王城とあの人
王城とあの人
馬車に揺られること二日。
王都に到着した。
「二日も馬車に揺られては魚が傷んでしまいますね。」
「ならどうしろというのだ?」
「村を出る段階で内臓を抜き取り開きの状態で風通しよく運ぶ。馬車で揺られている間に干物が出来上がります。後は生きたまま途中まで運ぶと言う方法、冬場は生のまま運べるかもしれませんが夏はきついですね。」
「冷やせばなんとかなるのか?」
さすが王子様、話が早いとサフィは思う。
「日数が立つと生では食べられませんが火を通してなら食せます。」
王都に入ってからそんな話をしている間に城の前までたどり着いた。
大きな城は小高い丘の上にあるようで城を背にすると町を見渡せる。
「大きな町、沢山の人がいるのね。」
「王都だから当然だ。」
レナードが城に入って行くのに付いて行く。
「バトラー」
「お帰りなさいませレナード様、アーノルド様。」
全身真っ黒な服を着込んだ男性が現れた。
「この娘が今日から使用人になる。教育を頼むぞ。」
「宜しくお願い致します。バトラー様、サフィと申します。」
お辞儀をすると
「……まさか…」
「はい?」
バトラーの様子が少し変わった。
サフィはバトラーを見つめると
「いえ、失礼いたしました。フィリップ。」
バトラーが呼ぶとまた違う人物が駆け足で近寄ってきた。
「王子の荷物を運んでください。」
「かしこまりました。」
馬車から大きなバッグがいくつも出てくる。
「サフィさんはこちらへ」
「はい。」
先に王子二人が城に入って行くのを見送りサフィも城に入った。
メイド服に着替えバトラーに身なりの確認をされる。
「エプロンの紐はもっときれいに結んでください。後、袖は二回折って下さい。」
「はい。」
やけに長いと思っていた袖は折る為だったのかと、余計なシワが出来ない様に折っていく。
「それではまず、城の中を案内いたします。」
「宜しくお願いします。」
そう言って歩き出すバトラーだが、一切サフィの目は見ない。
それが少々気に食わないサフィだが、仕事を覚える事が優先である。
「まず始めに、使用人は表では無くこちらの裏口を使って城に出入りして下さい。」
「かしこまりました。」
「裏口は厨房横にあります。こちらです。」
厨房を案内され、次に近くの倉庫を見て回る。
そこに
「バトラー様、その方は?」
まだ小さな少年が駆け寄ってきた。
「ああ、コナーでしたか。この方はサフィさん。本日から…一体何の為に王子に連れられてきたんです?」
そう言えばその話をしていなかったと思い出す。
「王都では食べる機会の少ない魚など魚介類を私がいたコロンの村から輸送する話はご存知ですか?」
「ええ、そのことなら」
「魚の料理法や、有毒の判断等の知識がある為村から同行して来ました。普段は他の使用人さんと変わらない生活を、料理の試作の時や調理の時に厨房に入ってもらう様に、と、言われています。」
「そうですか。」
バトラーは少し考える表情をしてから
「メイドとしての使用人の仕事で得意な物を伺っておきましょう。仕事は一つずつ覚えて頂くとして、最重要な事は知識な様ですし」
そう言われると今度はサフィが悩んだ顔をする。
「申し訳ありません。私、実は五年以上前の記憶がなく、身の回りのことも自分一人ではできない状態だったんです。漁以外の得意なものはあまりなくて……」
「そう、ですか。では、こちらで簡単なものをお教えします。」
バトラーの表情がさらに影を見せた様に感じた。
その後、洗濯や掃除等教えてもらうも呑み込みの悪いサフィ。
そこで
「僕と一緒に庭園の面倒を見るのはどうでしょう?」
コナーか提案する。
「そうですね。それでしたらサフィさんでも出来るでしょう。」
「庭園ですか?」
階段で一階まで降り、裏口を出る。
中庭と言っても城の裏に大きな四角いガラス張りの建物があった。
「これは?」
「これが庭園です。暖炉で冬でも暖かくしているので綺麗な花が年中咲いているんです。それを切って、城の中に飾るのが僕の仕事です。」
「二人も必要な仕事ですか?」
そう聞くとバトラーもコナーも黙ってしまった。
結局、庭園での仕事は考え直す事になり、城に戻った。
