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私のかえられなかった世界  作者: くるねこ
2/5

小さな港町の娘

  小さな港町の娘



 ローウェル大国の片隅にある小さな村コロン。

ここは戦争の被害は全くなく、平和は漁港であった。


 そこに一人、漁師の老夫婦と共に船に乗り、漁の手伝いをする少女サフィがいる。

この子は五年前、海岸に打ち上げられた戦争孤児だ。


 長き戦争で家族、恋人、友人を失った者が多く川や海に身を投げた。

サフィもその一人で、運がいいのか悪いのか、記憶を無くし、コロン村の海岸に打ち上げられたのだ。


 「サフィ、市場までお願いね。」

「分かった。全部売り切ってくるよ!」


まだ朝早い時間。

漁から戻ったサフィは老夫婦に変わり市場で魚を売るため荷車を押して進む。


 「お、サフィ。今日も大量だな。」

「うん。でも売りつくさないと意味ないからね。」


道行く人とそんな話をしながら市場を目指す。


 この国通貨は一ローウェル。

国の名前と同じだ。だが、こういった王都から離れた町では未だにぶつぶつ交換が主流だ。


「新鮮な肉とその魚でどうだ。」

「オッケー。海藻のおまけ付きね。」


市場に入りテントを広げる。

するとすぐに客が集まってくる。


「朝採れの野菜だ。何と交換してくれる?」

「これでどう?」

「こりゃいい魚だな!」


食材と食材が交換されていく。


 三時間ほどたつと朝の市場は活気がなくなる。


「今日はこんなものかな。余った物は干物だな。」


テントを片付け荷車を引いて帰る。


 「ただいま。」

「お帰り、どうだった。」

「少し余ったけどこんなに貰ったよ!」


荷車には山の様に野菜や肉が乗っている。


「干物を作って飯にするか。」

「うん!」


網を直しながらいう老父と包丁を渡してくれる老母。

この二人が漁の帰りにサフィを見つけ、これまでの五年間育ててくれた人だ。


 魚を開きにし、木の棒で閉じない様に止める。

そしてしっぽを紐で縛ってつるしていく。


「サフィもここにきて五年たつけど、何か思い出した事はないのかい?」

「うん…ごめんね。

素性も解らない人間、いつまでも置いておくの大変でしょ?」


困った顔をサフィは向ける。

自分なら見ず知らずの人間を三日と泊めたくはないだろう。

戦争で多くの兵が戦いの中で川や海に落とされた。

残党かもしれないと思ってしまうのが普通ではないか考えてしまう。


「そんな事無いよ。

ここは戦場にならなかったけど、徴兵されていった男たちも、帰ってこなかった者は沢山いる。

そういうところにお前みたいな優しい子が着てくれてあたしは嬉しいよ。

戦場の女神なんていなければ戦争がこんなに長くなることもなかった。」


老夫婦は息子が三人いる。

みな、戦争で亡くなった様で帰ってこなかったらしい。


「そうだね。戦争なんてもう二度と起きないといいね。」


ぼやけた失った記憶の中で唯一記憶に残っていたのは血に染まった荒野に立つ自分の姿しかないサフィ。

老夫婦は戦場となった村の娘だろうと話していた。


 干物も作り終わり、食事も終わり、すぐに漁へ出る事になった。

夕方の市場に出す物を取りに行くのだ。


「サフィ、今日は潜れるか?」

「ちょっと寒いけど大丈夫。どうしたの?」


家を出た瞬間話しかけてきた老父に、答える。


「三日後にローウェル王の息子が視察に来るらしい。

その食事で出す物を考えるから何か良い物を取って来てくれないかってジェリーに言われたんだ。」


ジェリーとは村唯一の宿で料理をふるまっている人物だ。

村長本人でもある。


「わかった。貝とか海老とかその辺で良いのかな?」

「そんなもんだろ。」


 海に潜ると、この時期は遊ぶ人間がいない為かすぐに獲物を見つける事が出来た。

暑い時期になると子供たちが遊びで潜り取って帰る事も多い。


「網頂戴!」


水面に顔を出し、網を受け取るとすぐに潜りだす。

そして上がって来た時に手に持っていたのは


「見て、タコ!」

「でっかいな!」


老父と笑い声が出てしまう。


 その後も貝を拾ったり海藻を取ったりして漁を続ける。


 岸に上がり、服を脱いで絞る。

そこに


「うわっ!」


「ん?」


聞きおぼえのある声にサフィは岩に隠れている頭を見つける。


「フロスト、何してるの?」

「それはこっちのセリフだ。お前、なんていう恰好しているんだ!」

「だって、水びだしで帰れないでしょ?」

「だからってな!」


顔を赤くするフロストは村で唯一徴兵されなかった男の子だ。

髪が長い事から女の子と間違われることも多い。


 「フロスト、ちょうどいい。これを親父さんのところに持って行ってくれ。」


フロストは村長ジェリーの息子だ。


「ああ、王子様の歓迎で出す料理の試作をするって言っていたな。でも、何でこんな辺鄙な所に来るんだろうな?」


サフィよりも細い腕で木製の籠を持つと辛そうな顔に変わる。


「王都は山に囲まれた所にあるから魚を食べる機会が少ないのよ。王都から一番近い港は大型の船が行き来するから漁はやりにくいし、次に近いここが選ばれたって所じゃないの?」


