ローズは王子に囁かれる
学園の庭の片隅で赤毛の少女がベンチに腰掛け本を読んでいる。彼女の名前は、オブシディアン・ド・ローズ男爵令嬢で転生者でもあった。
現在夕方であり普段なら予定があり帰宅する彼女がここにいるのは、目的があったからだった。
「ローズ最近調子が悪いようだが何か心配ごとでもあるのかな」
本から目線を上げると、夏の日差しを集めて紡いだような鮮やかな金髪に雨上がりの秋空のような透き通った青い瞳の美青年がいた。
「シュバルファン殿下、心配ごとというのはオパール様のことなのです。ご病気で領地に戻られているとのことでしたので体調は大丈夫かと」
「あんなにいじめられていたのにローズは優しいね。命に別状はないけど肺の病気らしいから領地の方がいいってことらしいね。…ひどいかもしれないけど僕は、ローズがオパールに虐められない環境になってよかったと思ってしまうんだ」
青い瞳が少し潤みローズを見つめる。ローズの頬と耳が髪と同じ赤に染まり俯いた。
「シュバルファン殿下ちっ、近いです」
「ごめんね。君はすぐ下を向いてしまうからつい追ってしまうんだ」
「……」
本日も推しが尊いとローズは、鼻と胸を押さえる。色々ゴリゴリ削られるがそれ以上に得るものが大きい。
「ローズ」
「殿下は、いじわるです……」
「僕は、ただ君を見ているだけなのにおかしなことを言うんだね」
シュバルファン殿下は、胸元を押さえていた手をとり口付けた。ローズは、手から熱が広がりまるで熱中症のように頭がくらくらしてくる。
「殿下は、オパール様の婚約者でしょう? こんなところを見られたら殿下の立場が悪くなってしまいます」
「言わせておけばいい」
そういうと唇が弧を描きいたずらに成功した少年のような表情を浮かべる。
「と、これ以上は本当に困らせそうだからやめておくね。また明日、ローズ」
「はっ、はい! またです」
ローズは、去っていく背中を名残惜しげに見ていた。
これはゲームのスチルであった場面でありこのためにローズは、わざわざ残っていたのだった。
王子がチョロいとローズは言っていたが、たぶん一番チョロいのはローズである。