「サフィ」
「レナード王子?」
何故か王子がこんな使用人しか通らないだろう所に来ていた。
「魚の輸送について話がある。」
「かしこまりました。」
バトラーやコナーと別れ、レナードの部屋に入る。
「紅茶を入れてくれ。」
「かしこまりました。」
サフィにも唯一出来る事と言えば飲食関係だろう。
これはお祖母ちゃんに叩き込まれた。
「お待たせいたしました。」
「ああ。それで、城での仕事は決まったのか?」
「いえ、これと言ってはまだ。私、元は何も出来ない人間でしたので」
「記憶がないと言うのも厄介だな。戦争を忘れたくても忘れられない者も多いと聞くが」
紅茶を口に運ぶレナード。特に何も言わないという事な美味しく入れられているのだろう。
「それで、輸送方法ですが、どうなされるんですか?」
「冷やせばよいと言ったな。ならば氷を使おう。」
「氷なんてすぐに溶けてしまいますよ?」
コロン村の洞窟には真夏でも全く解けない氷がある。
その氷のせいで山が形をかえているのではないかと言う話が出るぐらいで、山からの湧き水が絶えず出ているため氷も増え続けている。
「村と王都の間にももう一つ氷の出来る洞窟がある。夏場はそれを利用しようと思う。」
村以外にもあったのかと思い、それなら、
「砕かず、固まりの形ででしたら溶けるのも遅いですし、それに出来るだけ白い物でくるめば」
「白?」
サフィはつい、口から出るも、何故白が良いのかは思い出せない。
「失礼しました。今のは忘れて下さい。」
そういうと微妙な視線を送られる。
「早いうちに計画を立てる。村への見返りだが金は要らないと言う話だったな。」
ジェリーがそう言ったのだろう。
「村では硬貨は使っていないのです。主に物々交換で生活していますので」
「なるほど、二回目以降は必要な物を聞いて置くと、いう手があるが、一回目はどうする?」
「村に不足している物でしたら嫌悪されないのでは?」
王子に向かってはっきりというサフィにレナードは微笑む。
「その不足している物を上げて置け、それと、お前は俺付きのメイドになれ。」
「はい?」
何度も瞬きするサフィを面白そうな顔で見てくるレナードだった。
朝早く、バトラーに言われレナードを起こしに寝室に入る。
バトラーもレナード付きの使用人だったらしい。
いつもはバトラーが起こしに行くらしいがレナードの命令で仕事の一部をサフィがする事になった。
「失礼します。お目覚めでしょうかレナード様」
「ああ、起きてる…」
バトラー曰く、アーノルドのメイドにならなくてよかったらしい。
とても温厚そうな人ではあるがそれは外面的な所、先ほど
「ギャー‼」
という声が隣の部屋から聞こえ、心配になりレナードを起こす前に覗いたところ
「ただの人形だよ。フィリップは本当にからかい甲斐があるね。」
血だらけの人形はベッドにうつ伏せで倒れていた。
ものすごくいたずら好きなようだ。
レナードの着替えを用意し、バトラーから預かった紙を開く。
「本日のご予定をお伝えします。」
伝えるべき事がセリフのようにしっかりと書いてある紙で助かるサフィ。
「午前中は執務室でお仕事、午後からはコロン村からの輸送手段についての話し合い後、乗馬等の運動をして頂きます。その後夕食となりましてカラム様のお勉強を見てもらうお時間で、就寝となります。」
「カラムの予定はキャンセルだ。乗馬も無しにしてその分輸送の話を伸ばす。」
「かしこまりました。」
レナードの部屋にバトラーは朝食を運んで来る。
「失礼いたします。」
バトラーと共にレナードの部屋を出て、廊下を行く。
「レナード様が予定を変更なされたいそうです。」
「想定の範囲内です。カラム様のお勉強を見る時間でしょう。」
「はい。あと、乗馬の時間を無くして、魚の輸送手段の話し合いをのばされるそうです。」
「では、大臣たちに伝えて来ましょう。サフィさんも朝食を済ませて来て下さい。レナード様は一時間後に下げに向かってください。」
「かしこまりました。」
バトラーは早足で城の階段を下って行く。
「でも、朝食は先に頂いちゃったんだよな。どうしよう…」