服を着ながらいうサフィ。


「サフィは何でも解るんだな。実は何処かのお姫様だったり」

「こんなガサツな?」


笑ってしまう。






 夕方の市場は朝と違って酒を売る姿もある。

そのためテーブルとイスが置かれその場で飲んでいる者も多い。


「サフィ、その魚コレと交換で焼いてくれ」

「いいよ。でも、これは生で食べた方が美味しいわよ。」

「じゃあ、そうするか!」


酒が入るとよく笑う大人たち。

ここにいる人達のほとんどが戦場から戻ってきた人達だ。



 「お待たせ」

「おお、ありがとう。サフィも飲んでくか?」

「あたしは良いよ。お祖父ちゃんたち待ってるし」


余った魚を簡単に調理し、机に並べていく。


「それじゃあ、明日家まで何か届けてね。」

「了解だ!」


今この場で交換できる物を持っていない人もいる。

その為翌日何か交換品を持って来てもらうようになっている。

酒におぼれて忘れている人も多いのだが、生活出来るだけのものは貰っているため文句はない。




 翌日。


夜中の間に家の前に置いて行ってくれた人もいるようで引いてある小麦粉や布等、備蓄出来る物が玄関前に置かれていた。


「今日も大量ね。」

「本当、みんなよく飲むし、よく食べるもんね。」


そして今日も漁に出るのだ。


 サフィの生活の中心は食糧の調達と保存食を作る事。

魚や貰った野菜、肉を干物にするのだ。

寒くなると漁に出るのは一日一回。

日の出が遅くなり、日の入りが早くなるからだ。

それに老夫婦の体力的な問題もある。


「そろそろ塩窯の掃除をしなくっちゃね。」

「あ、そうだった。あたししてくるよ。」


その為、冬は塩を作って生計を立てている。

冬場に仕事がなくなる人は多く、若い人で作業しているこの塩は良質で王国に献上されてもいる。

とても手間のかかるものだが大事な収入源なのだ。


 海小屋にしまってある塩釜を取り出し、井戸水で洗う。


「手がかじかんできたな。早く終わらせよう。」


隣ではもくもくと作業をする老父は何も言わないが、その指はサフィ以上に赤く、青白い。

段々と寒くなって行く気候。

日が高い時間でも天候によっては気温が上がらず寒い一日の事も多い。

空に厚みのある雲が広がっている。


「こりゃ、明日は雨だね。漁は出来るかな?」

「朝ならなんとかなるか?」

「どうだろうね。」


一日出来ないぐらいでは問題ないが何日も続くと辛い。

嵐が来ない事を願うしかないのだ。



 翌日、サフィの予報は当たり、朝方から冷たい霧雨が続いていた。


「どうする?」

「明日の事もある。少しだけ漁に出ようか。」

「あたし一人で行こうか?」

「危ないわよ。」


藁で出来た雨除けのコートを着込んでいるが古いため少しだけ水がしみてくる。


「海の方が暖かいから今日はあたし一人で潜ってくるよ。荒れては無いみたいだし」

「気を付けるんだよ。」

「分かってる。」


そう言って服のまま海に入って行くサフィ。




 海中は少し濁っていたものの漁に支障は無く、網いっぱいに銛で突いた魚や、貝、タコ、そういったものを詰めて岸に上がる。

すると雨は本降りとなっていた。


「お前…」

「え?」


村では聞いた事のない人物の声に視線を向けると明らかに高貴な人だろう服装の男性が立っていた。


「サフィ」


そこに老父の声がする。

老父の隣にはこれまた身なりのいい男性が三人いた。


「お祖父ちゃん。この人は?」

「明日は嵐になるらしくてな。一日早く来られたそうだ。王国のレナード王子とアーノルド王子だ。」


これはまずいタイミングだったと


「申し訳ございません。失礼いたしました大公様」


 「ずいぶんと丁寧な言葉を使うんだな。本当に平民か?」


髪から水を滴られながら身体に張り付くスカートを持ち上げお辞儀をする。


