第三領域と先駆者『ファーストプレイヤー:イオ・アガリス』17
コンポジットボウ、複合弓と呼ばれる種類の弓がある。
これは複数の素材を複合させて作製された弓の事だ。
木材、動物の角や骨、金属等、異なる性質の素材を張り合わせる事で、射程と破壊力を大きく向上させているらしい。
似た名前にコンパウンドボウと言う物があるが、これは凄く乱暴な言い方をすれば滑車やらケーブルやらの、機械的な要素が加わった複合弓である。
因みに単一の素材で創られた弓は、これ等のややこしい弓と比較して単弓と言う分類になるが、まあ普通に弓と呼べば良いと思う。
さて私が武器屋を訪れた目的は、このコンポジットボウが欲しかったからだ。
コフィーナの町は決して豊かな町ではないが、アンデッドの襲撃が度々ある為、戦いに食い扶持を求める傭兵やらハンターやらが集まって来る場所だった。
つまり以南の、ここより比較的平和な町よりも、武器の需要はとても高い。
需要があれば、そこに供給して利を得るのが商人と言う生き物で、多分それは多くの世界で同じである。
勿論ミルノーシェ領域でもそれは変わらず、コフィーナの町には質が高く、種類も豊富な武器が集まる事で知られているそうだ。
……にもかかわらず、コンポジットボウは武器屋に売られていなかった。
武器屋の主人に聞いた所、不思議そうな顔で、
「うーん、ドワーフの連中ならそんな妙な物も造ってるかも知れねえが、生憎とこの国はドワーフの国と交易がないからな。すまん、わからん」
と首を傾げて謝られてしまった。
成る程、些か厳しい。
割と頑張って説明したのだが、妙な物と言ったイメージを抱かれる辺り、少なくとも一般的に知られた物ではなさそうである。
或いは、ミルノーシェ領域にはまだコンポジットボウ自体が存在しない可能性もあるだろう。
そうであるなら無理を言っても仕方がなかった。
どうしても、それでも射程や威力が欲しければ、特殊な素材を使うか、或いは大型化するしかない。
弓に適した素材と言うのは、単に強ければ良いって物でもないのだ。
金属等の反発力の強い素材は、折れ易かったり、全くしならなかったりすると言う。
だからって反発力の弱い素材は、威力を出すのに不向きである。
とまぁ、そんな素材の悩みを解決する為、良いとこどりを望んだ末が複合弓の筈だった。
つまり単一素材の弓で複合弓並の物を求めるのは、割と無茶な要求なのだ。
重くなく、軽く引けて良くしなり、なのに凄い威力の矢が放てる弓、なんて物はきっと魔法か何かの産物だと思う。
弓の大型化に関しても、取り回しが悪くなるだけなら良いのだが、もっと切実な問題として身体の大きさと言うか、腕の長さの問題がある。
人間の身体の構造上、どうしても腕の長さと後少し程度しか弓の弦を引けない。
私の身体は腕力はそれなりにあるけれど、背は高くないし腕も長くないから、あまり大きな弓を買った所で使いこなせはしないだろう。
今所持してる弓は、私の身体に合わせた大きさの、謂わばオーダーメイドされた弓だ。
なので普通に考えれば、余程の名工の作とかではない限り、私にとってこの弓以上の物が売ってる筈もなかった。
……あぁ、私は一体、この店に何をしに来たのだろうか。
折角なので短剣も見てみる事にしたが、武器屋の主人に今持ってる短剣を見せた所、滅茶苦茶に怒られた。
どうやらこの短剣もかなりの名品の様で、この店にはこれ以上の品なんてないそうだが、怒られたのはそこじゃない。
武器屋の主人が怒ったのは、私が全く短剣の手入れをして居ない事に関してだ。
だってまあ、短剣をまともに使ったのは一昨日が初めてで、それまでは新品同然だったのだから仕方ないと思う。
だが流石にガルム虎を刺殺して毛皮を剥いだ後、そのまま鞘に納めて放置したのは確かに私が悪かった気はする。
けれども武器屋の主人はただ私を叱っただけでなく、およそ十分程度の説教の後、溜息を吐きながら目の前で短剣の手入れをやって見せてくれた。
それから短剣は折角の名品なのだから、解体は別に専用のナイフを、山歩きの藪払いには鉈を使えと売り付けられもしたけれど。
でもその二本を素直に買えば、刃物を手入れする砥石と油、ついでに布切れをサービスで付けてもくれた。
解体用のナイフは銀貨八枚、鉈は銀貨十五枚の値段だったが、決して悪い買い物ではなかったと思う。
しかし二日間の休みの間に、随分と金を使ってしまった。
懐の余裕はまだあるが、収入よりも支出の方が遥かに多い状況は、あまり良い事ではない。
勿論購入した物は残るから資産が減った訳ではないが、それでも明日からはまた、気合を入れて稼ぐとしよう。