早起きが癖になっているため城の時間区切りのスケジュールに身体を慣らさないといけない。
それに、城では朝食、夕食の他に昼食がある事を初めて知ったサフィは村でのことを思い出し、やってしまったと後悔していた。
「確かにお腹空くけど、お昼にまでご飯を取る必要あるのかな?」
「あ、おはよう、サフィさん」
ぶつぶつ呟きながら使用人用の階段を下りていると下から声をかけられた。
「おはよう。コナーは朝食終わった?」
「僕の朝は兄さんと違って忙しくないからね。サフィさんはこれから?」
「ううん。私ももう済ませてあるの。朝一でシェフに美味しい物を頂いちゃったわ。」
「なら、庭園に行こう。レナード様とアーノルド様お部屋に新しい花を用意しなくっちゃ」
「いいわよ。」
朝食を下げに行くまでの間、コナーの手伝いをする事になった。
庭園は朝の寒さ等感じさせないぐらい暖かかった。
「一晩中薪を焚いているの?」
「うん。僕はここで寝起きしているからね。兄さんも」
「そう言えばさっきもお兄さんがいるって言っていたけど一緒に働いているの?」
「もちろん。僕が寝ちゃって薪を足し忘れちゃったときは兄さんが変わりにやってくれるんだ。アーノルド様のお世話をしているんだよ。」
と、言う事はフィリップがコナーの兄のようだ。
まだ話はしたことのないサフィだが、凄くお人よしなんだろうな。
と、勝手に思っている。
暖炉の灰をバケツに入れ、それを運び出す。
この灰は白と黒に分けられ、黒い灰を草木の栄養に使っているとコナーが教えてくれる。
「じゃあ、残った白い灰は?」
「これは石鹸を作るのに使うんだよ。」
「石鹸?」
サフィにはなじみのない単語が出てきた。
「これだよ。」
そう言って見せられたのはドロドロした液体。
「何に使うの?」
「身体や髪を洗ったり、洗濯に使ったり、サフィさんの村では使って無いの?」
「身体を洗うのは灰と塩を混ぜたものだったわ。髪は水洗いだったし、洗濯は灰を使っていたからこんな液体使わなかったわ。」
「そうなんだ。便利だよ。よく汚れも落ちるし」
コナーは石鹸も作っているらしい。
花を何輪か切り、花瓶に飾って行く。
それを持ってレナードの寝室に入る。
「失礼いたします。」
「ああ、花か。」
目から上しか、レナードには見えていないだろうサフィの顔。
コナーにもっと豪華なものが良いと言われ試行錯誤した結果とてもボリュームのある物が出来上がった。
「寝室ですので匂いのきつくない物をお持ちいたしました。」
「女はそう言った気配りが出来るから助かるな。」
「コナーに伝えておきます。」
部屋を出ていくレナード。
ワゴンに食器を乗せ、シーツを回収する。
ワゴンを厨房へ、シーツを洗濯場へおきに行くと、リネン室に寄り、新しいシーツを取る。
それを寝室のベッドにセットしていると
「お疲れ様、貴方が新入りさんね。」
「はい。サフィと申します。」
「あたしはロゼ。こっちがニーナよ。」
「宜しく。」
「宜しくお願いします。」
二人の女性が入って来た。
「あたしたちはこの部屋の掃除係りね。シーツもあたしたちがやるから回収だけで良いわよ。」
「かしこまりました。」
人の領域を侵す事は減らさなくてはならない。
サフィはすぐに部屋を出た。
レナードの執務室にはバトラー以外使用人は入れない。
サフィは再び暇になる為、昼まで時間をつぶす予定を考える。
そして
「魚を入れる物を考えよう。」
と、言う事で城の倉庫に入る。
「なんか埃っぽい。掃除してないな。」
ろうそくに火をつけ、鏡の前に置く。
すると動き回るぐらいは明るくなる。
「この辺って使っていない物かな?」
「そうだぞ。」
いきなりの声に肩が跳ねる。
「ごめん、ごめん。驚かせた?」
「い、いえ、大丈夫です。」
悪い事をしていたわけではないが怒られるのかとびくつく。
「サフィさん何しているの?」
ろうそくの明かりのせいでドアの向こうは逆光となってしまいよく見えていないサフィだが、自分を呼ぶ声に聞きおぼえがあった。
「コナー?」
「そうだよ。どうしたの。こんなつかっていないものを入れている倉庫で」
ろうそくを手に持った二人の顔がやっと見えるようになった。
「フィリップさんか。ビックリした。」
