昇が発生します
階位2→3
階位の上昇により能力値のランク上昇が可能です
階位の上昇によりスキルのランク上昇が可能です
能力値を一つお選びください
スキルを一つお選びください
またこの操作は後程ステイタス確認でも実行が可能です』
無事に階位が上がりました。
どうやら教会で聞いた話は、私が思った以上に依頼人にとって大事な情報だったらしい。
アンデッドの脅威が然程重要視されないのは、世界の壁が取り払われて領域間の行き来が行われる様になれば、アンデッドを何とかする方法は幾つも入って来るからだろう。
つまりアンデッドはその地に住まう人々にとっての脅威ではあっても、世界を揺るがす脅威ではないと言う事だ。
封印された邪神は、仮に目覚めたならば何を仕出かすかわからない。
それに神々や人々が、一部の邪神に対しては好意的であると言う事も、割と問題の根が深い様に感じる。
まあ私が関われる話じゃないと言うのは結論が出てるので、今更それに頭を悩ませはしないけれども。
名称:イオ・アガリス
年齢:15(0)
階位:2→3
主職:狩人 副職:なし
筋力:E→D 頑健:E 敏捷:D 知力:E 魔力:E
弓:D 短剣:E→D 罠:E 気配察知:E 動植物知識:E 野外追跡:E
番犬の加護:EX(1→2)
今晩の仕事に備え、勿体ぶらずに割り振りは行う。
これでこの身体は戦闘に関しては、一流に近い性能を備える事になった。
尤も身体を動かす私が足りて無いので、本当の意味では一流には程遠いのだろうが、それでも周囲の足を引っ張らない程度には動けると思う。
筋力を上げず、更なる敏捷への割り振りも考慮したが、より身体を動かすのが難しくなる事は目に見えていたので、今回は自重する。
そう、今晩は遂に、町に入った時から言われていた夜間警備の仕事に出る心算だ。
なので午前中は上げた筋力に慣れる為に室内で少し身体を動かし、午後は夜に備えて昼寝をしよう。
宿の娘に頼んで置けば、時間が来れば起こしてくれる。
勿論、銅貨一枚のチップは支払うけれども。
ついでにこれまでの支出を纏めておこう
初日は門を通るのに銅貨一枚、七日分の宿代で銅貨三十五枚、夕食分と湯、それにチップで銅貨四枚。
二日目は情報料として宿の娘に銅貨一枚、三食分と湯で銅貨五枚、運んで貰ったチップに銅貨一枚。
三日目は教会への喜捨に銀貨一枚、三食分と湯、チップで銅貨六枚、洗濯を頼んだので銅貨二枚を使った。
銅貨で数えれば七十五枚、銀貨を混ぜるならば、銀貨三枚と銅貨十五枚を消費した計算だ。
因みに夜間警備の報酬は一晩銅貨十五枚で、戦闘行為等があれば危険度や功績で報酬は上がり、少なくとも銀貨一枚以上は支払われると聞いている。
と言う事は何事もなかった場合は、夜間警備のみを仕事としたならば、あまり生活に余裕はなくなるだろう。
私もそろそろ塩スープ以外の食事を取りたいと思っているところだし。
訓練場を使わせて貰ったりもしたし、数日間は夜間警備を引き受けて町に貢献しようと思うが、その後は別の仕事にも手を出す必要がありそうだ。
私の目的はこの領域を、世界を巡る旅で、この町で生活基盤を築く事ではないのだから。
まずはお金と一緒に、他の町への護衛依頼を受けられる程度の信用を稼ごう。
宿の主人に何時もよりもランクを一つ上げた、銅貨二枚の食事を頼んだ所、大層驚かれてしまった。
どうやら一度や二度なら兎も角、三食ともに銅貨一枚の食事を頼み続ける者はあまり居ないそうで、宿の主人の中で私は粗食に耐える修行中の行者の様なイメージを持たれていたらしい。
私は多少返事に困ったが、それは誤解であると告げ、この宿に居る間に一番高い食事も頼んでみたいと思っていると伝える。
すると宿の主人は嬉し気に笑みを浮かべ、私の肩を叩いて頑張って稼げと応援してくれた。
……うん、まあ、私が安い食事しか頼まないのは、別に所持金の問題ではないのだが、気持ちは嬉しく思う。
因みに銅貨二枚の食事は、硬い黒パンと野菜くずの入った塩気の濃いスープで、やはり私には中々に刺激が強かった。
硬い固形物を噛み千切るのは面白いが、保存性を高める為に二度焼きをした黒パンは本当に硬い。
それに少し酸味もするが、しかしそれでもスープに浸せば少しは食べ易くふやけ、尚且つ酸味も程良いアクセントになる。
やはりこれも粗末な食事の部類に入るのだろうけれど、うん、それでも充分に楽しめた。
そして日が暮れた頃、昼食は取らずに仮眠していた私を、宿の娘が起こしに来る。
私は彼女に礼を言い、チップを渡して食事を運んでくれるように頼む。
そう言えば宿の娘は、顔を合わせれば向こうから用事はないかと訪ねて来てくれる様になった。
勿論チップが目当てな事はわかっているが、それでも少しは打ち解けて来た様にも思う。
動物を餌付けする時は、餌が目当てだとはわかっても、懐いてくれれば嬉しいものなのだ。
と、まあそれはさて置き、運んで貰った夕食を食べたなら、いよいよこの領域での初仕事の時間である。