「この子は記憶なくこの海岸に打ち上げられていた子でして、産まれも育ちも解らないのですがとても丁寧で美しい言葉を使う娘です。」


村長がいう。


「…そうか。そのようには見えながな。」


ずぶぬれの姿なのだ。

仕方がない。


「申し訳ありませんがこのままの姿ではお目汚しでしょうから、着替えて来ても?」

「ああ、かまわん。」

「失礼します。」


いそいそと海岸を進み、やじうまの集まるところまで行く。


 「おい!」


多くの村の娘が集まる中、違和感なくフロストがいた。


「あ、居たんだ。これ、持って行って」


網をそのまま渡し、サフィは家まで急いで戻った。


 「はっくしゅんっ!」

「お湯が沸いてるわ。浴びていらっしゃい。」

「はあい…」


鼻水をすすりながらヤカン片手に水場に向かう。

ヤカンのお湯を大きな桶にだし、それに水を足して温度を調節する。


「ああ、あったかい…。海から上がってきた人間を雨の中、しかもこんな寒い時期に呼び止めないでよね。お祖父ちゃんもお祖父ちゃんよ。」


頭からお湯を何度もかぶり、海水を落とす。


「はい、お湯。」

「ありがとう。」


海水の混ざるお湯を捨て、桶に再びお湯と水を入れる。


「お祖父さんがどうかしたの?」

「え、ああ」


独り言を聞かれていたようだ。


「海上がって直ぐにね。王子様と出くわしちゃって、立ち話になったんだけど寒くって、適当に謝って帰ってきた。」

「そう。お祖父さん、王子様を見るのは初めてでお前のことまで気が回らなかったんだね。」

「そうだろうね。」


身体を塩と灰で洗い、上がる。


 着替え、髪を乾かしていると


「ただいま」

「お帰りなさい。あんた、サフィを風邪ひかせるつもりかい?」

「すまん、すまん。ついな。それよりばあさん!」


テンション高くいう老父は自分の背後に隠していた三人を家に入れる。

そこには先ほど海で見かけた三人がいた。


「あんたたち!」


サフィは悟った。


三人が家に入るなり涙を流す老母。

この三人が息子なのだろう。


「帰って来るの遅くなってごめんな。」

「母ちゃんも老けたな!」


サフィの知らないこの家の本来の形があった。


 「この視察を期に、帰って来るそうだ!」

「そうかい、そうかい。」


涙が止まらない様子に、サフィは髪もそこそこ乾いたと、藁の傘を持って家を出た。




 得にやる事は無く、フロストの手伝いでもしに行こうと宿を目指すも、そこには沢山の、先ほど海岸に居た村の娘たちがいた。


「何これ?」

「サフィ、あんたさっき大公様と話していただろ!」

「サフィ⁉」

「サフィずるい!」


一人に気が付かれると次々とずるいだの、羨ましいだの言われるようになる。


「海から上がったら偶然いたんだって!」


 「騒がしいな。」


宿の中から声がする。

するとドアが開き、先ほどの王子様ら二人が出てきた。


「お前、先ほどの娘だな。」

「え、あ、はい。そうですが…」

「来い」

「え⁉」


問答無用と言う様子で宿の中に引きずり込まれた。


 「この魚について説明しろ。」

「あ、はい…」


机の上には先ほどサフィが取ってきたものが並んでいた。


「まず、左端から、この魚はこのあたりでは―――」



 説明を初めて数十分。


「―――最後に、これも貝で岩場に張り付いているものです。内臓に毒を持っている可能性があるので食べるのは身の部分だけです。」

「身と言うと?」


貝から身を剥がして見せる。


「内臓はこの黒っぽい物と赤い部分です。この部分が身になりまして、食べる事の出来る部分です。これら貝等は水を交換しながらであれば数日間の輸送には問題ありません。ここにはありませんが砂に潜る種類の貝もいまして、それは呑み込んでいる砂を吐きださせるために数時間以上水に付けて置く必要があります。」

