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融合世界  作者: らる鳥
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第三領域と先駆者『ファーストプレイヤー:イオ・アガリス』3


 さて最初の歩き出しこそ色々と手間取ったが、一度動き出してしまえばこの身体は優秀だ。

 土の大地も、草むらも、グングンと進んでも然程疲れを感じない。

 大分とこの身体の扱いに慣れてきた感もあり、誤って転がった石ころを踏んでしまった時も、転倒せずにこらえれた。

 犬に教えられた方向に向かってまっすぐ二時間ほど歩けば、頑丈そうな柵と木壁に囲まれた、小さめの町が見えて来る。

 既に空は朱色に染まり始め、吹く風は徐々に冷たさを増す。


 どうやらギリギリのタイミングだったようだ。

「おい、そこの旅人。急げ、そろそろ門を閉める時間だ!」

 町の出入り口である門から、二人の武装した人間、恐らく門番であろう人物がこちらに向かって呼びかける。

 折角町を見付けたのに、外で野宿はしたくない。

 私は進む足を早め、門に向かって急ぐ。


「止まれ。そこから俺に向かって目を見せろ。よし、アンデッドじゃないな。旅人、口が利けるか? 喋れるなら名前と来訪の目的を告げろ」

 門へと辿り着いた私は、槍を構えた門番に次々と質問を浴びせかけられた。

 二人いる門番の一人は私に警戒をし、もう一人は私の更に後ろに対しての警戒を行っている風に感じる。

 先程、目を見て確認されたアンデッドに対しての警戒だろうか?

 町を囲む柵や壁は、私が襲われそうになった狼等の獣に備えるにしてはあまりにも過剰な防備だ。


「私はイオ。目的は、食事と宿。後、稼げそうなら少し稼いでおきたい」

 長期的な目的である領域巡りの旅の途中だなんて答えは怪しまれるだけだろうから、私は今欲する所を素直に告げる。

 そして私の返事に、どうやら門番は納得してくれたらしい。

 頷き、武器を下ろした彼は、

「そうか、町に入るには銅一枚を徴収している。払えるか? よし、確かに。仕事だが、どうやらお前はハンターの様だが、明日以降で良いから、夜間警備の仕事を引き受けて貰えると助かる。ここ最近、この辺りをうろつくアンデッドが増えていてな」

 色々と気になる言葉を吐く。

 銅貨は、短剣や弓、旅人用の服と同じく初期装備として貰った巾着袋の中から一枚支払った。

 残るは金色の、金貨が五枚と銀貨が五枚、銅貨は残り四枚だが、……貨幣の価値を知る事も必要だろう。


「仕事の受け付けは酒場付きの宿ならどこでも出来る。宿は門を潜って真っ直ぐの道を左手と、他にも数軒あるがどこも満室って事はないから好きに取れ。では旅人イオ、門を潜れ。コフィーナの町へようこそ」

 そう言って門番は、私に町の中に入る様に促す。

 そうして私は、初めての人里へと足を踏み入れる。




 町の中をうろつき回るよりも、まずは拠点となる場所を定めたかった私は、門番の言っていた門から一番近い宿に泊まると決めた。

 部屋に荷物を下ろした私は、宿の娘に部屋まで運んで貰った夕食に手を付ける。

 個室で一日銅貨五枚の宿賃を一週間分、つまり三十五枚分の銅貨を銀貨二枚で支払い、五枚の銅貨を釣り銭として返された私は、宿の娘から見て金を持ってる客に見えたのだろう。

 にもかかわらず一番安い、銅貨一枚分の食事を、下の酒場でなくわざわざ部屋で取ろうとする私に、宿の娘はほんの少しだけ首を傾げていた。

 とは言え、今から行う私の食事を見られたならば、きっと首を傾げる程度の不審さでは済まなかっただろうから仕方がない。


 そうそうどうやら、銀貨一枚は銅貨二十枚分の価値だと言う事はわかったが、金貨一枚が銀貨何枚分に相当するのかはまだわからないままである。

 安易に金貨を取り出して聞いたりして、妙な輩に目を付けられたくなかったのだ。


 銅貨一枚分の食事は、何の具も浮かない薄い塩スープと少量の麦かゆ。

 この食事が粗末な物なのか、それとも銅貨一枚で得た物にしては破格なのか、それは私に刷り込まれた知識では判断が付かない。

 ただ、今の私が求めていたのはこう言う食事である事は間違いが無かった。


「ふぐぅっ!?」

 木匙で救ったスープを口に運び、私は呻き声を上げる。

 予想はしていたけれど、予想以上にこれは激しい。

 生まれて初めて熱に口の中を蹂躙され、味に舌を殴打される感覚は、途轍もなく強烈だった。

 私は噛み締めるようにゆっくりと味わって、口の中のスープを飲み干す。


 しかし、いや、まだ食事は終わらない。

 スープはまだまだ残っているし、何より麦のかゆは、噛み締める様にではなく実際に噛んで食べるのだ。

 私は大きく息を吐き、心を決めてから匙でかゆを掬う。

 塩のスープと麦かゆでさえ、私の初めての食事はこのありさまである。

 もしも普通に、下の酒場で他の客が食べていた様な匂いのキツイあれらを口にしていたら、今頃一体どうなっていただろうか。

 仮にこの世界に降り立った時、あんな無様に転げると言う失敗をしていなかったら、私は或いは下の酒場で他の客に混じって普通の食事を注文して居たかも知れない。


 そして口に運んだ熱のこもった固形物の破壊力はすさまじく、

「ふぁっ!!!」

 思わず私はかゆを吐き出しそうになって、堪える。

 兎に角口の中が熱くて痛い。

 ほら、こんな様を他の誰かに見られたら、不審どころの騒ぎじゃなかっただろう。

 あぁ、でもせめて、水の一杯位は別で頼んでおくべきだった。


 そうして私は、ゆっくりと、本当にゆっくりと時間を掛けて食事を終える。

 恐らく、三日程は同じメニューで食べる訓練を続けた方が良いだろう。

 目標はこの宿に泊まる七日間で、下の酒場の普通のメニューを騒がず口に出来る様になる事だ。

 学習能力が高いと保証を受けた私なら、多分、きっと、大丈夫。




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