「やっぱり驚いたんじゃないか。で、何してんだ?」
「魚を運ぶのに適したものは無いかと思いまして」
細かい所は適当に、何をしようとしていたのかだけを伝える。
「氷を入れるのか。なら断熱の物が良いな。」
「そうですね。木製で二重の箱にしたり、金属を内側に張り付けたり、解けた水を排水できるようにしていけば氷が解けるのを遅らせられるかもしれませんがこれと言っていい方法が浮かばないんですよね。」
「一度運ばせてみないとな。」
「そうですね。」
ひとまず、箱を取り出し二重の箱と普通の箱、金属の箱とで、どれだけ解けるのに違いが出るのか実験する事になる。
「厨房から氷貰ってきましたよ。」
「よくあのシェフがくれたな。」
フィリップに感心されるサフィ。
「え、あの人優しいじゃないですか。」
と、言いながら氷を置いて行く。
数分間、じっと見ていると
「鉄の箱は早いんだね。」
「木材はどっちも同じぐらいか。」
「二重にする意味はなさそうですね。」
三人して実験結果に感心してしまった。
昼食を早く取り、サフィは午後の会議の準備をフィリップと行う。
「フィリップさんって、アーノルド様の使用人なんですよね?」
「ん、ああ。一様な。バトラーさんみたいに四六時中一緒じゃないが、朝と夜は身の回りの世話をするように言われる。」
「面倒臭くありません。朝とか」
「聞いてたのか。」
「はい。隣なので」
フィリップは少し恥ずかし気な顔を見せる。
「嫌じゃないんですか?」
「嫌では無いが、面倒ではある。もともと、俺らのお袋がここでメイドをしていてな。親父が戦死してからはローウェル家にお袋やコナーの病気の治療費を肩代わりしてもらって恩がある。文句は言えねえよ。」
「病気?」
「お袋もコナーも喘息なんだ。だから、庭園の暖かい部屋で寝かせてもらっているんだよ。お袋は病院な。」
名前のプレートを並べながらここまで深く聞いてしまっていいのかと反省する。
「だから、これから寒くなってコナーに何かあったらすぐに医者を呼んでやってくれ。」
「分かりました。目を配っておきます。」
昼食を終えたレナードやアーノルド、そして大臣だろう人物たちが入ってくる。
「それでは、魚の輸送についての話し合いを始める。サフィ。」
「はい?」
しょっぱなでいきなり名前を呼ばれ驚いていると手招きをされる。
「なんでしょうか?」
「ここにいろ。」
それだけだった。
その後、話し合いは進められていく。
話は輸送された魚をどう保存するかという話から始まるも、
「その前に輸送手段の会議じゃなかったの?」
「そうだな。」
ぼそっと呟いたのがレナードの耳に入ったらしい。
「その話は後だ。まず、コロン村から二日かかる道のり、どうやって運ぶかだ。それについてサフィ、言う事はあるだろ。」
「私ですか?」
この場で発言できる地位ではないのは重々承知のサフィだが、レナードが見つめてくる。
その為ため息と深呼吸をする。
「まず始めに、コロン村から少し離れた場所に年中湧き水が凍った洞窟があります。そこには山が変動してしまうほどの氷があります。魚は長時間常温では保存できない為この氷を使い、冷やしながら運ぶことをお勧めします。魚は村人に内臓と頭を切り落とさせておき、水洗いさせておきます。」
「その理由は?」
アーノルドが聞いてくる。
「干物にする場合は塩水や海水に漬けておくことで魚から早く水分を抜く事が出来ます。逆に、輸送中に魚から水分が抜けてしまうと味が悪くなってしまうんです。内臓や頭を切り落とすのは早く腐るのを防ぐため、動物もそうですが、動物以上に魚は傷みやすいんです。」
「なるほど。」
アーノルドが納得した顔をする。
「続けます。問題として、コロン村には金物が不足しています。氷を切り出す手段がありません。そこで、村に一番初めに行く際はそう言った金物を持って行ってもらえますと助かります。このことに関しましては帰路の途中にある氷を追加する地点でも同様の事が言えるでしょう。すぐに確認をお願いします。」
「バトラー」
「かしこまりました。」
レナードの命令でバトラーが部屋を出ていった。
