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融合世界  作者: らる鳥
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第三領域と先駆者『ファーストプレイヤー:イオ・アガリス』1


 ふわりと、その世界、その領域に飛ばされた私は自らの二本の足で地を踏み締めて、しかし上手く力が入らずにそのままずるりと崩れ落ちて、荷物袋を放り出して転がる。

 旅の第一歩としては随分と締まらないが、恐らく私が自分の足で立つのは物凄く久しぶりの筈なので仕方がないと言えば仕方がない。

 ……以前の私が魚類や粘菌等の足の無い生き物にばかり輪廻していた場合は別だが、多分、きっと、そんな事は無いだろう。

 まあ大事なのは今の私だ。

 覚えていない過去は兎も角、今の私は全てが初めてなのだから、多少の無様も許される。


 口に入った土の味や、顔に付いた汚れの不快感すらも初めての経験なので新鮮な感動を覚えるが、されどずっとこのまま地を舐めている訳にも行かない。

 まず私は自分の右手の人差し指に集中し、力を込めた。

 二度、三度は力を入れてもピクピクと引き攣るだけだったが、やがてゆっくりと指先が曲がる。

 よし、関節運動の成功だ。

 何だか指先が痛いのは、恐らく曲げるのに必要な量よりもずっと多くの力を込めているからだろう。


 私は身体を動かす事は初めてだったが、それでもどうしたら良いかと言う知識は詰め込まれている。

 更にこの身体には、或いは私の魂自体も、並外れた学習速度を与えていると依頼主は言っていた。

 だからこそ数度の試行錯誤で指を動かす事が出来たのだ。

 指を動かしたなら次は拳を握り、そして開く。

 力を込め過ぎない様、軽く、ゆっくりと。


 その次は手首、またその次は肘、曲げて伸ばして。

 そうやって暫く色々模索してから、私はごろりと転がった。

 地を舐めてた顔が上を向く。

 あぁ、随分と楽な姿勢が取れた。

 どうやら与えられたこの身体の性能は随分と良いらしい。

 今はまだ立つ事への挑戦は厳しいにしても、この調子なら、そう、一時間程もがけば立って歩けたりもするだろう。


 まあそれまで私が生き延びれたらの話だが。

 上を向いた事で頑張って首を動かせば四方が見渡せるようになったのだが、どうやら私を遠巻きに取り囲んでいる連中が居るようだ。

 あぁ、いや、連中と言う言葉を使ったが、相手は人間じゃない。

 相手が人間ならば言葉が通じただろうから、交渉も可能だったと思うのだが、残念な事に相手は狼の群れだった。

 いや、もしかしたら野犬の群れなのかも知れないが、私を餌として見ているならどの道大差はないだろう。

 

 うぅん、幾ら今の私にとっては全てが真新しく感じられるとは言っても、流石に生きながら貪り喰われるのは痛みのハードルが高そうだ。

 それに折角色々と調整した身体を与え、わざわざ比較的危険度の低い領域を選んで飛ばしてくれた依頼主にも申し訳がない。

 複数の領域を見て回って比較するどころか、最初の一歩も歩かずにゲームオーバーでは、彼も酷い赤字だろう。

 対話した印象では温和な変わり者だったので、意外と腹を抱えて笑って許してくれそうな気もするけれど、最初からそれを期待して生を諦めるのも間違っている。

 故に私は、こんな状態ではあっても出来るだけの抵抗を試みる事にした。



「ステイタス確認」

 私は狼達がこちらを窺って襲い掛かって来ない隙に、大急ぎでその言葉を口にする。


 名称:イオ・アガリス

 年齢:15(0)

 階位:1

 主職:狩人 副職:なし


 筋力:E 頑健:E 敏捷:E 知力:E 魔力:E


 弓:E 短剣:E 罠:E 気配察知:E 動植物知識:E 野外追跡:E


 番犬の加護:EX(1)


 すると視界の片隅に、こんな表記が浮かび上がった。

 勿論、別に私の目の病気と言う訳では無い。

 これはこの身体と私の魂に仕込まれた、依頼主が用意したシステムの一部だ。

 実にゲーム的な表記だが、実際に依頼主はゲームを参考にこのシステムを作ったと言う。


 肉体年齢は15歳で、魂の年齢は0歳。

 イオは私の心に浮かんだ響きを名とした物だが、アガリスと言う姓は依頼主に与えられた。

 何でも他の悪しき者に目を付けられた際、安易に魂を奪われる事を防ぐ為に姓で力を与えて縛るんだとか。

 私が死んだり、或いは世界の旅を諦めた場合、後任もアガリスの姓を受け継ぐそうだ。

 或いは私が死んだり諦めたりしなくても、別の地域を探索する者が派遣される事もあるだろう。


 後はそう、筋力だの何だのが能力値で、弓や短剣は所持スキルだが、E~Aまでのランクがあり、Eは最低値である。

 尤もEでも一人前と呼べる、平均よりも少し優れた程度の実力を示すらしい。

 それ以下ならば無表記との事だった。

 つまり私は一人前の狩人を名乗るに十分な実力を持っており、尚且つ階位を上げれば能力値もスキルも上昇、或いは新たに習得出来るのだから将来は有望である。

 因みにこのシステムは依頼人が用意した物なので、今の所は私専用であり、この領域や、他の領域の人々には適用されない。

 要するに大分と優遇されている事を示す物でもあった。


 ……が、幾ら優遇されたシステムを備えた肉体だろうと、使いこなせなければあまり意味はないだろう。

 この肉体は一人前に弓を扱える性能を備えるが、そもそも立ち上がれすらしない私に弓が引ける筈がない。

 練習さえすればそのうち肉体の備えた性能を発揮出来る様になるだろうが、今すぐには不可能だ。


 なのでそう、私がこの場を切り抜ける為には、唯一何とかしてくれそうな希望、加護に頼らざるを得なかった。

「番犬の加護。召喚、強い犬」

 どうやら私が無力である事を察したらしく、警戒を止めて飛び掛かって来ようとする狼達を前に、私はそんな言葉を口走る。

 別に加護の発動に言葉は要らないのだが、まぁ少しばかり慌ててしまったから。



 番犬の加護は、名前を決めたり職を選んだ後、最後にどれにするかと問われた物で、他にも幾つかの選択肢があった。

 例えば一日一回使用が出来て十分間透明になった上、透明時以外も身を隠す行為に良い補正を得られる妖精の加護や、魔術師の職を選ばずとも魔術の習得に補正を得られる大魔術師の加護等々。

 そんな中で番犬の加護は、動物の調教に補正が得られる他、一度だけ番犬を召喚出来ると言う、あまり字面からは心惹かれない物だった。

 けれども依頼主は、召喚は階位が上がれば再び使用出来るし、或いはその際に別の加護を選んでも良いからと、最初だけは番犬の加護を選択する事を強く勧めて来たのだ。


 依頼主と私の関係を考えれば、依頼主が私を騙す事にメリットは全く無い。

 だからこそ私は素直に勧めに従い、番犬の加護を選んだのだが……。

 召喚によって現れた番犬は、飛び掛かって来る狼達に比べれば小さく頼りない中型犬だった。



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