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融合世界  作者: らる鳥
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第三領域と先駆者『ファーストプレイヤー:イオ・アガリス』14


 私の顔を汚した返り血を、懐から取り出した布切れで拭う。

 短剣をガルム虎に突き込んだ瞬間、中から弾ける様に飛び出したどす黒い血。

 下手に目や口に入って変な病気を貰っても嫌だ。

 思ったほどに大量の血が噴出しなかったのは、恐らく刃を突き込んだだけで切り裂かなかったからだろう。


 確か心臓が動いてる状態で動脈を切れば、心臓が動く圧力で血が噴き出すとかだった筈。

 罠等で生かして捕らえた獲物はそうやって心臓の圧力を利用して血を抜き、狩る際に息の根を止めてしまった獲物は吊るして重力を利用して血を抜くんだったか。

 と言っても私に虎の肉を食べる気はないので、今回はその辺りを気にする必要はない。

 ただ討伐の証拠として毛皮を剥ぐ必要はあるのだが、さてどうするべきか。


 ……と、そんな風に考えた時だった。

 何故か、わかる。

 最初にどこへ刃を入れれば良いのか。

 どんな風に力を入れれば毛皮を傷付けずに剥げるのか。

 知らない筈なのに、感覚としてわかるのだ。


 恐らく動植物知識のスキル効果だろうけれど、少し気持ち悪い。

 とても有用で助かるのだけれど、何故このスキルだけこんなにシステムなのだろう。

 あぁ、否、弓や短剣を扱う際に、然程経験を積んでる訳でも無いのに感覚を掴めたのと同じなのか。

 まぁ、ならば納得して慣れるしかない。

 私の技術は真っ当な経験を積んで得たのではなく、依頼人に与えられたシステムに支えられた物だから。


 どうやら動植物知識は対象を鑑定するだけでなく、採取や解体も兼ね備えたスキルの様だった。

 うん、知識があるからそれ等が出来るって理屈なのだろう。 

 便利である事に文句はない。



 無事にガルム虎の毛皮を剥ぎ終わった私は、布で手を拭って脂や血汚れを落とした後、大急ぎで木こり達の作業場に向かう。

 本当ならば毛皮以外のガルム虎の骸を処理すべきなのだが、残念な事にその手段がない。

 他の獣を招き寄せない様、深く埋める為の道具や、或いは焼いてしまえる何かがあれば良かったのだが、それ等は単なる見回りで済めば不要な荷物だ。

 故に私に出来るのは、木こり達に毛皮を見せて説明し、人手を虎の骸の場所まで案内する事だろう。


 速足で歩き始めてから、私は自分の喉の渇きに気付く。

 ガルム虎との戦いやその後の解体作業は、どうやら私を随分と緊張させていたらしい。

 現場を離れて漸く、少し余裕が出て来て、喉の渇きに気付けたのだ。

 

 アンデッドとの戦いは、アレも確かに戦闘だったけれども、危険の少ない高所からの弓を用いた駆除だった。

 相手は死人で、私は高所から弓を放っただけ。

 命のやり取りじゃなく、単なる外敵の駆除。

 でも今日のガルム虎との戦いは、私にとって命懸けの死闘だ。


 他人から見れば、ガルム虎も害獣として駆除されただけだろう。

 アンデッドもガルム虎も、人に害を成す相手と言う括りでは変わらない。

 だけどそれでも、寧ろそれで良かった。

 私だけの意味が違えば、それで充分過ぎる。


 とても立派な毛皮だから、この虎の毛皮を欲しがる人もきっと多かろう。

 それは誇らしくはあるけれど、だからって私は譲らない。

 私にとっての最初の獲物、最初に命を奪った相手。

 その証は、捧げるべきところに捧げよう。




 木こり達の作業場に辿り着いた私は、彼等に大変な驚きを以って迎えられた。

 太陽は真上を既に過ぎており、本来の仕事時間が終わっても戻らない私を、木こり達は少し心配していたらしい。

 初仕事だから、林の中で迷ってしまったのではないだろうかと。 

 そちらの心配かと思わず苦笑いを浮かべた私は、ガルム虎の毛皮を見せ、遅くなった理由を説明する。

 するとまぁ、実に大仰に感謝をされた。

 日々肉体労働に従事する木こり達は実に屈強な男衆だが、それでも虎と戦える程の強者はおらず、もしも襲われていたなら多大な犠牲が出ただろうと。

 そして他の獣が寄り付く前にガルム虎の骸を処理したいと案内を請われたので、元よりその心算だった私は当然それを了承した。


 私はガルム虎から毛皮しか剥がなかったが、牙も細工物の材料として重宝されるからと、骸の処理に携わった木こり達から渡される。

 成る程、牙の細工物位なら旅の邪魔にもならないだろうから、町に戻ったら細工師を探すのも良いかも知れない。


 最後に支払われた報酬は、銀貨が二枚。

「君の働きに報いる額としては少ないが、これが与えられた予算の上限精一杯なんだ。すまない」

 としきりに頭を下げる木こり達のリーダーだったが、私に不満は全くなかった。

 彼の言葉に嘘は感じず、本当にそれが出せるギリギリなのだろうし、そもそも当初予定していた報酬の六倍以上だ。

 林を何度も往復した為、仕事の終了時間はとっくに過ぎてしまったが、それでも夜間警備に比べれば労働時間はずっと少ない。

 命の危険さえ考えなければ、割りの良い仕事だったと笑って言える。


 それにその命の危険も、私が自分から望んで立ち向かったのだ。

 得る物は、充分以上に既に得た。



 木こり達と別れて町へと戻る帰り道。

 思わず口から欠伸が零れる。

 私はどうやら、随分と疲れているらしい。

 そう言えば、次に大きな収入があった時は、宿の娘に焼き菓子の店に案内して貰う約束をしていた。

 銀貨二枚は充分にそれに相当する額だろう。


 まぁ今日はもう眠いから、また後日の話だが。


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