「輸送時の荷台ですが、木製の箱に氷を入れまして、その上に魚、さらにその上に氷と、挟む形にすれば痛むのを遅らせる事が出来ます。氷を足す時の事を考え、荷台は二台用意します。コロン村から中間まで、そこから王都まで運ばせます。そうすれば水となった氷を捨てる時間を短縮できます。荷台を乾かし、長持ちさせることも出来ます。」
「なるほどな。」
レナードがメモを取りながら話を聞いている。
「質問なんですが、城では夏場でも氷はありますか?」
「一応な。近くの山の氷河を切り取ったり、後は冬場に出来た湖の氷を保存している。」
「では、城での保存は大丈夫でしょう。次に、この方法を使わずに運ぶ方法です。」
「そんなのあるの?」
アーノルド以外は嫌悪の視線を向けるだけで話なんて聞いていない。
「干物にする方法です。先ほども申しましたが、村側で内臓を取ってもらう際に、開きの状態にして海水に小一時間ほど漬け込んでおくんです。それを輸送していう間に風通し良くしていれば自然と干物、保存食が出来上がります。生で食べられる期間は短いのでこういったもので魚を食べられても良いのではないでしょうか。後はすでに調理された状態、塩漬け、燻製、焼き物、茹でもの等で運べば氷の量は減らせます。暑い日などはこういった方法が良いのではないでしょうか。」
「そうだな。色々と手段を提供してくれて助かる。連れて来てよかった。」
「ありがとうございます。」
誉められた事が嬉しいと言うよりも安心する。
「それでは、輸送後の話だが」
そう言うと全く話を聞いていなかった大臣たちが座りなおす。
「調理に関してもサフィに聞くようにシェフには言ってある。余った物の保存も任せよう。それから―――」
話し合いは続き、サフィは城の中の話となると加わる理由は無い。
フィリップの隣に戻り、会議を聞いている。
気が付けば室内が暗くなってきた。
「失礼いたします。」
フィリップは壁のつまみを回すとカチッという音と共にシャンデリアに明かりが灯る。
「凄い。」
「ここのつまみを回すと天井まで伸びているワイヤーが引っ張られて火花が出るんだ。シャンデリアにはろうそくが付いているからそれに火がついて他のろうそくにも移って行くんだ。」
「なるほど」
部屋の隅でシャンデリアをじっと見ているサフィを睨みつけている視線がある事に本人も気が付いているが先ほどの話し合いでの嫌悪の視線と同じだろうとサフィは無視した。
それから数日。
荷車が完成した。
中継地点では乗車する兵士が説明し、村にはお祖父さんの所の三人の息子がいるため詳しい事をサフィが手紙にし、兵士に持たせた。
荷台は二段重ねで作られた。
上段は干物を作るために、下段は氷が入れられるように出来ている。
「約一週間と言ったところだな。」
「次回からは決まった日取りに向かうことにして今回は村に数日滞在する事になりますね。」
紅茶を入れながら話をする。
「明日から三日間、港へ行って来る。その間は暇をやる。自由にしてろ。街も見てないだろ。」
「ありがとうございます。港と言うと他国との貿易ですか?」
「ああ、海の向こうにさらに国がいくつもある事が分かった。そこの技術を輸入する話を取り付けたんだ。」
「技術の輸入ですか?」
パッとしない話だ。
「その国は我が国や今亡きハルモニア王国には無かった技術を持っていた。それをこの国から出る宝石との交換で話を付けた。」
「文化の違う国でも、綺麗な物に目が無い所は一緒なんですね。」
「そうだな。」
レナードがクスッと笑った。
カバンに荷物を詰め、バトラーに渡す。
「今回はバトラー様も向かわれるんですね。」
「アーノルド様がお風邪で行けなくなりましたし、もともと、私はレナード様について動くのが仕事ですから」
前夜のうちに馬車に荷物を積んでおく。
朝早く、レナードとバトラーは城を後にし、朝から仕事のないサフィは暇を貰ったとは言え外は雨。
フィリップの手伝いをする事になった。
「助かる。コナーも体調悪くてな。」
「ではアーノルド様は見ていますのでコナーの様子を見に行ってあげて下さい。」
「ありがとう。すぐ戻る。」
そう言ってゆっくりとドアを閉めていった。
アーノルドの汗を拭き、水を変える。
