グラソン後輩に相談される
グラソンは、オパール公爵家特有の銀髪を靡かせ王城の廊下を歩いていた。書類を各所へ配っていると声がかけられた。
「グラソン先輩!」
灰色の騎士服に身を包んだ少年がいた。少年は、長めの黒髪を赤いリボンでくくり栗色の瞳はきらきらと輝いている。これから成長するのであろう小柄な感じが可愛いらしい。
そして少年の表情は、明るくグラソンに会えて嬉しいと書いてあるようだ。
「セルヴォ、王城内では静かになさい。ここは訓練場ではないのですよ」
ミュスクル・ド・セルヴォは、ミュスクル伯爵家の次男でグラソンの通った学園の後輩であり剣術部の後輩でもあった。
グラソンの剣術は、近衛からスカウトされるほどであったためにセルヴォが一方的にグラソンに懐いていた。
「はい、グラソン先輩」
「ところで君は、今訓練中ではないのですか。ここは見習いがうろうろする場所ではありませんよ」
「休憩中にグラソン先輩を見つけたのでちょっと聞きたいことがあったんです」
「なんですか」
「ネージュは、まだ体調不良が治りませんか」
「まだかかりますね。それだけですか」
「あと……先輩に恋愛相談してもいいですか」
「頼る人間を間違えています。私にそんな相談されても困りますので失礼します」
グラソンは、会釈すると早足で逃げようとしたがセルヴォは上着を捕まえて離さない。
「騎士の先輩に言ったら怒られるし! 兄弟は絶対余計なことまで聞くし、親には絶対にバレたくないんです! お願いします。せめて話だけ」
「仕方ない。話だけですよ。だからその手を離しなさい。馬鹿力の君が掴んだら破けます」
離せと言ったのにも関わらずセルヴォは、グラソンの上着を掴んだままだった。
「俺ずっと好きな女の子がいるんです。真面目で一生懸命で大事な人をちゃんと思いやれる本当にいい女の子なんですけど。何をしたかわからないけど俺……嫌われてると思います。でも忘れたくないくらい好きなんです」
「君は……ネージュが好きなんだな」
グラソンから微笑と目の光が消える。妹のこととなると暴走するのでセルヴォは、掴んでいた服を離した。文房具のペンであろうとグラソンが持つと凶器であり、顔が整っているため迫力が違った。
「ペン下ろして先輩! ネージュじゃないですって」
「真面目で一生懸命で大事な人を思いやれる女の子といったらネージュでしょう」
「彼女とは5歳差なので違います。ネージュは同級生です!」
「セルヴォ君、君より5歳上というと相手は23歳となるが恥ずかしがっている場合ですか。嫁ぎ遅れている歳だから嫁いでしまうのでは」
何らかの事情がない限り貴族女性は、20歳になる前に嫁いでしまう。政治や家、本人の問題などで嫁がないもしくは嫁げない女性もいるがレアケースである。
「まだ嫁がないと思うけど会えないからどうしようかって」
「何も考えず突撃するのが君の持ち味でしょう。それで不安なら手紙でも送りなさい」
グラソンは、相手の女性がネージュでないのなら特に気にしない。しかし少しばかり可哀想なので直接会うことがないようにセルヴォに手紙という間接的な連絡手段を提案した。
「手紙か……。やってみる」
「私も忙しいのでこの件でまた呼びとめないように」
「グラソン先輩ありがとうございます」
グラソンは、今度こそ書類を持ってその場を後にしたのだった。