「見分けが付くのは?」

「知識があれば、ですが王都の方で解る方はいらっしゃるんですか?」


聞くと第二王子アーノルドが悩む顔をする。


「やはり、あの三人を村に返すのは先延ばしにした方が良いかもしれないな。」

「そうだな。この村の産まれなら知識はあるだろうからな。」

「それは…」


三人とは老夫婦の息子たちの事だろう。

せっかく戻ってきたと喜んでいるのに、今更連れ帰らされては困る。


「どうかしたのか?」

「あ、あの、三人の事をずっと待っていた老夫婦がいます。もう、歳も歳ですし、家に三人とも帰っているこの状況で引き離されるのはちょっと…」

「はっきり言え」


第一王子レナードに強い口調で言われるため、サフィは一度深呼吸をしてから


「失礼な事を申し上げますが、戦争が終わってからこれまで連絡の一本もない状態で待ち続けていた老夫婦の元からやっと帰ってきた息子たちを取り上げるのは人としてどうかと思います。知識が欲しいのならば出稼ぎに行ける人間を村から探すなど、方法がいくつもあるはずです。にもかかわらず三人を連れ帰ろうと言うのは非道じゃありませんか?」


村長が冷や汗を流しているのが目の端で解る。

流石に言い過ぎたのではないかと思うが、これも老夫婦の為だ。


「いいだろう。」


レナードはそういった。

「だが、」


「お前以上の知識を持つ者に限る。それに、城につかえるんだ。それなりに身なりのいい娘にしろ。」

「娘、ですか…」


サフィの記憶に海に詳しい娘は皆結婚して居たり、未だ幼かったりする。

そもそも戦争末期の頃は産んだ子供が徴兵されるのが嫌で、村以外でも、国内全体で出生率は低い。

なおかつ、やはり男性は徴兵されるしなったため村にいるのは女性と戦力外の老人などだけだ。


「ここに滞在する間の残り三日以内に見つけろ。」

「……かしこまりました。」


サフィはすぐに宿を出ようとするも、


「待て!」


フロストに止められた。


「厨房入ってくれないか?」

「今の話聞いてなかったの?」

「俺も手伝うから、親父だけに厨房任せて、出てくるものなんてたかが知れてる。お前、変わった料理作れるだろ?」

「変わっているとは失礼な。」


と、言いつつも厨房に入って行く。

それをレナードは見つめていた。


 「気になりますか?」

「なに、どうせ見つからずにあの三人を連れ帰る事になる。」

「そうでは無く、あのサフィという娘。選ぶ単語は綺麗だが、言葉が荒々しい。それでも、気を引くものがある。」

「まるで戦場の女神から貰った手紙のようだな。」

「城を落とされたくなければ私と結婚しろ。でしたっけ、あれには驚きましたね。」

「結局、返事はしなかったがあの歳であれだけの事をする力は欲しかったな。」


そんな話をしていたことなど、サフィの知る由も無かった。




 厨房に入り、サフィは


「凄い香辛料の量ね。」


目の前に並ぶ麻袋にてを突っ込み、一粒つまんで口に含む。


「王子様が持ってこさせたらしいが誰も使い方が解らないんだ。お前ならいけるだろ?」

「そうね。見た事無い物も多いけど…辛い!」


味見をしたのもが辛く、水を飲むサフィ。


「任せるぞ。」

「ちょっと待って」


今度はサフィがフロストを呼び留める。


「チーズ貰ってきて、あと緑黄色野菜も」

「……何それ?」

「色鮮やかな野菜ね。」


フロストは首を傾げながら倉庫に野菜を取りに行った




 数時間使い、夕食を作り上げたサフィは少しずつ村長に味見させる。


「あ、ウマい!」

「本当、良かった。」

「じゃあ、運ぶか。」

「その前にテーブル飾らないと」

「そこまでするのかよ。」


綺麗な布とお花持って来て、とフロストに頼むとサフィは隣の家に入って行った。

そこから花瓶を借りてきたのだ。


 テーブルメイクを終わらせた所で机に料理を並べていく。


 「お食事の準備が出来ました。」


王子二人と使用人が待つ部屋に入る。


「お前が作ったのか?」

「粗末なものですが」

「いや、見た目は城で出されるものと変わらないよ。」

「それは言い過ぎだろ。」


アーノルドがほめてくれたものにレナードが茶々を入れていた。






 翌日も朝から朝食を作りに雨の中宿に向かい、その後出稼ぎに行ってくれる人を探すも見つからなかった。

その後も茶菓子を作ったり、夕食を作ったりと忙しく、しかも出稼ぎに行ける人間が見つからないまま予定の二日目が終わった。


「どうしよう…」

「どうしたんだサフィ?」


老夫婦にもその息子にも話をしておらず、


「何でもない。明日の朝食どうしようかなって思って」

「王子たちは薄切りのパンで出来たサンドウィッチが好きだよ。」