「…ん、あれ?」
「アーノルド様、お気分はどうですか?」
目が覚めたアーノルドに水を渡す。
その様子は目の前にいたのがフィリップで無い事に眉尻を下げている。
「汗かいたな。着替えよう。」
「用意いたします。」
クローゼットを開けると
「キャッ!」
「あ、ごめん。フィリップの為に仕掛けていたんだ。そのフィリップは?」
「はい。コナーも体調を崩していると言う事で様子を見に言っています。すぐに戻ってきますよ。」
「そっか。」
クローゼットから出てきたよくわからない物をよけて着替えを取る。
出てきたものを戻してドアを閉めた。
「背中を拭いてくれるかな?」
「かしこまりました。」
汗をかいた背中を拭き、腕や胸も拭いて行く。
「兄さんにもこういう事する?」
「いえ、朝に身体を拭く事はなされないようですから」
「なんだ。つまらない。」
そう言うと咳を出すアーノルド。
服を着せて寝かせる。
「何か食べられますか?」
「そうだな。食べやすい物を頼むよ。」
「では、リゾットをお持ちいたします。」
「宜しく。」
部屋を出て厨房に向かう。
その途中、
「サフィ、アーノルド様は?」
「先ほど起きられてリゾットならお召し上がりになられると言う話だったので今から厨房に」
フィリップがコナーの所から戻ってきたところだった。
「そうか。コナーはもう大丈夫そうだから」
「では、アーノルド様にリゾットを運びましたら予定通りお暇を取らせて頂きます。」
フィリップにお辞儀をして廊下を進む。
厨房に顔を出し、
「シェフ、今いいですか?」
「どうしたんだいサフィちゃん?」
朝食の時間は終わり、昼食までまだ時間がある。
シェフは献立を考えているところだった。
「アーノルド様に、食べやすいリゾットを作ってもらえませんか?」
「風邪だ言ってたもんな。じゃあ、芯は無い方が消化に良いだろう。」
「そうですね。卵を入れれば栄養が取れますし、少し咳も出るようですしショウガや身体を温めるネギを入れてもらえますか?」
「それじゃあ、リゾットって言うよりおかゆの方がよさそうだな。」
「おかゆですか?」
サフィには聞きおぼえのない物だった。
「牛乳じゃなくて水で煮込んで、塩で味を付けただけの食い物だ。薬味って言ってシソや梅干しとかと一緒に食べる物だな。」
「ちょっと食べてみたいですね。」
「じゃあ、昼飯に食えばいい、大目に作るからコナーにも持って行ってやれ」
「ありがとうございます。」
出来るまでに少し時間がかかると言う事でコナーの様子を見に行く。
温室の窓ガラスは結露をしていてなかの様子が解り難い。
「コナー?」
「サフィさん?」
意外と元気そうな声が戻ってきた。
「体調はどう?」
「もうよくなった。心配かけちゃった?」
「そうね。でも、元気なら良かったわ。後でシェフがおかゆ作ってくれているから持ってくるわね。」
「ありがとう。」
暖炉で牛乳を温め蜂蜜を入れてコナーに渡す。
「今は元気でも、今日は一日安静にしておくのよ。」
「分かった。兄さんにも言われてるしここにいるよ。」
コナーの頭を撫で、庭園を出た。
厨房でシェフと話をして、出来上がったおかゆをアーノルドへ持っていく。
「失礼します。」
「悪かったな。」
「リゾットでは無く、おかゆになりました。」
「シェフの判断だ。間違っちゃいないだろう。」
「コナーにも届けてきますね。」
「助かるよ。」
そう言ってすぐに部屋をでた。
コナーにも届け、使用人用の食堂で食事をとる。
「そのまま食べたら味気ないけど、薬味を入れると美味しいわね。」
「だろ。俺の故郷の味だ。」
「素材の味が良く分っている国なんですね。」
そんな話をしながら食べていると
「お前がスパイだな!」
「拘束しろ!」
と、いきなり兵が入ってくる。
「なんの事⁉」
「捕まえろ!」
拘束されそうになり、とっさに身体をひねり、抜け出す。
「逃げるぞ!」
「当たり前でしょ!」
食堂から出て、廊下に出るも、兵の多さに抵抗できず、捕まった。
誤字報告ありがとうございます!
あと、評価もしていただきありがとうごさいます!!
流行りに乗った物ではないのですが良かったらほかの作品もよろしくお願いします。