「薄切りのパン?」


サフィも知らないものだった。


「今から作り方を教えるよ。」


そう言って三男が台所のかまどに火を組める。


 よく寝かせ、発酵した生地を四角い枠に入れ、焼く物だった。

それにより、今まで見た事のない厚みのある四角いパンが出来上がった。


「村でも食べられるように道具を持って帰って来てよかった。」

「じゃあ、明日借りますね。」

「ああ、」


明日の朝食後、天候が回復し次第出発するらしい王子たち。

それまでに何とか見つけなくてはならないが、もう、村人全員に聞いて回った。

その結果、全員無理があるのだからどうしようもない。






 朝からパンの焼けるいい匂いが立ち込める。

卵や野菜、肉や魚を挟み、スープが出来上がると朝食の準備はほぼ終わった。

サラダのドレッシングを調合している一人の厨房で


「お前、見つかったの?」

「はい?」


入口にレナード王子が立っていた。


「天候が回復するまでに見つけられるのか?」

「…あんなことを言っておいて申し訳ないのですが、見つける事は出来ませんでした。幼い子供や既婚者を連れて行かせるわけにはいきません。早くに結婚してしまう文化のあるこの村では無理なお話でした。申し訳ありません。」


頭を下げるサフィに


「お前はどうなんだ?」


「えっと、何が?」


「結婚しているのか?」


「いえ、私はもともと、この村の人間では無いからと、何かいい機会があったら王都にでも行って自分の家族を探せるようにとお祖父さんたちが結婚の話を断ってくれたんです。」

「相手は?」

「え、相手はフロストですが、それがどうかしたんですか?」

「いや」


そういうとレナードは厨房を出ていった。


 朝食の準備を終わらせ王子を呼びに行く。

そこに


「サフィさん」

「アーノルド王子。朝食の準備が…」

「それより、兄さんとの取引はどうなったの?」


楽しそうな笑みを浮かべながら聞かれる。


「ああ、それは私の力不足という結果になってしまいました。レナード様を怒らせてしまった様で」

「兄さんは怒りっぽくて言葉足らずだけど、誰も見つからなかったのなら、君に来てもらいたいと思っているんじゃないかな?」

「私ですか?」

「考えて置いたら?」

「はあ…?」


アーノルドはそういうと朝食の場に向かっていった。


 朝食後、片付けをして家に戻ると


「何でまた王都に戻るんだい?」

「仕方ないよ。この村の為なんだ。」

「父さん、母さん、元気でな。時々、休みを貰えたら帰って来るから」


老夫婦は泣いていた。サフィは


 「三人はここに残れます。」

「え?」


突然意気込んだサフィの声に驚いた声を出す。


「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、五年間、お世話になりました。」

「どういうことだいサフィ?」

「息子さんの代わりに私が王都に行くことになったの。」

「そんな急に⁉」

「今までありがとう」


サフィはそういうと家を飛び出した。


 珍しく、山から風が吹き付けるこの日、雲の流れは早く、海沿いで降っていても山の方向に進めばきっと晴れているだろう天気。

馬車に王子たちが乗り込んでいた。


「レナード様、アーノルド様!」


馬車の横までたどり着き、乱れた息を整える。


「なんだ。あいつらはどうした?」

「三人は来ません。」

「何?」


機嫌の悪い顔を見せるレナード。


「私が変わりにお供いたします。」

「何を言っているのか分かっているんだろうな?」

「村の娘に私以上に詳しい者はおりません。そしてあの三人も長く王都で生活している間に忘れてしまっている事も多いでしょう。適任は私かと思いますがレナード様のお目に叶えますか?」


無言のレナード。


「兄さん?」

「いいだろう。」


そっぽを向かれて言われる。


「良かったね。乗って」

「え、あ、はい。」


馬車に乗り込む。

すると


「サフィ!」


フロストが駆け寄ってくる。


「どういうことだ。」

「五年間世話になったわね。王都に行くついでで自分探しでもしてくるわ。」

「俺との結婚の話はどうなったんだよ⁉」

「そんなのとっくの昔に破棄されてるでしょ?」


 「出せ」


レナードの声で馬車が動き出す。

多くの村人が唖然と見送って行った。







誤字報告いただきありがとうごさいます!

読んでいただける方がいてうれしくて泣きそうな反面、

漢字力がなくて本当に申し訳ない気持ちです。

今後もよろしくお願いします!!

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